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第二話
迷宮からの来訪者。
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《side 鼠人族の少女ミミ》
私はたくさんの兄弟姉妹たち、家族と共に一緒に暮らしています。
ですが、それは暗くて汚くて、お世辞にも住みやすい場所ではない迷宮の中で暮らしています。
私たち鼠人族にとっては、それが当たり前だった。生まれ、育ち、そして死んでいくまで、この迷宮から外に出ることはほとんどないのです。
私の名前はミミ。鼠人族の少女で。年齢は十六歳、でも外の世界ではそれがどういう意味を持つのかほとんど知らなかった。だって、私たちは迷宮の住人で、外の光や風を浴びることなく、ただこの薄暗い世界で生きていくだけの存在なのと爺様が言っていたのです。
迷宮は私たちの家であり、すべてだった。
無数の通路が交差し、広大な空間が広がるこの地下には、古代の遺跡や流れ続ける水脈、そして魔力の残滓が渦巻いている。
それは壮大で神秘的だけれど、時には恐ろしいものでもあった。
そんな迷宮を管理し、共に生きていく鼠人族の生活は決して楽ではない。地上の者たちからは「穴倉の鼠」だとか「迷宮のゴミ掃除屋」と嘲笑される。
私たちは迷宮の監視をするだけの存在で、学園都市の地上で権利や平等を語ることなど許されない。
「鼠人族なんていなくてもいい」
「ただの獣以下の存在」
そんな言葉を何度聞いてきただろう。私たちの仲間が地上に出れば、必ず虐げられる。それが当然だという風潮に抗う力は、私たちにはなかった。
迷宮の中では、食べ物すら簡単には手に入らない。
地上から持ち込まれるわずかな配給や、迷宮内で自ら育てたキノコ、そして魔力を含む苔や草を食べてしのいできた。
水は豊富にあるけれど、それだけでは命を繋ぐことはできない。
「このまま迷宮で死んでいくんだろうな……」
それが私たちの運命だと、誰もが信じて疑わなかった。そんな生活に希望を見いだすことなんてできなかった。
それでもある日、私たちの生活に一筋の光が差し込んだ。
彼がやってきたのだ。
その日、迷宮を歩き回っていると、初めて見る人間が鼠人族のお爺さんと話をしていた。若い男性で、端正な顔立ちをしている。
貴族らしい高貴な雰囲気がありながら、どこか気取らず、親しみやすそうな笑顔を浮かべていた。
「へぇ~、迷宮ってすごいですね。あなた方がこれを管理しているなんて、尊敬します」
人間が私たちを尊敬するだなんて信じられなかった。誰もが私たちを軽蔑し、見下すのに。
「酒と食料を持ってきたので、みんなでどうぞ」
彼が魔法で空間から取り出したのは、目を見張るほど大量の食料だった。肉、パン、果物、そして香ばしい匂いのするお酒。私たちが普段口にすることのないご馳走が、そこにはあった。
「本当にいいのか?」
鼠人族の仲間たちは恐る恐る尋ねる。罠じゃないかと疑っているのだろう。
「もちろんですとも。僕はただ、学園都市の迷宮がどういう場所なのか知りたかっただけです。そのお礼ですよ」
「「「うおおお!」」」
仲間たちは歓声を上げ、彼の持ってきた酒や食料に群がった。私もそれを眺めながら、少しずつ近づいていった。
「……あなたは誰ですか?」
気づいたら、声をかけていた。自分でも驚いた。こんな高貴そうな人間に話しかけるだなんて、鼠人族の私がするべきことじゃないはずなのに。
「僕はフライ・エルトール。学園都市の学生です。こうして迷宮に来たのは、興味本位ですよ」
「興味……本位?」
「そう。迷宮の管理をする鼠人族の皆さんがどんな暮らしをしているのか、知りたくてね。それに、学園都市で仲良くなれる相手がいたら嬉しいじゃないですか」
彼の言葉に、心が揺れた。
私たちは地上の人間と仲良くなれるはずがない。そんなことは幻想だと思っていた。それなのに、この人は私たちを見下すどころか、興味を持ち、敬意すら払ってくれている。
「……どうしてそんなことを?」
「え?」
「私たちは、あなたのような人間から見れば、ただの穴倉の鼠です。それをどうして、尊重してくれるんですか?」
「うーん、別に理由はないかな」
「え?」
彼は笑い続けた。
「迷宮を管理するって、凄く大変じゃないですか? 神経をすり減らして、あなたたちがいるから、迷宮の秩序は守られている。感謝しても、バカにする理由にはならない」
その言葉が胸に響いた。
その日から、彼の存在は私たち鼠人族の間で英雄のように語られるようになった。
「フライという人間、ただ者じゃないな」
「鼠人族に対してあそこまで優しい人間は初めてだ」
「また来てくれるといいな」
私も彼の言葉を何度も思い出した。あの柔らかい笑顔と、私たちを差別せず、同じ存在として扱ってくれる彼の姿が、胸の中で大きくなっていく。
いつか、あんな人間のようになれたら、そう思う自分がいることに気づいた。
迷宮の中で死んでいくだけだと思っていた人生が、少しだけ明るく見えるようになった。
「爺様。私、フライ・エルトールの側にいたい」
「うむ、そうじゃな。あの方は我々を友だと言ってくれた。その使者をミミ、お主に頼もうか」
「いいの?」
自由なんて夢物語だと思っていたけど、彼のような人間がいるなら、私たちも自由になれるかもしれない。
「ミミ、我々はどこにいても仲間じゃ。じゃが、彼のような優しい人間は多くない。酷い者たちもたくさんいるじゃろう。それでもいけるか?」
「うん、頑張ってみる」
「うむ。ならば行くがいい。ミミ、幸せになることを願っておるぞ」
「はい!」
私は迷宮を出た。学園都市にあるフライ・エルトールの屋敷に向かう。
道は迷わない。私たちは迷宮の道を覚えるのが仕事だから。
道先案内は得意なんだ。
私はたくさんの兄弟姉妹たち、家族と共に一緒に暮らしています。
ですが、それは暗くて汚くて、お世辞にも住みやすい場所ではない迷宮の中で暮らしています。
私たち鼠人族にとっては、それが当たり前だった。生まれ、育ち、そして死んでいくまで、この迷宮から外に出ることはほとんどないのです。
私の名前はミミ。鼠人族の少女で。年齢は十六歳、でも外の世界ではそれがどういう意味を持つのかほとんど知らなかった。だって、私たちは迷宮の住人で、外の光や風を浴びることなく、ただこの薄暗い世界で生きていくだけの存在なのと爺様が言っていたのです。
迷宮は私たちの家であり、すべてだった。
無数の通路が交差し、広大な空間が広がるこの地下には、古代の遺跡や流れ続ける水脈、そして魔力の残滓が渦巻いている。
それは壮大で神秘的だけれど、時には恐ろしいものでもあった。
そんな迷宮を管理し、共に生きていく鼠人族の生活は決して楽ではない。地上の者たちからは「穴倉の鼠」だとか「迷宮のゴミ掃除屋」と嘲笑される。
私たちは迷宮の監視をするだけの存在で、学園都市の地上で権利や平等を語ることなど許されない。
「鼠人族なんていなくてもいい」
「ただの獣以下の存在」
そんな言葉を何度聞いてきただろう。私たちの仲間が地上に出れば、必ず虐げられる。それが当然だという風潮に抗う力は、私たちにはなかった。
迷宮の中では、食べ物すら簡単には手に入らない。
地上から持ち込まれるわずかな配給や、迷宮内で自ら育てたキノコ、そして魔力を含む苔や草を食べてしのいできた。
水は豊富にあるけれど、それだけでは命を繋ぐことはできない。
「このまま迷宮で死んでいくんだろうな……」
それが私たちの運命だと、誰もが信じて疑わなかった。そんな生活に希望を見いだすことなんてできなかった。
それでもある日、私たちの生活に一筋の光が差し込んだ。
彼がやってきたのだ。
その日、迷宮を歩き回っていると、初めて見る人間が鼠人族のお爺さんと話をしていた。若い男性で、端正な顔立ちをしている。
貴族らしい高貴な雰囲気がありながら、どこか気取らず、親しみやすそうな笑顔を浮かべていた。
「へぇ~、迷宮ってすごいですね。あなた方がこれを管理しているなんて、尊敬します」
人間が私たちを尊敬するだなんて信じられなかった。誰もが私たちを軽蔑し、見下すのに。
「酒と食料を持ってきたので、みんなでどうぞ」
彼が魔法で空間から取り出したのは、目を見張るほど大量の食料だった。肉、パン、果物、そして香ばしい匂いのするお酒。私たちが普段口にすることのないご馳走が、そこにはあった。
「本当にいいのか?」
鼠人族の仲間たちは恐る恐る尋ねる。罠じゃないかと疑っているのだろう。
「もちろんですとも。僕はただ、学園都市の迷宮がどういう場所なのか知りたかっただけです。そのお礼ですよ」
「「「うおおお!」」」
仲間たちは歓声を上げ、彼の持ってきた酒や食料に群がった。私もそれを眺めながら、少しずつ近づいていった。
「……あなたは誰ですか?」
気づいたら、声をかけていた。自分でも驚いた。こんな高貴そうな人間に話しかけるだなんて、鼠人族の私がするべきことじゃないはずなのに。
「僕はフライ・エルトール。学園都市の学生です。こうして迷宮に来たのは、興味本位ですよ」
「興味……本位?」
「そう。迷宮の管理をする鼠人族の皆さんがどんな暮らしをしているのか、知りたくてね。それに、学園都市で仲良くなれる相手がいたら嬉しいじゃないですか」
彼の言葉に、心が揺れた。
私たちは地上の人間と仲良くなれるはずがない。そんなことは幻想だと思っていた。それなのに、この人は私たちを見下すどころか、興味を持ち、敬意すら払ってくれている。
「……どうしてそんなことを?」
「え?」
「私たちは、あなたのような人間から見れば、ただの穴倉の鼠です。それをどうして、尊重してくれるんですか?」
「うーん、別に理由はないかな」
「え?」
彼は笑い続けた。
「迷宮を管理するって、凄く大変じゃないですか? 神経をすり減らして、あなたたちがいるから、迷宮の秩序は守られている。感謝しても、バカにする理由にはならない」
その言葉が胸に響いた。
その日から、彼の存在は私たち鼠人族の間で英雄のように語られるようになった。
「フライという人間、ただ者じゃないな」
「鼠人族に対してあそこまで優しい人間は初めてだ」
「また来てくれるといいな」
私も彼の言葉を何度も思い出した。あの柔らかい笑顔と、私たちを差別せず、同じ存在として扱ってくれる彼の姿が、胸の中で大きくなっていく。
いつか、あんな人間のようになれたら、そう思う自分がいることに気づいた。
迷宮の中で死んでいくだけだと思っていた人生が、少しだけ明るく見えるようになった。
「爺様。私、フライ・エルトールの側にいたい」
「うむ、そうじゃな。あの方は我々を友だと言ってくれた。その使者をミミ、お主に頼もうか」
「いいの?」
自由なんて夢物語だと思っていたけど、彼のような人間がいるなら、私たちも自由になれるかもしれない。
「ミミ、我々はどこにいても仲間じゃ。じゃが、彼のような優しい人間は多くない。酷い者たちもたくさんいるじゃろう。それでもいけるか?」
「うん、頑張ってみる」
「うむ。ならば行くがいい。ミミ、幸せになることを願っておるぞ」
「はい!」
私は迷宮を出た。学園都市にあるフライ・エルトールの屋敷に向かう。
道は迷わない。私たちは迷宮の道を覚えるのが仕事だから。
道先案内は得意なんだ。
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