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子にゃんこ、平和を満喫する
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楽しい夜会も終わり、私は平和な日々を送っている。あの王様の宣言から、書状を受け取った全員の解呪をしたとアーノから聞いた。魔力を封じる必要があったのは、予定通り第3王子とその取り巻き3人のみで、アーノには魔術具を着ける場所に呆れられた。それを取り付ける人も監視のために居合わせた人も全員が叫びたいのを堪えていたそうだ。
「フィー、何処に着けさせたんだ?」
「え?それ聞いちゃうの、ザム」
私の口からは言えない。
「聞いたらダメなのか?」
アーノは隣で爆笑している。笑うくらいなら教えてあげてほしい。
「そうしたのは貴女ですよね?」
正論だ。
「ダメじゃなくて・・・・」
視線が自然とザムの股間を見てしまった。ザムはすぐに私の視線に気づいたようだ。
「わかった。言わなくていい。屈辱だな」
「ちょっとした遊び心だよ・・・・」
何とも言えない言い訳にザムの顔が困ったように歪んだけど、それ以上の追求はなかった。そっと視線を明後日の方へと逸らしたのは、悪のりしすぎた自覚があるからだ。今さら手遅れだけど。
平和なのは良いことだ。
私は結局、ザムに小さめの鍋を購入してもらい、毎日薬草をことことしている。その隣では、ザムが料理の最中だ。いろんなゴタゴタが片付き、騎士団も今はそれなりに暇なようだ。
違った。騎士団は各部隊毎に定期的に王都の周囲や領地を持つ貴族からの要請であちこち魔獣狩りに出ている。団長のザムの仕事は書類を片付けることだから、それに着いていくことはない。暇なのはザムだった。
この5月、ザムは2時~4時までの厨房が空く時間に毎日料理長から直接指導を受けて、料理に励んでいる。実は凝り性だったらしく、簡単なサンドイッチから始まったそれは、今ではスープ、魚料理、肉料理の基本的なものは制覇し、創作料理を作るまでに至った。料理長も驚きの器用さと勘らしい。お蔭で私の食事はとても充実している。朝と昼は食堂に通っているけど、夕食だけはザムの手作りになった。最近では、お菓子作りにも手を出している。今や私のインベントリーは、お菓子で一杯だ。美味しいから何も言うまい。
お礼に、私は薬草をことことして、各種ポーションを量産している。あと1月もすれば、騎士団は毎年恒例の魔獣狩りに出る。これには団長であるザムも同行する。隣国を牽制する意味もあるらしい。備えあれば憂いなし!だ。
そんな平和を楽しんでいたある日、アーノが不吉な話しを持ち込んできた。
「フィリア、例の魔道具から反応がありました。場所は、隣国、マルセー王国。今、カイザーが調査中です」
「マルセー王国って、来月ザム達が魔獣狩りに行く場所と国境を接してるよね?」
「そうですね。何事もなければいいのですが、念のため、貴女も団長に同行してください」
「わかった」
私は魔女の勘なのか、それとも女の勘なのか、とても嫌な気配がしてならない。髭がピリピリする。とりあえず、できるだけの準備をしようとポーションだけでなく、使い捨ての魔道具も創ることにした。私がせっせと創り貯めている中、ザムがいつもの5倍厳めしい顔で部屋に戻ってきた。
「どうしたの?」
「何がだ?」
「顔、怖いよ?」
「いつものことだ。・・・・いや、そうだな。インリア辺境伯から支援要請があった。辺境伯所属の騎士団が半壊状態だそうだ。予定より10日程早いが、明日出発する」
「インリア辺境伯?そこってマルセー王国と国境を接してるところ?」
「ああ、そうだ」
「そっか。朝起きてなかったら、ザムのポケットに入れておいて。そのうち起きるから」
「は?着いてくるつもりか?」
「え?アーノに聞いてないの?なんか、魔女の仕事が絡みそうだから、ついでに連れていってもらえ的なこと言われたよ?」
「聞いてない。あちらの状況もわからんし、ここに居た方がいい」
「それは、無理。どのみち行くことになるから。この姿で独りで行くのはちょっと・・・・」
「独りで行くのか?その姿で?・・・・それなら、同行させる方がましか。仕方ない」
置いていかれたら、アーノがザムのところに転移で届けると思う、お小言付きで。
「うん。ちょっとアーノのところに行ってくるね」
私はカイザーの調査状況をアーノに確認したが、あまり芳しくはなかった。禁術が使われたのは間違いないそうだ。が、どの禁術なのか、特定ができていない。痕跡はある。悪魔召喚、キメラ作成、暗黒門の取得。この3つには絞ったらしい。使われた場所はマルセー王国の王宮の地下。カイザーが分からないなんて、余程巧妙に魔方陣を構築したんだろうか?そんなこと、出来るの?
「ねぇ、それ全部一度に実行したらどうなるの?」
「は?それこそ、どのくらいの魔力が必要か。我々魔女でもひとりは間違いなく死にますよ」
「生け贄がいたら?」
「それでもひとつにつき魔力の多い者が100人、魔術師が50人は要ります。3つなら3倍です」
「うーん。その3つが相互に関わることでどうにかならないの?暗黒門は魔力の宝庫だよね?魔女で行方不明者がいるとか」
「いやに拘りますね?」
「なんか、アーノに話を聞いてから髭がピリピリしっぱなしなんだよね」
「師匠たちにも話を通しておきましょう。あなたの勘は侮れませんからね。行方不明者はいません。全員所在が明らかです」
「そっか。よかった。私は明日からザムとインリア辺境に向かうから、師匠によろしく」
もう、私には嫌な予感しかしなかった。
行きたくない・・・・。
「フィー、何処に着けさせたんだ?」
「え?それ聞いちゃうの、ザム」
私の口からは言えない。
「聞いたらダメなのか?」
アーノは隣で爆笑している。笑うくらいなら教えてあげてほしい。
「そうしたのは貴女ですよね?」
正論だ。
「ダメじゃなくて・・・・」
視線が自然とザムの股間を見てしまった。ザムはすぐに私の視線に気づいたようだ。
「わかった。言わなくていい。屈辱だな」
「ちょっとした遊び心だよ・・・・」
何とも言えない言い訳にザムの顔が困ったように歪んだけど、それ以上の追求はなかった。そっと視線を明後日の方へと逸らしたのは、悪のりしすぎた自覚があるからだ。今さら手遅れだけど。
平和なのは良いことだ。
私は結局、ザムに小さめの鍋を購入してもらい、毎日薬草をことことしている。その隣では、ザムが料理の最中だ。いろんなゴタゴタが片付き、騎士団も今はそれなりに暇なようだ。
違った。騎士団は各部隊毎に定期的に王都の周囲や領地を持つ貴族からの要請であちこち魔獣狩りに出ている。団長のザムの仕事は書類を片付けることだから、それに着いていくことはない。暇なのはザムだった。
この5月、ザムは2時~4時までの厨房が空く時間に毎日料理長から直接指導を受けて、料理に励んでいる。実は凝り性だったらしく、簡単なサンドイッチから始まったそれは、今ではスープ、魚料理、肉料理の基本的なものは制覇し、創作料理を作るまでに至った。料理長も驚きの器用さと勘らしい。お蔭で私の食事はとても充実している。朝と昼は食堂に通っているけど、夕食だけはザムの手作りになった。最近では、お菓子作りにも手を出している。今や私のインベントリーは、お菓子で一杯だ。美味しいから何も言うまい。
お礼に、私は薬草をことことして、各種ポーションを量産している。あと1月もすれば、騎士団は毎年恒例の魔獣狩りに出る。これには団長であるザムも同行する。隣国を牽制する意味もあるらしい。備えあれば憂いなし!だ。
そんな平和を楽しんでいたある日、アーノが不吉な話しを持ち込んできた。
「フィリア、例の魔道具から反応がありました。場所は、隣国、マルセー王国。今、カイザーが調査中です」
「マルセー王国って、来月ザム達が魔獣狩りに行く場所と国境を接してるよね?」
「そうですね。何事もなければいいのですが、念のため、貴女も団長に同行してください」
「わかった」
私は魔女の勘なのか、それとも女の勘なのか、とても嫌な気配がしてならない。髭がピリピリする。とりあえず、できるだけの準備をしようとポーションだけでなく、使い捨ての魔道具も創ることにした。私がせっせと創り貯めている中、ザムがいつもの5倍厳めしい顔で部屋に戻ってきた。
「どうしたの?」
「何がだ?」
「顔、怖いよ?」
「いつものことだ。・・・・いや、そうだな。インリア辺境伯から支援要請があった。辺境伯所属の騎士団が半壊状態だそうだ。予定より10日程早いが、明日出発する」
「インリア辺境伯?そこってマルセー王国と国境を接してるところ?」
「ああ、そうだ」
「そっか。朝起きてなかったら、ザムのポケットに入れておいて。そのうち起きるから」
「は?着いてくるつもりか?」
「え?アーノに聞いてないの?なんか、魔女の仕事が絡みそうだから、ついでに連れていってもらえ的なこと言われたよ?」
「聞いてない。あちらの状況もわからんし、ここに居た方がいい」
「それは、無理。どのみち行くことになるから。この姿で独りで行くのはちょっと・・・・」
「独りで行くのか?その姿で?・・・・それなら、同行させる方がましか。仕方ない」
置いていかれたら、アーノがザムのところに転移で届けると思う、お小言付きで。
「うん。ちょっとアーノのところに行ってくるね」
私はカイザーの調査状況をアーノに確認したが、あまり芳しくはなかった。禁術が使われたのは間違いないそうだ。が、どの禁術なのか、特定ができていない。痕跡はある。悪魔召喚、キメラ作成、暗黒門の取得。この3つには絞ったらしい。使われた場所はマルセー王国の王宮の地下。カイザーが分からないなんて、余程巧妙に魔方陣を構築したんだろうか?そんなこと、出来るの?
「ねぇ、それ全部一度に実行したらどうなるの?」
「は?それこそ、どのくらいの魔力が必要か。我々魔女でもひとりは間違いなく死にますよ」
「生け贄がいたら?」
「それでもひとつにつき魔力の多い者が100人、魔術師が50人は要ります。3つなら3倍です」
「うーん。その3つが相互に関わることでどうにかならないの?暗黒門は魔力の宝庫だよね?魔女で行方不明者がいるとか」
「いやに拘りますね?」
「なんか、アーノに話を聞いてから髭がピリピリしっぱなしなんだよね」
「師匠たちにも話を通しておきましょう。あなたの勘は侮れませんからね。行方不明者はいません。全員所在が明らかです」
「そっか。よかった。私は明日からザムとインリア辺境に向かうから、師匠によろしく」
もう、私には嫌な予感しかしなかった。
行きたくない・・・・。
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