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子にゃんこ、夜会に行く (2)
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ミリーナに嵌めた首飾りがピタリとミリーナに張り付き、見る見るうちにその皮膚と同化し、優美な姿は消え黒い刺青のようになったのだ。
事情を知る者以外が呆然とする中、アーノはにこやかに再びこう告げた。
「この首飾りは貴女にこそ相応しい」
「や、や、ななな、何なの!!!いやー!!!」
「五月蝿いですね」
アーノは叫び続けるミリーナにサイレントを掛けて黙らせた。途端に会場はシーンと水を打ったように静まり返る。詠唱もなく手足のように魔法を使う魔女の力を目の当たりにして、何かを言いかけた第3王子もその取り巻きもミリーナの義父キンバス男爵も口を閉ざした。
「この者を拘束せよ!」
王様の指示が飛ぶ。優秀な騎士たちはすぐさまミリーナを拘束し、口には猿轡を噛ませた。アーノは魔法をとき、ミリーナからは「うーうー」と音が漏れている。
「皆の者、騒がせたな。此度のランスレー公爵令嬢に我が息子とその側近が起こした騒動の一件について、魔女ファビアーノ殿の協力により詳細が判明した。本日は、その悪質かつ巧妙な手口を明らかに致す」
王様の口から明らかにされた事実に、夜会に集まった貴族たちはショックを受け驚愕の表情を見せた。その中にあっても第3王子やその取り巻き、キンバス男爵らは、床に転がされたミリーナを愛おしそうに見つめている。その光景が彼らの異常さを浮き彫りにする。他にも何人か同じような表情をしている者がいるが、ミリーナの犠牲者だろう。
「どれ程危険だと説いたところで、その目で見ぬことには信じられるものではないだろう。これよりこの場でそれを証明して見せる。キンバス男爵はこれへ」
陛下の話を聞いていたのかいないのか、キンバス男爵は臆することなく陛下の御膳に進み出た。
「キンバス男爵よ、言いおくことはあるか?」
「は。我が娘ミリーナがこんな大それた事をするわけがない。何者かに騙され操られているのです。どうか娘をお救いください」
これから自らの身に起こることをまるで理解していない発言に、得たいの知れない悪寒が身体を走った。そんな私をザムはポケットからそっと掌に乗せて優しく撫でてくれる。ちょっとホッとした。
「ハァ。魔女ファビアーノ殿、お願いします」
王様は話の通じなさそうなキンバス男爵の発言を無視して進めることにしたようだ。
「では、人である皆さんにも分かりやすいように術の解除を行うと致しましょう♪」
アーノは実に愉しそうだ。こんなこと、魔女にとっては遊びでしかない。どんなにつまらない仕事でも愉しくこなす、それが魔女の心意気。私もアーノがどんな遊びをするのかワクワクしてきた。
「まず、掌に魔力を集め、術を構築します」
アーノは殊更ゆっくりとそれを展開した。こんなの魔女にとってはなんの事はないが、貴族たち、中でも魔術師も思われる人たちは、目を見開いて食い入るように見つめている。ドン引きだ。アーノも嫌そうにその一角を一瞥している。
「次に、この術式を被験者の体内に送り込むわけですが・・・・。そうですねぇ。そこの子ネコちゃん。手伝ってください」
アーノはのんびりと見学者モードで眺めていた私をザムの掌からぷらーんと持ち上げた。周りは、え?子ネコ?なぜここに?と呆気にとられている。
「びに"ゃ!にゃにゃ。にやーん」
えっ!やだよ。ザム~。
「俺の子ネコをどうするつもりだ!」
「そんなに怖い顔をしなくても、獲って食ったりはしませんよ?」
「当たり前だ。嫌がっているだろう」
「喜んでいるんですよ。そうですよねぇ?」
アーノの笑顔が怖い。ここで違うとは言えない。言ったら何をされるか分からない。もうアーノのご飯がもらえなくなるかもしれない。
「みゃ・・・・」
はいぃ・・・・
力なく耳をペタンと倒して同意した。ザムは空になった手を淋しそうににぎにぎしている。
「さて、この術式をこの子ネコの肉球に移します。さあ、子ネコちゃん。あの男に渡してください。場所はわかりますね?では、騎士の皆さんは、キンバス男爵を拘束して子ネコがお腹に乗れるようにしてください」
私はテトテトと近づき、拘束され仰向けにされた男の腹に飛び乗った。そして、魅了が定着している股間の少し上を踏み踏みしながら、アーノの術を体内に入れていく。その光景をなんだか複雑な顔で見ているザムの顔が目に入った。こんな場所だからアーノが見た目子ネコの私を使ったのは、仕方ないと割り切れる。
「にゃー。ふにゃうにゃーん」
術式転移。定着。展開。解呪。
「うっく。うがががががが」
解呪と同時に魅了が定着していたところから光が溢れ、男爵は解呪の衝撃に悲鳴をあげた。その場所を掻きむしりたくて暴れているが、その前に私はお腹から降りてさっさとザムの掌に収まったから被害はない。この手の解呪には痛みというか痒みがすごいのだ。暫くバタバタと暴れていたが、騎士たちに拘束されていたためどうすることもできないまま、解呪が終わった。すると一転してキンバス男爵は動かなくなり、口をだらしなく開け、大の字になり虚ろな目でただただ天井を見つめるのみとなった。
「これが魅了の成れの果てです」
シーンと静まり返った会場にアーノの声が木霊した。
「魔女ファビアーノ殿の解呪が必要な者には既に書状を出してある。解呪するしないの決断は本人に委ねることとするが、解呪しない場合は、精神が崩壊するという魔女ファビアーノ殿の言葉を鑑み、魔力を封じる魔道具を着けた上で各家で幽閉とする。本日の夜会はこれにて解散。ご苦労であった」
会場が騒然とする中、王族は会場から辞した。私もアーノに従うザムと共にその場を去ったけど、楽しい見物を堪能できて概ね満足できた。
事情を知る者以外が呆然とする中、アーノはにこやかに再びこう告げた。
「この首飾りは貴女にこそ相応しい」
「や、や、ななな、何なの!!!いやー!!!」
「五月蝿いですね」
アーノは叫び続けるミリーナにサイレントを掛けて黙らせた。途端に会場はシーンと水を打ったように静まり返る。詠唱もなく手足のように魔法を使う魔女の力を目の当たりにして、何かを言いかけた第3王子もその取り巻きもミリーナの義父キンバス男爵も口を閉ざした。
「この者を拘束せよ!」
王様の指示が飛ぶ。優秀な騎士たちはすぐさまミリーナを拘束し、口には猿轡を噛ませた。アーノは魔法をとき、ミリーナからは「うーうー」と音が漏れている。
「皆の者、騒がせたな。此度のランスレー公爵令嬢に我が息子とその側近が起こした騒動の一件について、魔女ファビアーノ殿の協力により詳細が判明した。本日は、その悪質かつ巧妙な手口を明らかに致す」
王様の口から明らかにされた事実に、夜会に集まった貴族たちはショックを受け驚愕の表情を見せた。その中にあっても第3王子やその取り巻き、キンバス男爵らは、床に転がされたミリーナを愛おしそうに見つめている。その光景が彼らの異常さを浮き彫りにする。他にも何人か同じような表情をしている者がいるが、ミリーナの犠牲者だろう。
「どれ程危険だと説いたところで、その目で見ぬことには信じられるものではないだろう。これよりこの場でそれを証明して見せる。キンバス男爵はこれへ」
陛下の話を聞いていたのかいないのか、キンバス男爵は臆することなく陛下の御膳に進み出た。
「キンバス男爵よ、言いおくことはあるか?」
「は。我が娘ミリーナがこんな大それた事をするわけがない。何者かに騙され操られているのです。どうか娘をお救いください」
これから自らの身に起こることをまるで理解していない発言に、得たいの知れない悪寒が身体を走った。そんな私をザムはポケットからそっと掌に乗せて優しく撫でてくれる。ちょっとホッとした。
「ハァ。魔女ファビアーノ殿、お願いします」
王様は話の通じなさそうなキンバス男爵の発言を無視して進めることにしたようだ。
「では、人である皆さんにも分かりやすいように術の解除を行うと致しましょう♪」
アーノは実に愉しそうだ。こんなこと、魔女にとっては遊びでしかない。どんなにつまらない仕事でも愉しくこなす、それが魔女の心意気。私もアーノがどんな遊びをするのかワクワクしてきた。
「まず、掌に魔力を集め、術を構築します」
アーノは殊更ゆっくりとそれを展開した。こんなの魔女にとってはなんの事はないが、貴族たち、中でも魔術師も思われる人たちは、目を見開いて食い入るように見つめている。ドン引きだ。アーノも嫌そうにその一角を一瞥している。
「次に、この術式を被験者の体内に送り込むわけですが・・・・。そうですねぇ。そこの子ネコちゃん。手伝ってください」
アーノはのんびりと見学者モードで眺めていた私をザムの掌からぷらーんと持ち上げた。周りは、え?子ネコ?なぜここに?と呆気にとられている。
「びに"ゃ!にゃにゃ。にやーん」
えっ!やだよ。ザム~。
「俺の子ネコをどうするつもりだ!」
「そんなに怖い顔をしなくても、獲って食ったりはしませんよ?」
「当たり前だ。嫌がっているだろう」
「喜んでいるんですよ。そうですよねぇ?」
アーノの笑顔が怖い。ここで違うとは言えない。言ったら何をされるか分からない。もうアーノのご飯がもらえなくなるかもしれない。
「みゃ・・・・」
はいぃ・・・・
力なく耳をペタンと倒して同意した。ザムは空になった手を淋しそうににぎにぎしている。
「さて、この術式をこの子ネコの肉球に移します。さあ、子ネコちゃん。あの男に渡してください。場所はわかりますね?では、騎士の皆さんは、キンバス男爵を拘束して子ネコがお腹に乗れるようにしてください」
私はテトテトと近づき、拘束され仰向けにされた男の腹に飛び乗った。そして、魅了が定着している股間の少し上を踏み踏みしながら、アーノの術を体内に入れていく。その光景をなんだか複雑な顔で見ているザムの顔が目に入った。こんな場所だからアーノが見た目子ネコの私を使ったのは、仕方ないと割り切れる。
「にゃー。ふにゃうにゃーん」
術式転移。定着。展開。解呪。
「うっく。うがががががが」
解呪と同時に魅了が定着していたところから光が溢れ、男爵は解呪の衝撃に悲鳴をあげた。その場所を掻きむしりたくて暴れているが、その前に私はお腹から降りてさっさとザムの掌に収まったから被害はない。この手の解呪には痛みというか痒みがすごいのだ。暫くバタバタと暴れていたが、騎士たちに拘束されていたためどうすることもできないまま、解呪が終わった。すると一転してキンバス男爵は動かなくなり、口をだらしなく開け、大の字になり虚ろな目でただただ天井を見つめるのみとなった。
「これが魅了の成れの果てです」
シーンと静まり返った会場にアーノの声が木霊した。
「魔女ファビアーノ殿の解呪が必要な者には既に書状を出してある。解呪するしないの決断は本人に委ねることとするが、解呪しない場合は、精神が崩壊するという魔女ファビアーノ殿の言葉を鑑み、魔力を封じる魔道具を着けた上で各家で幽閉とする。本日の夜会はこれにて解散。ご苦労であった」
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