山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する

紅子

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子にゃんこ、危機迫る

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騎士たちが撤退して行く中、ザムはその場から動かない。

「ザム!何してるの!危ないでしょ!ジェイ!走れ!」

ジェイに跨がったまま、キメラを視線から外さないザムにアーノの掌から声をかける。

「フィーを置いていけるわけないだろう?」

いや、置いていって構わない。
アーノもいるし、カイザーもすぐに来る。
それに、その、目があったら襲われそうな顔で、こてんと首を傾げられても逃げ出したくなるだけだ。こんな時なのにアーノは爆笑していて使い物にならない。

「フィリアは?フィリアは何処だ?!!!」

ビックリした!
咄嗟にアーノの掌から地面にジャンプした。潰されそうだからだ。

いきなり転移してきたカイザーは、爆笑中のアーノをみとめるとすぐさま掴みかかり、私の所在を問い詰めている。どうやらアーノを目印に飛んできたらしい。カイザーは何故か私が大好きだ。

「いや、今それどころじゃないよね?」

ついさっきまで大笑いしていた人がいう台詞じゃない。

「カイザー、ここだよ。久しぶりだね♪」

「え?フィリア?ここって?え?子ネコ?」

「うん。師匠に修行が終わるまで子ネコにされちゃったの」

どうやら、聞いていなかったようだ。とっても戸惑っている。

「フィリア~。可哀想に。不便だろ?なんで直ぐに俺のところに来なかったんだ?!」

私をそっと掬い上げると、ぎゅうぎゅうと抱き締めてきた。

絞まる、絞まる!!!
子ネコにそれはダメ!

「それじゃ、修行にならないよね?」

放して!死ぬ!死ぬ!!!アーノ!助けて~!!!

「誰だか知らんが、フィーが死にそうだぞ?!!!」

私が必死にもがいているのに気づいたザムとジェイが慌ててカイザーの腕から私を無理矢理引き剥がし救出してくれた。ふたりはちょっとボロッとなったけど、怪我もないから大丈夫。

ゼェゼェゼェ・・・・。

「ぬあ!お前こそ誰だよ!フィリアは渡さん!」

「もう!それどころじゃないよね?今!アリーはどうしたの?!」

「アリーは、アルテ姉のところに行かせた」

ちっ!ストッパーが居ないじゃないか!

「で、そいつは誰だ?お兄ちゃんは許さないよ」

ザムの掌にいる私とザムを交互に見ながら怖い顔で腰に腕を当てている。

何をだ?!
カイザーはお兄ちゃんだったのか・・・・。

「今の私の飼い主。子ネコだからね。ザムのところにいれば、美味しいご飯があるの♪」

「チッ・・・・。餌付けされたか」

そんなコントのような会話をしていた私たちに、騎士団のみんなが撤退していった方角から悲鳴のような声とザムとアーノを呼ぶ声が聞こえた。

「団長!ファビアーノ様!こちらにも2体同じようなものが出現しました!!!」

これにより私たちの間にあった軽快な雰囲気は散霧した。あちらは、怪我人も出たようだ。すぐに彼らの元へとザムを連れて飛んだ。4部隊の半数が怪我を負い、犠牲になった馬がキメラに食べられている。私は上級の回復魔法を広域にかけ、結界を張った。これで、欠損していたとしても元に戻ったはずだ。

しかし、3体のキメラに囲まれてしまった。1体でも厄介な相手だ。それに、3体ものキメラを創り出す魔力は何処から調達したのか?

カイザーもアーノも忌々しげな顔でキメラを見ていた。

「ファビアーノ、どうする?応援を呼ぶか?」

「いや、いらないでしょう。こっちの2体は初めのに比べると弱い。ただ、どうやって3体ものキメラを創り出したのか?やはり、フィリアの推測が正しかったのかもしれませんよ?」

「ああ、あれか?暗黒門を見つけないと埒があかないってことだな?だが、ここにはないぜ?」

「では、本拠地ですね。師匠に伝えます。それから、騎士団は邪魔ですから辺境伯の砦に送りましょう」

のんびりと話しているのは、私の結界の中だからだ。キメラたちは結界を壊そうとずっと攻撃を仕掛けている。

「ザム、騎士のみんなを真ん中に集めてくれる?ここにいても危ないから今から砦に転移するよ」

「分かった」

騎士たちが真ん中に集まってきている中、カイザーが外に出た。キメラだけでなく魔獣も集まり始めているが、カイザーにしたら魔獣など埃と同じだ。

「そうだ!ザム、これ持っていって」

私は創り貯めておいた魔道具をザムに渡す。

「これは?」

「私が創り貯めておいた魔道具。戦況によっては必要になると思って創ったの。1度だけしか使えないけど人でも使えるようにしてあるから」

私は、50個ある魔道具の機能を説明し、それぞれを最適な人に貸すようにと伝えた。壊れることはまずないし、自動回収できるから紛失することもない。

「有り難く使わせてもらう」

「うん。あと、これはザムのね。小指に嵌めてみて?」

「俺の?貸してくれるのか?」

ザムに渡したそれは、剣を持つのを邪魔しない左手の小指に収まった。

「違うよ!お菓子とご飯のお返しだよ。えっとね、回復機能と状態異常の解除を付与しておいたの!」

「!!!それは、貰いすぎだ!」

慌てて外そうとしているけど、無理だ。あれは嵌めてしまえば外れないようになっている。盗難防止だ。

「外れないよ?これからもご飯よろしくね!」

ザムは困った顔をしながらも頷き、「ありがとう」と受け取ってくれた。ただ、その顔はどう見ても強請りを楽しむ山賊だったけど。

「フィリア、転移してください。座標は、師匠です」

「OK」

魔力を込め、一斉に転移させた。そして、師匠を見つけたことで、目的地に着いたことを確信した私は、アーノたちのところへととんぼ返りした。

「じゃあザム、後でね!」

「待て、フィー・・・・」

この時、私は何事もなくザムと会えると疑うことなく、その場を後にしたのだった。
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