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64.頑丈な場所
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朝の刻、みんなでいつも通り食事をしていたわけだが、本当になんら変わり映えのしない光景だった。
思えば、バニルたちにしてみたらベリテスがいないことには慣れているはずで、色んなことも経験しているだろうから慌てる必要なんてなかったんだ。
今のところ、誰かが宿舎に近付いてくるとかそういう気配もない。どうやら俺があまりにも神経を尖らせすぎてただけだったか……。
「セクト、もう部屋に戻るの?」
「え?」
食事を済ませたあと、食器を《恵みの手》で洗ってからそのまま部屋に戻ろうとして、バニルにそんなことを言われた。いつも食事のあとはたわいない話をお茶でも飲みながらやるんだが、今日の夕の刻にはダンジョンを出発しなきゃいけないし色々準備をしておきたかったんだ。
「今のうちにスキルとか磨いておこうかなって」
あえてカルバネたちのことは言わなかった。彼女たちもわかってるだろうしな。
「セクト、あんた頑張りすぎよ……」
口元を布巾で拭ったルシアが突っかかってきた。
「あんたって、試験の前日に焦って猛勉強するタイプでしょ!」
「……あ。うん、そうかも」
そういや、イラルサの学校で試験前日に徹夜することも多かったな。集中力にはそこそこ自信があったからそれに賭けたんだけど、短期間で頭の中に詰め込み過ぎたせいか結果はダメダメだった。そのたびに、なんで俺って普段から頑張らないんだろうっていつも思ってたんだ。
「やっぱりねえ。泣いても笑っても今日の夕方には発つんだから、男の子なら覚悟を決めなさいよねっ!」
「わ、わかったよ……」
ルシアは相変わらず強引だ。
「セクトお兄ちゃんをいじめたらダメだもん。さぼるの大好きなルシアと違って、頑張り屋さんなんだから……」
「何よ。おデブのミルウには言われたくないわよ!」
「あふぅ。それはお腹だけだもん……」
「くすくす……セクトさん、頑張るのもいいですが、ダンジョンで体力が尽きてしまわないよう、ほどほどにしましょうねぇ」
微笑むスピカがみんなの母親に見えてくるな。胸は小さいけど。
俺は部屋に戻り、ベッドに座って一息ついたあとダンジョンで使えそうなスキルを選ぶことにする。
個人的に、バニルたちが持ってきたものを変換したスキルが特に使えると感じてるんだ。まず《忠節》。オランドに対してやったときも思ったが、Eランクの割に結構使えるという感想を抱いた。
ラピッドウルフみたいに初めから四つん這いになってるようなのや、浮いてるような敵には通用しないと思うが、対人にはかなり有用なんじゃないかな。とはいえ、使う対象がいないし、これのためにわざわざ誰かを呼ぶのは気が引けるので、自分に対して熟練度を鍛えるとしよう。
「――ふう……」
百回ほど繰り返して、ようやく熟練度がFからEになる。そのせいか、ほんの少しだけ強制的にひざまずく時間が長くなった気がする。熟練度をCにして《忠節》自体のランクを上げることができれば大分変わりそうなんだけど、今はこれだけ上げるわけにもいかないしな。
次に上げるのは《反転》にするか。
これを使って右手で朝食をとってるときも思ったが、途中で効果が切れて利き手が使えなくなることが何度かあるので、面倒だし少しでも効果時間を増やして使う回数を減らしたいんだ。
あと、これは他人に対しても使えるので、熟練度を上げていけばベリテスの神の手が一時的でも復活するわけで、それが少しでも長引くようにしたい。
俺は自分の体を使って《反転》の熟練度をEにしたあと、《結合》の熟練度も同じように上げておいた。正直なんに使えるかはわからないが、折角バニルから貰ったものだし一応だ。さらに《ステータス》をEにしたあと、俺の中で一番高いAランクの派生スキル《シール》の熟練度を上げることにした。
ただ、これを使うのには注意しなきゃいけなかった。なんせ、ペンダントを外して狂戦士症になる必要があったからだ。自分の体を痛めつけてそれを《シール》で抑えるという手もあるが、それこそダンジョン前にやることじゃないだろうし、かといって狂戦士症で暴れるのもリスクがある。
《シール》で抑えられるといっても、ある程度部屋が荒れるのは覚悟しなきゃいけない。とはいえ、折角スピカが綺麗にしてくれたのになあ。
「あっ……」
そうだ。あの手があったか。
早速俺は《エアボックス》を何度も出して熟練度をEにしたあと、その中に入ってペンダントを外して暴れ、《エアボックス》の効果が切れたときに《シール》で狂戦士症を解くということを繰り返した。四方が壁になっている暗くて狭い空間で暴れ回るも一切壊れる様子はない。とはいえ、結構疲れた……。
「――もういいかな? って、そうだ……」
大事なものを忘れてた。《シール》に次ぐBランクの《成否率》だ。かなり使ってるように思えたから熟練度がEになってるかもしれないと期待して《ステータス》で確認したが、Fランクのままだった。
んー……これの熟練度を上げるのに手っ取り早い方法は、《スキルチェンジ》の成功率を計ることだと思う。中には確率の低い有用なスキルも見つかるかもしれないし、いっちょやってみるか。
思えば、バニルたちにしてみたらベリテスがいないことには慣れているはずで、色んなことも経験しているだろうから慌てる必要なんてなかったんだ。
今のところ、誰かが宿舎に近付いてくるとかそういう気配もない。どうやら俺があまりにも神経を尖らせすぎてただけだったか……。
「セクト、もう部屋に戻るの?」
「え?」
食事を済ませたあと、食器を《恵みの手》で洗ってからそのまま部屋に戻ろうとして、バニルにそんなことを言われた。いつも食事のあとはたわいない話をお茶でも飲みながらやるんだが、今日の夕の刻にはダンジョンを出発しなきゃいけないし色々準備をしておきたかったんだ。
「今のうちにスキルとか磨いておこうかなって」
あえてカルバネたちのことは言わなかった。彼女たちもわかってるだろうしな。
「セクト、あんた頑張りすぎよ……」
口元を布巾で拭ったルシアが突っかかってきた。
「あんたって、試験の前日に焦って猛勉強するタイプでしょ!」
「……あ。うん、そうかも」
そういや、イラルサの学校で試験前日に徹夜することも多かったな。集中力にはそこそこ自信があったからそれに賭けたんだけど、短期間で頭の中に詰め込み過ぎたせいか結果はダメダメだった。そのたびに、なんで俺って普段から頑張らないんだろうっていつも思ってたんだ。
「やっぱりねえ。泣いても笑っても今日の夕方には発つんだから、男の子なら覚悟を決めなさいよねっ!」
「わ、わかったよ……」
ルシアは相変わらず強引だ。
「セクトお兄ちゃんをいじめたらダメだもん。さぼるの大好きなルシアと違って、頑張り屋さんなんだから……」
「何よ。おデブのミルウには言われたくないわよ!」
「あふぅ。それはお腹だけだもん……」
「くすくす……セクトさん、頑張るのもいいですが、ダンジョンで体力が尽きてしまわないよう、ほどほどにしましょうねぇ」
微笑むスピカがみんなの母親に見えてくるな。胸は小さいけど。
俺は部屋に戻り、ベッドに座って一息ついたあとダンジョンで使えそうなスキルを選ぶことにする。
個人的に、バニルたちが持ってきたものを変換したスキルが特に使えると感じてるんだ。まず《忠節》。オランドに対してやったときも思ったが、Eランクの割に結構使えるという感想を抱いた。
ラピッドウルフみたいに初めから四つん這いになってるようなのや、浮いてるような敵には通用しないと思うが、対人にはかなり有用なんじゃないかな。とはいえ、使う対象がいないし、これのためにわざわざ誰かを呼ぶのは気が引けるので、自分に対して熟練度を鍛えるとしよう。
「――ふう……」
百回ほど繰り返して、ようやく熟練度がFからEになる。そのせいか、ほんの少しだけ強制的にひざまずく時間が長くなった気がする。熟練度をCにして《忠節》自体のランクを上げることができれば大分変わりそうなんだけど、今はこれだけ上げるわけにもいかないしな。
次に上げるのは《反転》にするか。
これを使って右手で朝食をとってるときも思ったが、途中で効果が切れて利き手が使えなくなることが何度かあるので、面倒だし少しでも効果時間を増やして使う回数を減らしたいんだ。
あと、これは他人に対しても使えるので、熟練度を上げていけばベリテスの神の手が一時的でも復活するわけで、それが少しでも長引くようにしたい。
俺は自分の体を使って《反転》の熟練度をEにしたあと、《結合》の熟練度も同じように上げておいた。正直なんに使えるかはわからないが、折角バニルから貰ったものだし一応だ。さらに《ステータス》をEにしたあと、俺の中で一番高いAランクの派生スキル《シール》の熟練度を上げることにした。
ただ、これを使うのには注意しなきゃいけなかった。なんせ、ペンダントを外して狂戦士症になる必要があったからだ。自分の体を痛めつけてそれを《シール》で抑えるという手もあるが、それこそダンジョン前にやることじゃないだろうし、かといって狂戦士症で暴れるのもリスクがある。
《シール》で抑えられるといっても、ある程度部屋が荒れるのは覚悟しなきゃいけない。とはいえ、折角スピカが綺麗にしてくれたのになあ。
「あっ……」
そうだ。あの手があったか。
早速俺は《エアボックス》を何度も出して熟練度をEにしたあと、その中に入ってペンダントを外して暴れ、《エアボックス》の効果が切れたときに《シール》で狂戦士症を解くということを繰り返した。四方が壁になっている暗くて狭い空間で暴れ回るも一切壊れる様子はない。とはいえ、結構疲れた……。
「――もういいかな? って、そうだ……」
大事なものを忘れてた。《シール》に次ぐBランクの《成否率》だ。かなり使ってるように思えたから熟練度がEになってるかもしれないと期待して《ステータス》で確認したが、Fランクのままだった。
んー……これの熟練度を上げるのに手っ取り早い方法は、《スキルチェンジ》の成功率を計ることだと思う。中には確率の低い有用なスキルも見つかるかもしれないし、いっちょやってみるか。
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