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プロローグ
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「パーレンヴィア・ハザンテール公爵令嬢!貴女との婚約はこの時をもって破棄する!」
突然の大声とあり得ない内容に、私は、表情を取り繕うことも扇で顔を隠すことも忘れて、ポカンと声の主、私の婚約者であり、この国の王太子であるヴィンザルク殿下を見つめてしまった。彼の隣には隣国の第3王女殿下が、彼の腕に自分の腕を絡みつかせてその豊満な胸を押し当てている。後ろには殿下の側近候補たちが王女殿下を守るように取り巻いていた。その中には私の義弟もいる。ここは、キャンダル王国の王宮。今日は王立キャンダル魔法学園の卒業生を祝うため、国王陛下主催の夜会が開かれている。その祝宴の最中に突然、相応しくない怒鳴り声が響いたのだから、ざわざわとしていた会場は一瞬でシーンと静まりかえり、こちらを注目している。
「ヴィンザルク殿下、気まで狂いましたか?」
あまりにも常軌を逸した宣言に、私が婚約者の正気を疑ったのは仕方ないだろう。そもそも貴族社会での婚約は、家同士の契約であり、家長がその権限を有している。たとえ王太子であろうとも勝手にそれを無にすることは出来ない。まして、私に何の非もないのに破棄などと、いったいどんな戯れ言か。
「王太子殿下に対して不敬だぞ!パーレンヴィア」
取り巻きのひとり。あれは、騎士団長の次男、名前はギラハルム・クラヴィオスだったか。声ばかりが大きいお山の大将。伯爵令息の分際で公爵令嬢の私を名前で呼び捨てとは恐れ入る。
「そういう貴方の方が無礼ではございませんこと?このようなお目出度い場で、私的な、しかもわたくし達の一存ではどうにもならないことを声高に叫ぶ方の正気を疑うなという方が無理ですわ。王太子殿下の、いいえ、我が国の醜聞となり得るこの事態を側近の方々は何故お止めにならないのでしょう?」
無能ばかりの後ろの集団に呆れと侮蔑の視線を投げてしまうのは当然の成り行きだ。周りも呆れ顔でその通りだと頷いている。
「これは!!!そもそも貴女が!!!殿下に、いいえ、王妃という地位にいつまでもしがみついた結果でしょう!」
これは宰相閣下の三男だったか?オスナール・ナーザルム侯爵令息。口だけの詐欺師。たしか、優秀な長男と第1王子殿下の側近候補である努力家の次男が居たはずだ。
「何のことでしょうか?わたくしは王命に従い殿下の婚約者であるのですが、その王命が取り消されたのですか?いつ?」
あまりのことに驚きが隠せない。それが事実ならどれほど嬉しいか。王命でなければ、王命が廃されれば、私は・・・・。溢れてくる想いを抑えるようにグッと拳を握った。この婚約は、先の王妃様のゴリ押しで成立した、第2王子を王太子とするための政略なのだから。
「グゥゥゥゥゥ!貴女という人は!」
オスナール様は顔を真っ赤にしているが、私にとっては重要なことだ。王命が廃されたのに婚約者を騙るなど家が取り潰されても仕方のない所業なのだ。
「義姉上。貴女は殿下のお心を察することも出来ない出来損ないだという自覚はおありですか?」
私が殿下の婚約者となり、家を継ぐ者が居なくなった公爵家の跡取りとして、叔父様の次男で私と同い年の彼、キーレンギルムが引き取られてきた。私が11歳の時のこと。次期侯爵となる兄よりも上の爵位を得ることは彼の自尊心を大いに満たし、大人の目のないところで実兄を馬鹿にしていたのを私は知っている。不遜で傲慢と言う言葉がこれほど似合う男もいないだろう。魔力量だけのナルシスト。
「学園で、婚約者でもない女生徒と、公衆の面前で、過度な触れ合いをして、風紀を乱していた方のお心など、私の常識とはかけ離れすぎて無理ですわ」
隣国の第3王女殿下とベタベタと人目も憚らず抱き合い、口付けを交わすような人の心を慮れとは。露出狂なのかもしれないが、それをずっと見せられてきた学園の生徒は、侮蔑を隠すことなく5人を見ている。
「愛する者に触れたいと思うのは人として当然だろう」
当たり前のことを聞くなと言わんばかりの王太子殿下に、後ろの3人が頷いて同意しているが、何に対する同意なのか聞いてみたい。
「この国は一夫一婦制ですわよ?」
「そんなこと、言われなくても知っています!」
「我らにそのような下衆な感情などない!」
「私達の崇高な想いを穢すような真似をして愉しいですか!義姉上!」
いえ、でも・・・・。二人きりの時はお楽しみでしたよね?
「ともかく、そのようなお話は王命を下した国王陛下と父であるハザンテール公爵を通してお願い致します。わたくしに決定権はございません」
この鬱陶しいやりとりの間、私は元凶の5人をずっと観察していた。何処までが彼らの本心なのか、を見極めたかった。過去の行いから、何処までも本音のような気もするが、それでもやはり第3王女殿下の影響が彼らの本質を悪化させ助長しているのは明らかだ。彼女は魅了の力の持ち主であり、自国で既に多々やらかしているという前科がある。それでも、娘可愛さに隣国の国王陛下は何だかんだと理由をつけ曖昧に濁し、罪に問われるはずの彼女をこの国に寄越した。その思惑は・・・。国の力関係上、受け入れるしかなかった我が国の国王陛下は、学園の生徒に彼女の所業を周知し、魅了を撥ね返す魔道具を彼女に接するであろう全員に持たせたのだ。それなのに・・・・。まんまと隣国の思惑に嵌まる馬鹿が居た。それがこの国の将来を担う王太子殿下とその側近候補達とは・・・・。
「ハルク」
私は、エスコートを望めない婚約者の代わりにその役を買って出て、ずっと隣にいてくれる大切な幼馴染みの名前を呼んだ。
「分かった」
それだけで、彼は私が何を言いたいのか、何をするつもりなのか分かってくれる。苦しそうに顔を歪めながらも、私の決断を尊重してくれた。彼が辛そうに私を見るのは、私に大きな負担が降りかってくるのを知っているから。そんな彼に感謝を込めて微笑むと、私は私だけが持つ固有のスキルを発動した。
・・・・ずっとあなただけを愛してる
私の持つこの特殊な固有スキルの代償は命。だから、出来れば一生使いたくはなかった。魔道具で防げるのだから、この魔法に使う予定ではなかったのだ。が・・・・。
私の意識が刈り取られる寸前、声には出さずに呟いた言葉は彼に届いただろうか。
突然の大声とあり得ない内容に、私は、表情を取り繕うことも扇で顔を隠すことも忘れて、ポカンと声の主、私の婚約者であり、この国の王太子であるヴィンザルク殿下を見つめてしまった。彼の隣には隣国の第3王女殿下が、彼の腕に自分の腕を絡みつかせてその豊満な胸を押し当てている。後ろには殿下の側近候補たちが王女殿下を守るように取り巻いていた。その中には私の義弟もいる。ここは、キャンダル王国の王宮。今日は王立キャンダル魔法学園の卒業生を祝うため、国王陛下主催の夜会が開かれている。その祝宴の最中に突然、相応しくない怒鳴り声が響いたのだから、ざわざわとしていた会場は一瞬でシーンと静まりかえり、こちらを注目している。
「ヴィンザルク殿下、気まで狂いましたか?」
あまりにも常軌を逸した宣言に、私が婚約者の正気を疑ったのは仕方ないだろう。そもそも貴族社会での婚約は、家同士の契約であり、家長がその権限を有している。たとえ王太子であろうとも勝手にそれを無にすることは出来ない。まして、私に何の非もないのに破棄などと、いったいどんな戯れ言か。
「王太子殿下に対して不敬だぞ!パーレンヴィア」
取り巻きのひとり。あれは、騎士団長の次男、名前はギラハルム・クラヴィオスだったか。声ばかりが大きいお山の大将。伯爵令息の分際で公爵令嬢の私を名前で呼び捨てとは恐れ入る。
「そういう貴方の方が無礼ではございませんこと?このようなお目出度い場で、私的な、しかもわたくし達の一存ではどうにもならないことを声高に叫ぶ方の正気を疑うなという方が無理ですわ。王太子殿下の、いいえ、我が国の醜聞となり得るこの事態を側近の方々は何故お止めにならないのでしょう?」
無能ばかりの後ろの集団に呆れと侮蔑の視線を投げてしまうのは当然の成り行きだ。周りも呆れ顔でその通りだと頷いている。
「これは!!!そもそも貴女が!!!殿下に、いいえ、王妃という地位にいつまでもしがみついた結果でしょう!」
これは宰相閣下の三男だったか?オスナール・ナーザルム侯爵令息。口だけの詐欺師。たしか、優秀な長男と第1王子殿下の側近候補である努力家の次男が居たはずだ。
「何のことでしょうか?わたくしは王命に従い殿下の婚約者であるのですが、その王命が取り消されたのですか?いつ?」
あまりのことに驚きが隠せない。それが事実ならどれほど嬉しいか。王命でなければ、王命が廃されれば、私は・・・・。溢れてくる想いを抑えるようにグッと拳を握った。この婚約は、先の王妃様のゴリ押しで成立した、第2王子を王太子とするための政略なのだから。
「グゥゥゥゥゥ!貴女という人は!」
オスナール様は顔を真っ赤にしているが、私にとっては重要なことだ。王命が廃されたのに婚約者を騙るなど家が取り潰されても仕方のない所業なのだ。
「義姉上。貴女は殿下のお心を察することも出来ない出来損ないだという自覚はおありですか?」
私が殿下の婚約者となり、家を継ぐ者が居なくなった公爵家の跡取りとして、叔父様の次男で私と同い年の彼、キーレンギルムが引き取られてきた。私が11歳の時のこと。次期侯爵となる兄よりも上の爵位を得ることは彼の自尊心を大いに満たし、大人の目のないところで実兄を馬鹿にしていたのを私は知っている。不遜で傲慢と言う言葉がこれほど似合う男もいないだろう。魔力量だけのナルシスト。
「学園で、婚約者でもない女生徒と、公衆の面前で、過度な触れ合いをして、風紀を乱していた方のお心など、私の常識とはかけ離れすぎて無理ですわ」
隣国の第3王女殿下とベタベタと人目も憚らず抱き合い、口付けを交わすような人の心を慮れとは。露出狂なのかもしれないが、それをずっと見せられてきた学園の生徒は、侮蔑を隠すことなく5人を見ている。
「愛する者に触れたいと思うのは人として当然だろう」
当たり前のことを聞くなと言わんばかりの王太子殿下に、後ろの3人が頷いて同意しているが、何に対する同意なのか聞いてみたい。
「この国は一夫一婦制ですわよ?」
「そんなこと、言われなくても知っています!」
「我らにそのような下衆な感情などない!」
「私達の崇高な想いを穢すような真似をして愉しいですか!義姉上!」
いえ、でも・・・・。二人きりの時はお楽しみでしたよね?
「ともかく、そのようなお話は王命を下した国王陛下と父であるハザンテール公爵を通してお願い致します。わたくしに決定権はございません」
この鬱陶しいやりとりの間、私は元凶の5人をずっと観察していた。何処までが彼らの本心なのか、を見極めたかった。過去の行いから、何処までも本音のような気もするが、それでもやはり第3王女殿下の影響が彼らの本質を悪化させ助長しているのは明らかだ。彼女は魅了の力の持ち主であり、自国で既に多々やらかしているという前科がある。それでも、娘可愛さに隣国の国王陛下は何だかんだと理由をつけ曖昧に濁し、罪に問われるはずの彼女をこの国に寄越した。その思惑は・・・。国の力関係上、受け入れるしかなかった我が国の国王陛下は、学園の生徒に彼女の所業を周知し、魅了を撥ね返す魔道具を彼女に接するであろう全員に持たせたのだ。それなのに・・・・。まんまと隣国の思惑に嵌まる馬鹿が居た。それがこの国の将来を担う王太子殿下とその側近候補達とは・・・・。
「ハルク」
私は、エスコートを望めない婚約者の代わりにその役を買って出て、ずっと隣にいてくれる大切な幼馴染みの名前を呼んだ。
「分かった」
それだけで、彼は私が何を言いたいのか、何をするつもりなのか分かってくれる。苦しそうに顔を歪めながらも、私の決断を尊重してくれた。彼が辛そうに私を見るのは、私に大きな負担が降りかってくるのを知っているから。そんな彼に感謝を込めて微笑むと、私は私だけが持つ固有のスキルを発動した。
・・・・ずっとあなただけを愛してる
私の持つこの特殊な固有スキルの代償は命。だから、出来れば一生使いたくはなかった。魔道具で防げるのだから、この魔法に使う予定ではなかったのだ。が・・・・。
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