不憫な貴方を幸せにします

紅子

文字の大きさ
14 / 17

真実とは奇なり

しおりを挟む
貴賓室には既に陛下がひとり座して、後ろに控えている近衛の団長と談笑していた。

「よく来たな」

「私はこれで。扉の外で控えております」

私たちと入れ替わりに近衛の団長が部屋から出て行った。紅茶を飲みながら寛ぐ陛下だが、こちらに、と言うよりはグランに視線を寄越そうとはしない。

「遅くなりました」

「お初にお目にかかります。シャンピーニ伯爵が息女ベルティナと申します。お見知りおきくださいませ」

デビュタントも済ませていない私は陛下とは初対面になる。

「そんなに堅くならずともよい。これは私的なものだ。楽にしてかまわん」

「父上!どうしてこの者と時間をお取りになるのですか?!」

「自分の息子と会う時間を取って何が悪い?」

その言葉にグランが息を飲んだ。

「息子って!確かにそうかもしれませんが、母上はよく思われませんよ。父上だってそうでしょう?」

「王妃がどう思っていようとも、グランバートルは間違いなく私の息子だ。先祖返りなのだよ」

その言葉を口にすると同時に、陛下は遠い目をして何処か彼方を見つめた。

「先祖、返り?」

エルフィント殿下とライオネル殿下は訝しげな顔をした。

「まあ、座れ」

私はグランの横に腰を下ろした。さすがにグランも膝に乗せようとはしなかった。一瞬、手が出たけどね!エルフィント殿下とライオネル殿下はそれぞれひとり掛けのソファーに座った。

「どこから話そうか。その前に、グランバートルよ。選んだのだな?」

「はい。お許しいただけますか?」

「やはり、そうか。許すもなにも、これは宿命だ。そうだな。私は祖父から聞いた話なのだが、祖父の祖父。私から数えて5代前の国王の弟の話だ」

当時の国王の弟にあたる王弟は、グランバートルと同じく先祖返りであり、とても醜かった。ただひとりの少女を除いては、誰ひとり彼に近づけるものはいなかったそうだ。ふたりは端から見ても仲がよく、常に一緒にいた。が、その少女はたいそう美しく、多くの男性の憧れであり、王弟の伴侶となることに納得がいかないものも多かった。兄である国王も例外ではなく、国王の権限を振りかざして、守護精霊の静止を振り切りその花を無理矢理に手折った。少女は、悲しみと絶望からその場で命を絶ったという。それを知った王弟は怒り狂い、国王を害しただけでなく、この世界に満ちる魔力を根こそぎ奪ってから、少女の後を追った。そして、王弟が亡くなると同時に守護精霊は全て神界に帰って行ったそうだ。我々は神の怒りに触れたのだよ。

「父上はこの者が神だと仰るのですか?」

「私たちのルーツを知っているか、エルフィントよ」

「昔に滅びた龍の末裔ということでしょうか」

「この世界で龍は神の使いと言われていたのだ。我ら人と神とを結び、人を愛し人に寄り添う気高き種族と言い伝えられている」

「はい。歴史学で習いました」

「その龍はな、人型をとると・・・・、グランバートルのような容姿になったそうだ」

「まさか!」

「我々人はその龍に憧れ、伴侶となることはこの上ない誉れだった。なぜ龍がいなくなったと思う?」

「長命種故に子孫を残せなかったと習いました」

「表向きはそうだ。実際は、我々人によって神界に戻らざるを得なくなったのだ。龍の伴侶となることが誉れだと言ったな。そのために争いが絶えなくなった。森は破壊され、湖や川は濁り、悪臭を放つようになった。龍は自然と共にある種族だ。汚染されたこの世界に留まることは出来なかった。最後まで我々人を愛した龍たちは、神界に戻っても我々を見捨てることなく、守護精霊を贈ってくれるようになった。グランバートルのような龍の血が濃く出た先祖返りを守護精霊が愛するのは必然。その愛する者が害されれば?守護精霊が居なくなるのも道理だ」

「この世界はこの者が握っていると言いたいのですか?」

陛下は静かに首を横に振った。

「私たち王族には多かれ少なかれ龍の血が流れている。だから、グランバートルから発せられる強い魔力の気配にもなんとか耐えられる。その我らですら目を合わせることは出来ない。分かるか?普通の人では無理なのだ。王妃は今のグランバートルの前に立つことすら出来ないだろう」

だから、グランの近くに居る人はバタバタと倒れたのか。

「ですが、ベルティナ嬢は・・・・あっ」

「分かったか。だから、宿命なのだ。一度、神界に帰った守護精霊たちは、契約した主恋しさにそれ程時を置かずして、戻ってきてくれたし、その後の契約も行われた。だが、当時の王弟の怒りをかって薄くなった魔力が、漸く元に戻ったのは、グランバートルが産まれてからだ。それまでも徐々に戻ってはいたようだが、はっきりと分かるくらい回復したと、祖父は言っていた。2度と同じ過ちを繰り返すなともな。どうする?エルフィント、ライオネル。守護精霊を敵に回してグランバートルと争ってみるか?」

2人は、特にエルフィント殿下はきつく拳を握りしめて身体の震えを抑えようとしている。その震えが何を意味するのか。グランと戦っても勝ち目がないのは分かっているようだ。最上級守護精霊は伊達じゃない。それが4体。私は当然、グランの味方だ。

さあ、彼は、どんな答えを出すのだろう?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

文月
恋愛
 私の理想の容姿は「人形の様な整った顔」。  クールビューティーっていうの? 華やかで目を引くタイプじゃなくて、ちょっと近寄りがたい感じの正統派美人。  皆の人気者でいつも人に囲まれて‥ってのじゃなくて、「高嶺の花だ‥」って遠巻きに憧れられる‥そういうのに憧れる。  そりゃね、モテたいって願望はあるよ? 自分の(密かな)願望にまで嘘は言いません。だけど、チヤホヤ持ち上げられて「あの子、天狗になってない? 」とか陰口叩かれるのはヤなんだよ。「そんなんやっかみだろ」っていやあ、それまでだよ? 自分がホントに天狗になってないんなら。‥そういうことじゃなくて、どうせなら「お高く留まってるのよね」「綺麗な人は一般人とは違う‥って思ってんじゃない? 」って風に‥やっかまれたい。  ‥とこれは、密かな願望。  生まれ変わる度に自分の容姿に落胆していた『死んで、生まれ変わって‥前世の記憶が残る特殊なタイプの魂(限定10)』のハヅキは、次第に「ままならない転生」に見切りをつけて、「現実的に」「少しでも幸せになれる生き方を送る」に目標をシフトチェンジして頑張ってきた。本当の「密かな願望」に蓋をして‥。  そして、ラスト10回目。最後の転生。  生まれ落ちるハヅキの魂に神様は「今世は貴女の理想を叶えて上げる」と言った。歓喜して神様に祈りをささげたところで暗転。生まれ変わったハヅキは「前世の記憶が思い出される」3歳の誕生日に期待と祈りを込めて鏡を覗き込む。そこに映っていたのは‥  今まで散々見て来た、地味顔の自分だった。  は? 神様‥あんだけ期待させといて‥これはないんじゃない?!   落胆するハヅキは知らない。  この世界は、今までの世界と美醜の感覚が全然違う世界だということに‥  この世界で、ハヅキは「(この世界的に)理想的で、人形のように美しい」「絶世の美女」で「恐れ多くて容易に近づけない高嶺の花」の存在だということに‥。   神様が叶えたのは「ハヅキの理想の容姿」ではなく、「高嶺の花的存在になりたい」という願望だったのだ!   この話は、無自覚(この世界的に)美人・ハヅキが「最後の人生だし! 」ってぶっちゃけて(ハヅキ的に)理想の男性にアプローチしていくお話しです。

穏やかな日々の中で。

らむ音
恋愛
異世界転移した先で愛を見つけていく話。

処理中です...