102 / 130
102.加速する脅威
しおりを挟む朝の刻がすぐ目前まで迫っているのか、大分周囲が明るくなってきたわけだが、その代わりに霧が俺たちの足元を覆い隠すようになった。目が疲れているせいか、仲間や十字架が雲の上に立っているようにも見える。
「うっ……」
油断するとバニルとの思い出が脳裏に浮かんできて目がくらみそうになってしまう。バカか、俺は。踏ん張れ。ここで頑張らなきゃいつ頑張るんだ。今は大ボス――ファーストガーディアン――との戦闘中なんだぞ……。
その上、やつはどんどん速度を上げてきている。こんなところで集中力を欠いてたら、本当にこの墓場が俺たちの死に場所になってしまう。
大体、バニルが死ぬわけないじゃないか。あいつは強いんだ。
それとも、あいつのことが心配なあまり、俺はボスをみんなに放り投げてスピカを叩き起こすのか? バニルだけのことを考えて、ほかの仲間のことはどうでもいいっていうのか? いや、そんなことできるわけないし、バニルだって望んでないはずだ。
頼む……耐えてくれ、バニル。スピカが起きるまで、必ず生きていてくれ……。
それまで、俺は今できることを精一杯やるから。誰もが目に見えて疲れている中、必死に戦っているんだ。俺はその仲間として期待に応えなきゃいけない。
ただ、現状はまだ何も変わっちゃいない。大ボスの固有能力【反射】の基本スキル《反発》と派生スキル《反動》のせいで長期化を余儀なくされていた。
しかもこっちは、囮役のミルウとルシアが明らかに弱ってきてるっていうのに、ボスは逆に速さを増しているんだ。バニルやスピカがいれば、おそらくカウンターアタックのような高等な技術で《反発》を相殺しながら上手く戦ってくれそうだが、今戦えるのは俺たちしかいないんだから仕方ない。
「――あふっ!?」
まずい。ミルウが足を挫いたらしく、バランスを崩して横転したかと思うと、そこにすかさずボスが飛び込んでいった。
「うぅっ!」
ルシアがミルウを庇って、その結果右肘付近をボスの長剣で抉られた。そのあと俺が《忠節》でひざまずかせたので追撃は免れたが、少し遅かった。やつには、受けるスキルの再使用までの時間を延長する《反動》があるから仕方ないが……。
「……ごめ、ん……」
血まみれの右腕をだらりと下げながら後退するルシア。ただでさえ体力がなくなってるのに血の量が凄い。ミルウも右足を派手に捻ってたし、二人とももう戦えまい……。
「俺が囮役と攻撃役をやる!」
「ひっく……ルシア、セクトお兄ちゃん、ごめんねえ……」
ルシアが離脱したことで責任を感じたのか、ミルウが泣き出した。
「えぐっ……ミルウ……おうち帰りたいよお……《離脱》したい……」
「だ、ダメだ、ミルウ。最後の最後まであきらめるな……!」
ミルウの気持ちはわかるが、彼女の派生スキル《離脱》はそれこそ最終手段だ。『ウェイカーズ』もボスも倒し、全員で無事にダンジョンから帰還する。俺の頭の中にはそれしかなかった。まだ何一つ成し遂げてないのにあきらめられるはずがない。
「――うぐぁっ!」
「セ、セクト……!」
「セクトお兄ちゃん!」
やつの攻撃が肩口に当たってバランスを崩しかけたが、なんとか堪える。
「浅い。大丈夫だ! まだまだやれる!」
……と言いつつ、内心は違っていた。俺はあきらめるなって偉そうに言ったばかりなのに、防戦一方の中で楽になりたいと一瞬思ってしまった。さすがにこれ以上ボスの攻撃を避け続けるのは厳しいか。何もかもあきらめるわけじゃないが、何かを捨てないともう耐えきれそうにないな……。
「――ルシア、ミルウ。できるだけここから離れてくれ……」
「「……え?」」
「封印のペンダントを外すつもりだ」
「「そんなっ……」」
かなりリスクの高い作戦だ。スピードやパワーが桁外れに上昇し、痛みに滅法強くなる一方、暴れたことの、またそれによる《反発》のダメージは計り知れないだろう。
「……だ、ダメ……死んじゃう……セクト……」
「セクトお兄ちゃんが死んじゃうよお……えーん!」
「……死なない。俺はリーダーに言われたんだ。相棒になってくれって。なのに、こんなところで生きることをあきらめられるわけないだろ。俺は崖から落ちても、狼峠に一人で行っても死ななかった。だから……今度も絶対帰還してみせる……」
いずれにせよ、このままじゃ俺は間違いなく死ぬ。《成否率》なんか使わなくてもわかる。やつの攻撃速度は増すばかりで、自分が対応できなくなりつつあるのもわかるからだ。
それなら、無抵抗で死ぬより攻勢に転じたほうがマシじゃないか。攻撃は最大の防御というしな。ボスを倒せば『ウェイカーズ』に対する復讐は持ち越しになるが、かといってできなくなるわけじゃないし、ここで死んでしまったらそれこそ本末転倒だ。
俺はこれから封印のペンダントを外し、狂戦士となる。《成否率》で調べたら確実に死ぬと出るかもしれないが、あえて調べない。たとえそうだとしても、俺はその壁を打ち破ってみせる自信があったからだ。それを使う時点で自信がないってことで、弱気が勝てる確率を下げてしまう可能性だってある。
「――行くぞおおおおおおおおっ!」
俺はペンダントを高々と放り投げた。
「……ォォオオッ……」
久々に味わうこの感覚。俺は今自由だ。誰よりも自由なんだ。大ボスのやることなすこと、亀の歩みのように全部見えた。さあ来い。今すぐ肉塊に変えてやる……。
24
あなたにおすすめの小説
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる