パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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22.赤の世界

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「窪みにどの指で触れるかで、見たい情報が切り替えられるのよ」

「へえ……」

 ルシアによると、石板で見られる情報は親指であれば、固有能力に加えて基本スキルや派生スキルで、人差し指だと現在の装備やアイテム、所持金等、中指だと自身の冒険者ランクや名前、種族、性別、心身の状態や能力等の細かいステータス、薬指だと卒業した学校や剣術、体術における資格、取得技量、攻略したダンジョン等、小指は所属パーティーと現在位置、受けた依頼の進行具合、季節や時刻等を表すという。

 こうした情報が入りきらなかった場合、もう一度同じ指で窪みに触れれば表示されるのだそうだ。しばらく放置すれば石板には何も表示されなくなり、盗み見の防止にもなるという。

 試しにまず親指でその部分に触れてみたら、バニルの言う通り【変換】という固有能力とその説明だけ表示されていて、もちろんランクは何も覚えてないので底辺のFだった。

 バニルによると、稀に基本スキルを習得した時点で、熟練度とか関係なくFランクから一気にSランクになる幸運な冒険者もいるらしいが、一体どれだけ凄い効果なんだろうな。

 次に人差し指を当てると、着ている服やズボンの種類まで表示された。封印のペンダントの文字が特に目立つ。所持金はもちろんゼロ……って、あれ?

「……ルシア、俺の所持金が1000ゴーストもあるんだけど、石板が間違ってるんだよね?」

「あ、あたしがプレゼントしたのよ! 受け取りなさいよね!」

「あ、そうだったのか。ありがとう……」

 どこに入れられたのかと思って自分の服をまさぐったら、ズボンのポケットに入っていた。多分、いつの間にかルシアに操られて受け取り、自分で入れたんだろう。これでまた借りが増えちゃったな。頑張らないと……。

「……凄い情報量……」

「でしょー」

 今度は中指を当てて自分のステータスを覗いてみたんだが、本当に細かく載ってて驚かされる。

 身長とか体重まであって、おそらくほかに登録した冒険者たちと比較したものだろうが、数値の横にランクまで表示されていた。最下位がFでSSSが頂点のようだ。ちなみに俺は中背中肉だからか身長も体重もCだった。

 続いて薬指で触れてみると、故郷の村イラルサの学校の卒業についてまで記されていた。

 そこには7歳から15歳くらいまで在籍してたが、正直あまりいい思い出はない。よくラキルとつるんでたせいかいじめられるようなことはあまりなかったが、思えばあの頃から俺は陰で笑われてたんだろう。オモチャのセクトとして……。

「ちょっと、セクト、どうしたの。顔が赤いわよ?」

「……い、いや。なんでもないよ」

 前のめりになったルシアが覗き込んできて、俺は透かさず石板を抱くようにして隠した。彼女が不満そうに頬杖を突くのを見届けて、最後に小指で触れてみると、所属パーティー『インフィニティブルー』と表示されていた。ランクはなんとBだ。

「あれ……」

「どうしたの?」

「いや、なんかやり取りをした覚えもないのにもうパーティーに所属したことになってるんだなって」

「そんなの当然よ。パーティーの一員として受け入れる姿勢させ見せれば、十人の定員オーバーじゃなきゃ認識されるわ」

「そうなのか――」

「――ふむふむ、なるほどー」

「なるほどですねぇ」

「にゃるほどぉ」

「あ……」

 聞き覚えのある声がしたと思って振り返ると、フードを被った三人が俺の背後に立っていて、逃げるように隅のテーブルのほうへと小走りに去っていった。確かに今の声、バニル、スピカ、ミルウのものだったような。

「もー、あいつらあたしに負けたくせにデートの邪魔をする気ね!」

「……」

 ルシアが顔を赤くして怒ってるしもう確定だな……。

「――おい、お前らそこどけよ」

「どきなってんだよ」

「え?」

 突然やってきた男女の二人組が俺たちを威嚇してきた。

 男のほうはとても短い緑色の髪、肌の上に直接着た黒いベスト、青い炎のペンダントが特徴で、もう一人も胸元が靴紐状になった開放的な服装をしていて、紫色のサイドポニーが豊かな谷間を抉る色っぽい女だった。

 なんなんだ。ここはこいつらの縄張りか?

「な、何よ――……あ……」

 後ろを向いたルシアの声には、驚きの成分がかなり含まれていると感じた。知っているやつらなのかもしれない。いかにもならず者といった感じだが、ルベックのような迫力は伝わってこなかった。

「おい、聞こえなかったのか」

「そこはあたいらの場所だよ。痛い思いしたくなかったらさっさとどきな……って、ワドル、こいつらあれだよ」

「あれじゃわからねえよネリス」

「ほら、耳貸しな!」

 なんだ? 女のほうが男に耳打ちしたかと思うと、まもなく二人の顔に気持ち悪い笑みが浮かんだ。思いっ切り口をひん曲げて嘲笑しているのがわかる。

「なんだよ。よく見たらインブルの一人がいるじゃん」

「あははっ。インブルっていったらさ、衰えた元英雄さんの恩恵を受けてるだけのあの雑魚パーティーだよねえ」

「……」

 インブルってなんのことかと思ったら、うちのパーティー『インフィニティブルー』を略してるっぽいな。そこそこ有名らしい。元英雄っていうのは多分リーダーのことなんだろう。

「あんたたち……黙ってればいい気になって……」

 ルシアが涙目で声を震わせている。もしかしたら、彼女がギルドの前で緊張してたのって、こいつらに遭遇するかもしれないって思ってたからかもな……。

「なんだ? やんのか雑魚」

「やるんならあたいらが相手になるよ。そのお連れさんごと、ね」

「雑魚雑魚うるさいわよ。その雑魚に劣るC級パーティーのくせに……」

「……あ? おい、今なんつったよ」

「そこまで言うんなら、当然覚悟はできてるんだろうね?」

「……」

 おいおい、あいつらの顔が見る見る赤くなってる。何かが起きそうな空気を察したのか周りから続々と人が集まってきたし、とても嫌な空気だ。あのときを思い出しそうになって、胸がズキズキと痛み始めた……。
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