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第五話 新人の回復術師(相手side)
しおりを挟む「おいお前ら、あの話はもう聞いたか?」
「「「何々……?」」」
そこはパーティー【超越者たち】の宿舎、一階のリビングルームにて。
リーダーの剣士ディランが、ニタッと嫌らしい笑みを浮かべ、ソファに座る三人の仲間――魔術師リシャ、盗賊ネルム、戦士クラフトを見やる。
「俺の睨んだ通りだったぜ……。あの日、クビにしてやったピッケルの野郎が冒険者ギルドにひょっこり現れたそうだ。俺のダチがそう言ってた」
「「「マジで……⁉」」」
「あぁ。そんで仲間を探し回ったまではよかったが、一切お呼びがかからずに逃げ帰ったらしい。やつが無能の回復術師っていう噂はばっちり流してるし、声がかかるはずもないのに」
「キャハハッ! 受ける―。その光景、間近で見たかったあ。独りぼっちの可哀想なピッケル、来世で頑張れって応援したくなっちゃう」
「ほんと……笑えるの……。ピッケルなんかに仲間なんてできるわけないのに……バカみたいなの……」
「フッ……。まさに、断末魔の悲鳴ともいうべきですか。なんとも哀れな結末ですねえ」
「「「「ワハハッ!」」」」
パーティーの四人はひとしきり笑い合っていたが、それから時間が経過するたびに段々と苛立った面持ちになり、新しいメンバーについての相談を始めた。
「例の新人、おせーな……」
「「「確かに……」」」
実は本日の正午、ディランたちは新たな回復術師を迎え入れる予定であった。そのため、パーティーの宿舎内で待ち合わせをしていたのだが、約束の時間になっても新しい仲間は中々やってこなかったのだ。
「畜生……。新人の分際でいつまで待たせるつもりなんだよ――」
「どうも、遅れたっす。回復術師の者っす」
「「「「あっ……!」」」」
眠そうな男の声とともに玄関のドアがノックされ、ディランたちは新たな回復術師を迎え入れた。
「どうもっす。おいら、そちらのパーティーのお世話になることになった回復術師のカインっす」
「お、おう。待ってたぜ、カイン!」
ディランたちはカインを家に上げ、自己紹介を始めた。
「俺が剣士のディランだ。最高峰のダンジョン、エドガータワーの攻略に最も近いと目される、【超越者たち】パーティーのリーダーだ。よろしく」
「あたしは魔術師のリシャ。炎の魔法が得意よ。よろしくね、カイン!」
「私は……盗賊のネルム……。敵の探知、罠の解除はお手の物……。よろしくなの、カイン……」
「自分は戦士のクラフトです。耐えることには自信がありますよ。よろしく、カイン」
「うっす。よろしくっす。ディラン、リシャ、ネルム、クラフト。あっ……!」
「「「「っ……⁉」」」」
寝惚け眼のカインがうっかり手を滑らせ、コーヒーカップを落として割ってしまう。
「おっとっと、手が滑っちまった。わりーっすねえ。おいら、夜遊びしすぎてあんまり寝てなくってさあ。ふわぁ……」
「おいおい……カイン。回復術師なら眠気なんてすぐ回復できるだろ? あと、割れたコーヒーカップもさっさと元に戻してくれ。なんせ、あのヘボの回復術師ピッケルでもできることだからな」
「「「うんうん」」」
「へ……? 回復術じゃ普通の眠気なんて治せないし、割れたものを直すなんて、おいら回復術師の界隈じゃ聞いたこともねえっすけど……」
「「「「えっ……?」」」」
カインの返答に対し、ディランたちは呆然とした顔を見合わせる。
「そ、そいつは、200ギルスもした超高級品のコーヒーカップなのに……で、でも、別に回復能力が高いなら問題ねえし?」
「そ、そうよ! 回復術師なんて普通の回復術ができなきゃ本末転倒だし。ピッケルにはそういう、変な器用さがあっただけでしょ」
「わ……私も同感……。どう考えても……回復能力が高いほうが有能なの……」
「い、いやはや、まったくです。カップよりも命のほうが大事ではありませんか……!」
「……」
己に言い聞かせるように言うディランたちの様子を見て、新人の回復術師カインは目を白黒させる。
(……やべえ。こいつらが何を言ってるのか、さっぱりわかんねえ……。おいらって、もしかしてとんでもないパーティーに来ちまったすかねえ?)
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