私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣

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買い物②

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少し気まずそうに莉恵さんが声をかけてくる。
 
「……結城くん」
 
「ん?何?」
 
「……ごめんなさい。嫌な思いさせているわよね?」
 
「んー……でも、ほら、俺が無理やり連れてきたせいだし俺は気にしてないよ」
 
「……店員さんも大変よね。私みたいに自信のないお客でも相手をしなくちゃいけないんだもの」
 
莉恵さんがそういうと店員さんが戻ってくる。
 
「大変だなんてそんなことないですよ。だって、貴方はこのブランドの服が好きでしょう?お客様のような方はたくさんいらっしゃいます。通販では買いにくいから、わざわざこの店に足を運んでくださる。現物を見てやっぱりほしいな、でも、私に似合うかなって悩まれる。そんなお客様で、この店はいっぱいなんですよ。そういったお客様にそんなことないって教えてあげられるのが嬉しいんです。通販ではできないことですから。オーダーメイドもお客様のような方のために始めました。だから、気負わないでくださいね。僕は貴方のようなお客様の対応ができるのが嬉しいし好きなんですから」
 
そう言って笑う店員さんを尊敬した。
莉恵さんは着替え終わったのかカーテンを開ける。
最初に試着したのはチュニックシャツだった。
 
「ど、どうでしょうか……」
 
莉恵さんは恥ずかしそうに尋ねる。
 
「うん、似合ってるよ」
 
俺がそういうと莉恵さんは一瞬嬉しそうにするものの、すぐにふんっとそっぽを向いた。
そんな莉恵さんに対して店員さんはクスクス笑いながら口を開く。
 
「彼氏さんの言う通りとてもお似合いですよ。どうぞほかの二着もご試着ください。ところでお客様はヒールの高い靴はよく履かれますか?」
 
「い、いいえ。そんなに履かないです」
 
「はい。かしこまりました。では、ごゆっくりご試着くださいね」
 
そういうと店員さんはカーテンを閉めた。
二回目に試着したのはフレアワンピース。
これも莉恵さんにすごく似合ってた。
最後の服に着替え終わった莉恵さんがカーテンを開ける。
その服は一番似合ってるように感じた。
 
「……ど、どうかな?結城くん」
 
「え、あ……一番似合ってると思う」
 
「ほ、本当?」
 
「嘘なんか吐かないよ」
 
「本当に変じゃない?」
 
「変じゃないから」
 
莉恵さんはでもでも!と繰り返す。
そんな莉恵さんに店員さんが口を開いた。
 
「とても良くお似合いですよ。まるで貴方に着てもらうために作られたのかと思うほどとても良くお似合いになっています」
 
その言葉に莉恵さんが顔を赤くする。
 
「ちょ、ちょっと大袈裟じゃないですか……?」
 
「大袈裟だなんてそんな……本当に良くお似合いなので。彼氏さんがいなければ口説いていたのに」
 
「えっ!?」
 
「はぁっ!?」
 
店員さんの言葉に驚きを隠せず声を上げた。
しかし、店員さんはそんなことは気にも留めず微笑んで莉恵さんの手を取る。
慌ててその手を離そうとしたらさっき休憩に行った女店員さんがいつの間にか戻ってきてて莉恵さんの手を取ってる店員の頭を思いっ切り叩いた。
 
「痛っ!」
 
「申し訳ありません!お客様!こちらの店員がとんでもないことをしでかしたみたいで……ちゃんと教育しますのでどうか気分を害さないでください!」
 
そう言って頭を下げると女店員さんはさっきの店員の前で腕を組んで叱り始める。
 
「アンタね!お客様を口説くの止めなさいって言ってるでしょ!いくら彼女の妬く反応が可愛いからってそんなに続けてるとフラれるわよ」
 
「……だからって思いっ切り叩くか?確かに俺がやりすぎてたのは認めるけど」
 
「アンタの方が失礼なことしてるでしょって話よ」
 
「はぁ……本当、可愛くない性格してるよね。俺に似て可愛い顔はしてんのに」
 
「双子なんだから顔は似てて当たり前でしょ!こんな奴が好きだった過去の自分をぶん殴ってやりたいわ」
 
「どうぞ?行けるもんなら殴り行って来れば?」
 
「あ、アンタね……少しくらい反省しなさいよ!何!?その態度!喧嘩売ってんの!?買うわよ!?」
 
「はぁ?喧嘩売って俺に何の得があんの?勝手に一人でやってろよ」
 
男店員は俺たちの方を向くと頭を下げた。
 
「申し訳ありません。大変お見苦しいところをお見せしました。それと本気でもないのに口説こうとして申し訳ございませんでした。お二人のやり取りを見ていたら羨ましくなってしまってつい……このままお帰りになられますか?それとも、靴も見て行かれます?」
 
俺としてはとっとと服買って帰りたいところだけど莉恵さんに聞く。
 
「莉恵さんはどうしたい?」
 
「え?えっと……じゃあ、靴も見せてもらえますか?」
 
「はい、かしこまりました。ありがとうございます。お優しいんですね」
 
「え?」
 
「いえ、今、ご試着している服に合うのはこちらですかね。今までご試着していただいた服に合う靴はこちらになります」
 
そう言って男店員が出したのは紺のウェッジパンプスとベージュのウェッジパンプスだった。
紺の靴には花のコサージュが付いている。
莉恵さんの反応は上々だった。
とりあえず、試着を終えた莉恵さんは俺の傍に駆け寄ってくる。
 
「気に入ったのはあった?」
 
「え、えっと……」
 
莉恵さんは言いにくそうにしていた。
 
「莉恵さん?」
 
顔を覗き込むと莉恵さんは俺の耳元で小さく呟く。
 
「ど、どれも良かったから選べないんだけど……全部は悪いから結城くんが選んで!」
 
そういう莉恵さんにうーんと悩んでから口を開いた。
 
「このカードって、使えます?」
 
「はい、ご利用いただけます」
 
「それじゃあ、三着ともください」
 
「えっ!?ちょっと、結城くん!?」
 
「靴はどうする?」
 
「え、ほしいけど……そうじゃなくて!」
 
「じゃあ、靴も二足ともください」
 
「ゆ、結城くん!話を聞いてってば!」
 
「それで、最後に試着したものは着て帰りたいんですけど」
 
「もう!結城くん!話を聞いて!」
 
そういうと莉恵さんは俺の顔をガシッと掴んだ。
 
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