お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。

イコ

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第三章

それぞれの戦い 終

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《side アイス王子》

 目を覚ますと、世界が霞んで見えた。

 視界に入るのは崩れた陣地と、倒れ伏す兵士たちの姿だった。自分の体は重く、痛みが全身を覆っている。

「ここは……どこだ……」

 口から出た声は、かすれきっていた。自分の体は酷く痛む。記憶を手繰り寄せようとするが、戦場の混沌しか思い出せない。

「目が覚めたか、アイス王子」

 低く響く声が耳に届く。

 視線を向けると、竜人族のリーダー、エスカルーデが傷だらけの体を引きずりながら立っていた。彼の目には、失望と同時に敬意の色も含まれていた。

「我々は敗北しました……だが、素晴らしい戦いだった」

 彼は武人だ。私の敗北とは意味合いが異なる。

 彼は思うだろう。強い者と拳を交えて、気持ちよく敗北をしたと……。

 私は思う。策略が通じなくて、敗北した。

 いや、私は策を講じる前に、何もできなかった。

「すまぬな、アイス王子よ。貴殿の役に立てなくて」

 胸が重くなる。敗北。

 その言葉の意味が、体の隅々にまで染み込むようだった。

「敗北、か……そうか、私は……負けたのか」

 敗北という現実を受け入れるたびに、心の中で何かが砕ける音がした。

 これまで築き上げてきた誇り、信念、そして未来への希望。それらが次々と崩れ落ちていく。

 何よりもブライド皇子に敗北したことが、どうしようもないほどに狂おしい。

「俺は……何をしていたんだ……」

 自分の中に何もない。ただ虚無だけが広がっている。

「王子、貴殿を誤解していた」
「えっ?」

 エスカルーデの声が、深い闇の底に沈みかけていた私を引き戻す

「貴方が敗北したとしても、我々は貴方を友と認めよう! 竜人族は貴方と共にある!」
「共に、だと……?」

 その言葉が耳に届いた瞬間、心の奥底から鋭い痛みが湧き上がった。それは自分自身を否定するような痛み。自分の存在意義を否定されるような感覚だった。

「そんなことを言われても、もう何も残っていない……」

 その時、胸に異変が走った。

 心臓が高鳴り、全身に冷たい風が巻き起こるような感覚が広がる。

「これは……」

 胸に浮かび上がった紋様。

「なっ?! 貴殿は聖痕に選ばれたのか?!」
「聖痕?」
「そうだ。それは「聖痕」と呼ばれるものだ。世界の理に逸脱した力を得られるという。だが、それは神に選ばれた証とも言われているんだ」
「私が、神に選ばれた存在?」

 冷たい輝きを放つそれにどんな意味があるのか、正直わからない。

 エスカルーデがその光を目にし、驚愕の表情を浮かべる。

「……貴方が選ばれし存在である証に間違いない!」

 エスカルーデは膝をつき、深々と頭を下げた。

 その姿を見て、私は不思議な感覚に包まれる。

 絶望の中にいたはずの自分が、再び何かに導かれる感覚。

 それは新たな力と宿命を手にした証だった。

「選ばれし存在……そうか、私はまだ終わっていないのか」

 私は胸の聖痕を見つめ、かすかに笑みを浮かべた。それは力への喜びというよりも、運命への皮肉だった。

「アイス王子、これからどうされるのですか?」

 エスカルーデが静かに尋ねる。その声には忠誠心が滲んでいた。

「どうする、か……正直に言えばわからない」

 クラウン・バトルロワイヤルの結果。

 1位は海人族、2位はブライド皇子、そして3位はフライ・エルトールのローズガーデン。

 その輝かしい結果を耳にした瞬間、胸の奥に鈍い痛みが広がった。

「勝者たちは輝いているだろうな。だが、その輝きはすぐに消える……」

 私はゆっくりと立ち上がり、エスカルーデを見つめた。

「エスカルーデ、私はこの力を使い、正義の道を歩むつもりだ」
「正義の道ですか?」
「そして、この世界そのものを救ってみせる。狂った存在になど破壊させない。私が輝きを放ち、影を永遠に葬り去る」

 エスカルーデは一瞬躊躇したが、すぐに頷いた。

「……我々、竜人も、貴方の力に従います。それが我々の誇りです」
「ありがとう、エスカルーデ」

 クラウン・バトルロワイヤルの表彰式。

 勝者として壇上に立つアクアリス・ネプチューナの姿を、私は遠くから見つめていた。

 ブライド・スレイヤー・ハーケンスを倒し、フライ・エルトールの上に立った女性はとても美しい。

 だが、歓声と称賛が彼女に降り注いだとしても、意味はない。

 その光景を見つめて、私は微笑みを浮かべた。

「勝者は舞台を降りた後、すぐに消える。だが、私の影は消えない。影の中にいて、新たな力を得られた。この世界を救ってみせる」

 私は背を向け、エスカルーデと共にその場を去る。

 私の目には、冷たく、深い闇が宿ったのかも知れない。

 だが、それは世界を救うのに必要な力を得た者として、使命を感じていたからだ。

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