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53.扉の向こう
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修行の内容を述べる前に一つだけ言いたいことがある。
俺はそうベリテスに真顔で言われた。バニルたちもいるからちょうどいいと付け加えていたことから、おそらく彼女たちについての話なんだろうが、どんなことを言われるのか見当もつかなかった。
……あれかな、お色気沙汰に手を出したらダメだ、的な……?
俺も男だからついついそういう気分になってしまうこともあるので、もしそうなら改めたいところだ。心の隙間はそういったところから生まれてくるだろうしな。
「お前さんがここに来たとき、バニルたちから俺に連絡が来た。狂戦士症の怪我人を見つけて治療してるけど、正直怖さもあるってな」
「……」
まあそうだろうな。俺だって自分がまともで相手が狂戦士症だったらそう思うはずだ。
「なのに、なんでお前さんにこれだけ優しくすることになったのか、理由がわかるか?」
「……それは……えっと、俺が狂戦士症だから、腫れ物に触るような感じで、刺激しないようにした……? あと、片目と片手がこんな風になってて、可哀想だったからとか」
「いや、違う。俺が命令したんだ。バニルに」
「え……」
「あいつが俺に惚れてるのを知ってて、それを利用してな、裸で添い寝してやれって提案したんだ。酷い男だろ?」
「そうかも……」
「かかかっ。俺の命令だったからこそ、あいつは応えてくれた。でも、お前と話したことで変わっていった」
「変わっていった……?」
「そうだ。あいつには【鑑定眼】っていう固有能力の通り、人を見る目がある。一時期は俺を疎んじてさえいたが、接していくうちに心を開いてくれた。今はそのときより鍛えられてるから、すぐにお前さんの純粋な心の中を見抜いたのさ」
「……なるほど」
それにしても、あのバニルがリーダーを疎んじてたなんてな。なんか信じられないような話だ。
「一体バニルとの間に何が……」
「あいつの姉が俺の嫁さんでな」
「ええ……」
「俺がまだ駆け出しだった頃、ダンジョンに夢中でほとんど構ってやれなかったが、嫁さんは健気に俺の帰りを待っていてくれていた。いつか俺が冒険者として有名になれるようにと、陰から支えてくれていたんだ。けどな……ある日、ならず者たちに襲われて追い詰められた結果、自決しちまった」
「……」
「それで俺がショックのあまり毎日酒浸りになって遊んでたら、バニルに泣きながらあの人の死を無駄したら許さないだの大嫌いだの、散々怒られたよ。普段大人しくて優しい子だけに驚いたが、それで俺もかなり骨身に応えて前に進むことができた」
「……色々あったんですね」
「あぁ……。あいつも辛かったんだよ。俺が守ってやれなかったせいで、たった一人の肉親を奪われたような形になったわけで、それまでは俺を父親みたいに慕ってくれてたからな……。でも、その頃の思い出が淀んだものを洗い流してくれたんだろう。俺が立ち上がれるように、心を鬼にして叱ってくれたってわけさ。女ってのはつええなあ」
「……確かに」
「じゃあ、やっぱりバニルは俺のために心を犠牲にして添い寝を……」
「がははっ。そんな大袈裟なもんじゃねえよ。あいつも年頃だから寂しいんだ。俺はもう、生涯お前の姉しか愛することはできないって言いきっちまったからな。添い寝してるときはお前さんに淡い期待を抱いてる段階で、今はもう少し進んでるんじゃねえかなあ。同情していくうちに、な……」
「……でも、俺に優しくしてくれるのはバニルだけじゃなかったから、てっきりみんなで共謀して俺をからかってるんじゃないかって。カルバネにも言われたけど、モテてるなんて到底思えなくて……」
「んー……最初はそうだったのかもな? でも、仲間にこっぴどく裏切られた過去があっても優しさを失わない、思い込みは激しいが飾り気のないお前さんと接していくうちに、みんな少しずつ変化していってるのが俺にはわかるぜ」
「変化?」
「惹かれて、ちょっとずつムキになってるってことよ。なあ? お前ら」
「……あ……」
ベリテスの一言が効いたのか、扉の向こうでバニルたちが一様に苦い顔をしているのがわかった。
「既に知ってるだろうが、みんな一癖も二癖もある連中だし、過去もそんなんだから大目に見てやってくれ」
「「「「わっ……!」」」」
バニルたちが部屋の中になだれ込んできた。どうやらよっぽど知られたくない過去だったらしい。
「お前ら……そんなに慌てなくても大丈夫だって。いずれ自分のほうからセクトに話すことになるだろうよ」
「「「「むー……」」」」
みんな折り重なった状態で、ベリテスを白い目で見上げている。一体彼女たちにどんな過去があるのやら、知りたいような知りたくないような……。
「おっと……一言が長くなっちまったが、俺が言いてえことはそれだけだ。さ、修行について話すからよく聞いとけよ」
「はい……」
「了承だろ!」
「了承、リーダー!」
そういや、ベリテスはなんでこんなことを話したんだろう。
あれかな、それだけ仲間意識を強めたかったのかもしれない。パーティーって、ずっと一緒にいれば家族のようなものになるだろうし、裏切られる可能性を低くするというより、彼なら結束力を高めることでより力を発揮できると考えてるのかもしれないな。
俺はそうベリテスに真顔で言われた。バニルたちもいるからちょうどいいと付け加えていたことから、おそらく彼女たちについての話なんだろうが、どんなことを言われるのか見当もつかなかった。
……あれかな、お色気沙汰に手を出したらダメだ、的な……?
俺も男だからついついそういう気分になってしまうこともあるので、もしそうなら改めたいところだ。心の隙間はそういったところから生まれてくるだろうしな。
「お前さんがここに来たとき、バニルたちから俺に連絡が来た。狂戦士症の怪我人を見つけて治療してるけど、正直怖さもあるってな」
「……」
まあそうだろうな。俺だって自分がまともで相手が狂戦士症だったらそう思うはずだ。
「なのに、なんでお前さんにこれだけ優しくすることになったのか、理由がわかるか?」
「……それは……えっと、俺が狂戦士症だから、腫れ物に触るような感じで、刺激しないようにした……? あと、片目と片手がこんな風になってて、可哀想だったからとか」
「いや、違う。俺が命令したんだ。バニルに」
「え……」
「あいつが俺に惚れてるのを知ってて、それを利用してな、裸で添い寝してやれって提案したんだ。酷い男だろ?」
「そうかも……」
「かかかっ。俺の命令だったからこそ、あいつは応えてくれた。でも、お前と話したことで変わっていった」
「変わっていった……?」
「そうだ。あいつには【鑑定眼】っていう固有能力の通り、人を見る目がある。一時期は俺を疎んじてさえいたが、接していくうちに心を開いてくれた。今はそのときより鍛えられてるから、すぐにお前さんの純粋な心の中を見抜いたのさ」
「……なるほど」
それにしても、あのバニルがリーダーを疎んじてたなんてな。なんか信じられないような話だ。
「一体バニルとの間に何が……」
「あいつの姉が俺の嫁さんでな」
「ええ……」
「俺がまだ駆け出しだった頃、ダンジョンに夢中でほとんど構ってやれなかったが、嫁さんは健気に俺の帰りを待っていてくれていた。いつか俺が冒険者として有名になれるようにと、陰から支えてくれていたんだ。けどな……ある日、ならず者たちに襲われて追い詰められた結果、自決しちまった」
「……」
「それで俺がショックのあまり毎日酒浸りになって遊んでたら、バニルに泣きながらあの人の死を無駄したら許さないだの大嫌いだの、散々怒られたよ。普段大人しくて優しい子だけに驚いたが、それで俺もかなり骨身に応えて前に進むことができた」
「……色々あったんですね」
「あぁ……。あいつも辛かったんだよ。俺が守ってやれなかったせいで、たった一人の肉親を奪われたような形になったわけで、それまでは俺を父親みたいに慕ってくれてたからな……。でも、その頃の思い出が淀んだものを洗い流してくれたんだろう。俺が立ち上がれるように、心を鬼にして叱ってくれたってわけさ。女ってのはつええなあ」
「……確かに」
「じゃあ、やっぱりバニルは俺のために心を犠牲にして添い寝を……」
「がははっ。そんな大袈裟なもんじゃねえよ。あいつも年頃だから寂しいんだ。俺はもう、生涯お前の姉しか愛することはできないって言いきっちまったからな。添い寝してるときはお前さんに淡い期待を抱いてる段階で、今はもう少し進んでるんじゃねえかなあ。同情していくうちに、な……」
「……でも、俺に優しくしてくれるのはバニルだけじゃなかったから、てっきりみんなで共謀して俺をからかってるんじゃないかって。カルバネにも言われたけど、モテてるなんて到底思えなくて……」
「んー……最初はそうだったのかもな? でも、仲間にこっぴどく裏切られた過去があっても優しさを失わない、思い込みは激しいが飾り気のないお前さんと接していくうちに、みんな少しずつ変化していってるのが俺にはわかるぜ」
「変化?」
「惹かれて、ちょっとずつムキになってるってことよ。なあ? お前ら」
「……あ……」
ベリテスの一言が効いたのか、扉の向こうでバニルたちが一様に苦い顔をしているのがわかった。
「既に知ってるだろうが、みんな一癖も二癖もある連中だし、過去もそんなんだから大目に見てやってくれ」
「「「「わっ……!」」」」
バニルたちが部屋の中になだれ込んできた。どうやらよっぽど知られたくない過去だったらしい。
「お前ら……そんなに慌てなくても大丈夫だって。いずれ自分のほうからセクトに話すことになるだろうよ」
「「「「むー……」」」」
みんな折り重なった状態で、ベリテスを白い目で見上げている。一体彼女たちにどんな過去があるのやら、知りたいような知りたくないような……。
「おっと……一言が長くなっちまったが、俺が言いてえことはそれだけだ。さ、修行について話すからよく聞いとけよ」
「はい……」
「了承だろ!」
「了承、リーダー!」
そういや、ベリテスはなんでこんなことを話したんだろう。
あれかな、それだけ仲間意識を強めたかったのかもしれない。パーティーって、ずっと一緒にいれば家族のようなものになるだろうし、裏切られる可能性を低くするというより、彼なら結束力を高めることでより力を発揮できると考えてるのかもしれないな。
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