パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

文字の大きさ
99 / 130

99.目では見えないもの

しおりを挟む

 謁見の間の玉座前にて、俺たちは最後のボスが登場するのをじっと待っていた。

「――来たっ……」

 少し長めのインターバルのあと、一際大きい魔法陣が出てきて回り出し、とうとう大ボス――ファーストガーディアン――がその中心に出現した。

「やつが……古城の守護者か……」

 満を持して登場したのは、全身に鱗の鎧をまとった半魚人サイズの兵士で、両手で青い炎のような形状の長剣を構えていた。大型、小型ときて今度は中型ってわけだ。

 俺はバニルから聞いた説明を思い出していた。確か、やつの固有能力は【リカバリー】のほかに【反射】があり、基本スキル《反発》は食らったダメージの半分を相手に返し、派生スキル《反動》は、ボス自身に対して行使されるあらゆるスキルの再使用時間を長くさせるものだ。

 大した攻撃力はないがとにかくタフで弱点もなく、倒すのに丸一日かかることも珍しくないという。最初のうちは普通より遅い程度の動きだが、時間が経過するにつれて次第に速くなっていき、最終的には恐ろしいほど俊敏になるらしい。

 それでも俺たちはここまで独自の攻略法を見つけ出してきたんだ。大ボス相手とはいえ、倒すのに膨大な時間を費やすつもりは毛頭ない。何か必ず打開策はあるはずで、それを探すだけだ。

「……あ、あ……」

 何かが物凄い勢いでこっちに近寄ってくると思ったら……そんな、まさか……。赤い稲妻、ルベックだ……って、一人だけだと……? 俺は思わぬ事態に面食らっていた。もう間近に迫っている。

「――クソセクトオオォォッ!」

「……ル、ルベック……」

 謁見の間に飛び込んできたのは、信じたくなかったが紛れもなくあいつだった。とんでもないスピードだったし、それがやつの固有能力なんだろう。それを生かして俺を捕まえにきたってわけだ。

 畜生、どうするんだよ……。まだやつを倒せる方法なんて思いつかない……というか、考えている暇なんてなかった。ボスがこっちに迫ってくる中、ルベックも一気に距離を詰めてきた。

「おい、びびってんなよ。昔みたいに仲良く遊ぼうぜ、クソセクトッ!」

「くっ……」

 俺はボスの前に《ワープ》を罠のように設置した。情けないが倒し方がわからない以上、逃げるしかないだろう。

「みんな、こっちだ!」

「……うん……」

「はーい」

「わかったあ!」

《ワープ》にみんなが入ったあとで俺も乗るつもりだ。まもなくボスがワープゾーンに触れて飛ぶのがわかる。

「こ、こいつ……! 逃すかああぁぁっ!」

 ルベックは俺が大人しく従うと思ったのか、意外そうな顔をしたあとでまっすぐこっちに向かってきたが……好都合だ。

「あ……? どこに消えやがった……!? そんなに殺されたいのか!」

《インヴィジブル》で姿を隠すと、やつは目視できないほどの速さで周囲を探している様子だった。見てると目がおかしくなるんじゃないかと思えるほどだ。案の定、速度に関係した固有能力を持ってるらしい。

《結合》でルベックの足を地面とくっつけてやろうかと思ったが、やつはあまりにも速い上に武器を振り回してるみたいだし、こっちの透明な状態も長くは続かない。再使用まで少し時間も空くしな。下手に近寄ってちょっかいを出すのは危険な気がする……。

「畜生っ! どこに行きやがったって言ってんだよ、クソセクトオォ……いい加減ぶち殺すぞコラアアアァッ!」

 やつが狂ったように叫びながら血眼で俺を探す間に、ミルウ、スピカ、ルシアが《ワープ》に乗った。さあ、あとは俺……って、バニルがまだいる。何故だ……。

「バニル!? なんで乗らない!」

「クソセクト!? いるのか? どこだ! どこに隠れやがった!?」

「う……」

 俺は口を押さえた。このままじゃ声で居場所がバレるからだ。

「セクト! 先に行ってて!」

「な、なんで、そんなことできるわけ――」

「――そこか!? ちっ! また隠れやがって……」

 声で判断したのかルベックが斬りかかってきて、咄嗟にかわしたものの俺の右肩に裂傷が走っていた。触れてもいないのに……というか、かなり距離があったのにこれかよ。一体どんな武器を使ってるんだか……。

「そこかあああああっ!」

「くっ……」

《インヴィジブル》の効果が切れたので再使用する。血で居場所がバレないよう、傷口を押さえながら。俺も早く《ワープ》に入りたいが、バニル一人だけここに置いていけるわけがない。一体何を考えてるんだ?

「出てこねえならこいつを人質にしてやるぜ……!」

 ルベックのターゲットがバニルに向かうのは時間の問題だった。一体何やってるんだよ、バニルのバカ……。

「――くっ……その程度……?」

「な、んだと……?」

 俺の心配をよそに、バニルはルベックの物凄い速さの攻撃を受け流していた。これが【鑑定眼】の派生スキル《補正》の底力なのか。ランクはそれほど高くもないのに計り知れない強さを感じる。というか、今まで手加減していたのかっていうレベルだ。

 あの表情の陰りと何か関係があるんだろうか? 頑張りすぎると体に異変が起きるとか……まさかな。とにかく彼女の剣術の凄さも相俟って、それは最早芸術作品とも思える動きだった。俺が目で拾うのがやっとなルベックの攻撃をもろともしないなんて……。

「こ、このアマ……運がよかったなあ? 俺の手が負傷してなきゃ、今頃死んでるぜ……!」

「言い訳、格好悪いよ……?」

「くうぅ……こんのクソアマがああああぁっ!」

 もう《ワープ》は既に解除されてしまっている。今度出したとき、同じ場所に行けるかどうかは限らないが、状態は維持されるはずだし時間をやたらと置かなければ大丈夫のはず。というわけで俺は《ワープ》を再使用して待つが、バニルを一人残していけるはずもなく立ち尽くしていた。

 ……あ……そうか。わかった。バニルはスピカの《招集》で帰る気なんだ。おそらく、それまでルベックの能力を俺のために調べようっていうんだろう。

 俺はその気持ちに応えるべく、バニルの無事を何度も確認してから《ワープ》に乗った。頼む、バニル。もう少しでいいから耐えていてくれ。絶対に生きて俺の元に帰ってきてくれ……。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

処理中です...