暗黒家族の令嬢は悪役ではないので、婿入り復讐計画を受け付けません

星琴千咲

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【復讐劇篇】第二十五章 転調の朝

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***

翌日の朝、『春の歌』の着信メロディーで、リカは目覚めた。

電話の向こうからあかりの取り乱した声が届いた。

「お姉ちゃん!大事件です!」

「落合、エンジェ……家の裏切り者だと認定された!逮捕命令も出たの!!」

「!?」

驚きでリカはサッとベッドから起き上がった。

視線でイズルを探したら、隣で横になっているはずのイズルは窓の前で立っている。

イズルは早朝の清らかな光を浴びながら、黒いシャツに着替えしている。リカの視線に気付くと、淡々とした微笑みを返した。

「さすがリカのお爺様だ。無駄一つもない」

「知っているの……!?」

イズルの雰囲気はあまりにも静かだった。

彼の何かが変わったと、リカは感じた。

イズルはゆっくりとリカの前に来て、自分の額をリカの額に当てて、リカに裏を告げた。

「もちろんだ。それは、あなたを万代よろずよ家から連れ出てもらうための条件の一つだから」



昨日の夜、リカはあかりのことを処理する間に、イズルはリカの両親に報告のメッセージを送信した。

落合の死亡、エンジェが法具を奪って逃げたこと。

そのメッセージは天童大宇てんどうだいう側の行動のサインとなった。



***

エンジェは落合の別荘に戻って、落合の数人の腹心と自分の部下を二階の会議室に呼びつけた。

深夜に集められたことに不満を持っているものたちに、エンジェは落合が殺害された悲報を知らせた。

そして、自分こそが落合の実の娘で、父が残した遺産を受け継げると意志を表明した。

もちろん、落合の腹心たちは不服。まず落合の妻の意見を伺うと提案した。

あの名ばかりの無能な妻を思い出すと、エンジェは鼻で笑った。

「あら、あたしの娘としての継承権を疑っているの?父の腹心だったら、父の悲願は何なのか、知っているでしょ。あたしは、それを受け継げたのよ!」

エンジェは自分の部下たちに手を伸ばして、部下から一つの小瓶を献上された。

小瓶の中に冷凍の血の入っている。

その血は、リカがガイアリングでのテストで採取されたもの。

エンジェは左手に小瓶を、右手に奪われたばかりの星空の石を持って、落合の腹心たちに自慢形で宣言した。

「これらは、異世界への鍵よ!」

「!!」

落合の腹心たちは一斉にエンジェの手元を注目した。

「この星空の石という法具はね、血の契約を結ばれた者か、その者の血でのみ発動できる。陰険な天童大宇は、孫娘のリカに血の契約を結ばせて、今も契約を解除していない。明らかに異世界へのルートを独占する企みだわ。

 けれども、星空の石もリカの血も、今、あたしの手の中にある。これは、どういうことを意味するって分かっている?」

 みんなに注目されるのがいい気分なのか、エンジェは思わず顎をさらにあげた。

「あたしは父の悲願を受け継げた革命者ってことよ!陳腐な家のルールを破って、新しい未来を築き、この万代家のリーダーになるのはあたしよ!

 あたし以外に、こんなことを成し遂げたものはいるの!?いないでしょ!天童大宇やリカが怖がって、手も足も出ないやつはほとんどよ。そんなものはあたしよりも父の遺産を受け継げる資格がないわ!!」

「……」

「……」

落合の腹心たちはもちろん落合の「異世界で神となる計画」を知っている。しかし――

「異世界へ行く条件を達成することと、継承権とは別ことだろう……」

誰かが肝心なところを指摘した。

「そうだ。落合さんのことはまだちゃんと確認をとれていないのに、さっそく継承権を論じるなんて、不敬だぞ!」

エンジェの態度を指摘するものもいた。

今までのエンジェは、いつも卑下な後輩の態度で彼たちに接していた。落合が死んだ途端に豹変して、主人の態度で威張るのはさすがあれだ。頭を持つものは彼女を簡単に受けれいない。

「あら、あたしの証言を嘘だと?」

エンジェは目じりを釣り上げて、手で自分の部下に合図をした。

すると、六人の青年が、エンジェに不満を言った一人の中年男性を囲んだ。

「ふん、やるか!?」

中年男性は軽蔑そう腕を鳴らした。

衝突を見たくないもう一人の中年女子は和解に入った。

「エンジェ、確かにここにいるあなたの部下の人数が多いわ。けど、落合さんの腹心の私たちも相当な異能力を持っているの。武力で私たちを制圧できないわ。みんな、あなたの先輩よ」

「先輩先輩と言いながら、あたしの証言を疑って、あたしの権利を否定して!本当は、ずっとあたしを隠し子だと舐めているでしょ!」

エンジェは毒毒しい視線で先輩たちを睨みつける。

「……」

その落合によく似ている視線に睨まれて、落合の部下たちは無言になった。

ほんの少し前に、彼たちはエンジェの妙な自信に疑問を持っていたが、今の話で、エンジェが自信を持っていないことが分かった。

エンジェはただ自分が人の上に立つ正当性を必死に証明しようとしている。

これは自信ではなく、劣等感だ。



エンジェと落合の腹心たちが対峙している間に、外で警戒を担当している一人の部下は会議室に飛び込んで、意外の発生を知らせた。

「エンジェさん!大変です!別荘は、包囲されています!!」

「なんなの!ここは七龍頭の別荘よ!誰がこんなことを……」

窓の近くにいる人はカーテンを捲って、下の状況を確認した。

「その人は……商鉄しょうてつ!監査部の頭の商鉄だ!」

「!!」

その名前に驚かされて、エンジェも窓の前に駆け付けた。

監査部、名の通り、万代家が族人たちはルールを守っているかどうかを監査する部門のことだ。

万代家の族人たちの水面下での争いが数えきれないので、小さなトラブルは大体監査部の目に入らない。

夜中に監査部を動かせるのは、大きな事件に間違いない。

商鉄は三十人ほどを連れていて、落合の別荘を包囲した。

でも、その人数よりもエンジェに危機を感じさせたのは、

商鉄の隣に立っている人だ――

「天童たか……リカの父!?なぜリカの父はここに、まさか、法具を奪い返すために……!?」



窓からの視線に気づいた商鉄はスピーカーでエンジェたちに呼びかけた。

落合重則おちあいしげのり、外部の勢力に結託し、万代家の重要な情報を漏洩。家族のプロジェクトを破壊し、家族の資源で私利を図る。家族のルールを違反することが明らかになっている」

商鉄は一枚の紙を窓に向けて突き出した。

「取り締まりの許可を取れた。これから落合重則、および落合重則の腹心部下たちの身柄を確保し、取り調べを行う。暴力を使うつもりはない。今すぐ扉を開け、調査に協力するようにお願いする」

エンジェを含めて、落合の部下たちは混乱した。

落合が死亡した途端に、取り締まりが来ている。

これはどういう意味なのか、言うまでもない。

誰かが、落合の勢力の粛清を企んでいる。

近くの百年の中で、監査部が手を七龍頭に伸ばしたは僅か三回。毎回も家の上層部勢力の再構築が伴っている。取り締められた龍頭の派閥は徹底的に倒され、その龍頭の多くの腹心は秘密に抹消される。

エンジェの気持ちは戴冠前の女王様から、亡国寸前の王女になった。やっと、権力の王座の前に来ているのに……ここで捕まえてまたるものか!!

エンジェは窓を開けて、冷たい風に声を乗せて、商鉄の要求を断った。

「バカげたことよ!あんた監査部の人じゃなくて、変身の異能力を使った天童大宇の手下でしょ!リカの法具を取り戻すために、あたしを騙しにきたのね!」

「あの者たちは本物だ。落合さんがいなくなった以上、ここで協力的な態度を示したほうが……」

落合の部下はエンジェに説明しようとしたが、逆にエンジェを刺激した。

「お父さんがいなくなったからこそ負けを認めてはいけないのよ!!天童嵩がそこいるのを見ているでしょ!リカのために来てるのに違いないわ!!あの一家、最初からあたしとお父さんを狙ってたのよ!最初からあいつらの陰謀よ!」

「だったらどうするつもりだ!監査部の人はみんな戦闘能力の高い異能力者だ!俺たちで対抗できないんだ!」

落合の部下はついに切れて、年上の先輩のプライドを捨て、エンジェに大声を出した。

エンジェも負けないように叫びを返した。

「黙って掴まれて、審判されるの待つっていうの!?そんなのあたしじゃないわよ!あなたたちが命乞いをすれば生き延びられるかもしれないけど、あたしは、絶対リカに殺されるのよ!」

リカにした事々が走馬灯のようにエンジェの頭を走っていく。

リカとの「戦い」で失敗したのは初めてじゃないけど、恐怖を感じたのは初めてだ。

エンジェの目が破裂そうに拡張して、頸筋が突き出す。

(逃げるしかないわ!)

「この別荘、秘密の脱出口はないの!?」

「あるけど、落合さんだけが知っている」

「チクショウ!!」

エンジェはハイヒールで地団駄んを踏んだ。

落合の臆病な部下たちは戦うつもりもないし、逃げるつもりもないようだ。彼たちは本当に怖くないの!?

……もしかしたら、彼たちは自分を生贄にするのを企んでいるかも!

自分が継承人の宣言をしたから、落合の責任を全部自分に押し付けば、彼たちは逃げられる。

少なくとも、自分は彼たちと同じ立場だったら、そうするわ。

(ちくしょうちくしょうちくしょう、なぜすべてが思惑の逆方向になっているの!?あたしは勝ち組の人生に相応しくないというの!?)

悔しさと怒りでエンジェが拳を握りしめた。

すると、手の中にあるものに気づいた。

(!!道はあるわ!)
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