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第九話 武器なんか捨てろ
しおりを挟む「ふう……」
僕は鬱蒼とした森の奥にいた。
夢中になってモンスターを探しては交戦するっていうことを繰り返してたせいか、気づけばもう夕陽が射し込んでるのがわかる。
ゴブリンだのオークだのウルフだの、遅延の回復術を駆使して、合計で100匹くらい倒したはず。お金には困ってないけど、魔石も幾つかゲットできたのでホクホクだ。
「あ……」
もうそろそろいいかなと思って引き返そうとしたところ、妙な気配を覚えた。
この禍々しい雰囲気は……間違いない。ボスだ。その方向へと慎重に歩いていくと、やっぱり僕の思った通りだ。ボスは紫色の濃い魔力を纏っているため、遠目でもそれがはっきりとわかった。
あれはオークキングっていうボスモンスターだ。
あいつとは、【超越者たち】パーティーにいた頃に何度か戦った覚えがある。僕はあくまでも脇役として、メンバーが瀕死に陥ったときに回復術で密かに治したんだ。一人でも目に見えて重傷者が出ると士気に影響すると思って。
さすがに一人だけじゃボス相手は厳しいかな。
「……」
そう思って引き返そうとしたものの、僕はふと我に返って立ち止まった。回復術師がボスを一人で倒せば、もっとインパクトがあるんじゃないかな?
そうだ、そうに違いないし、それを誰かが見てくれているならスカウトだってされるはず。
お、また視線を感じるし、誰かが見てくれてるのは間違いない。よーし、やってやるか。
オークキングのところへ徐々に近づいていくと、腹を殴られるような強い振動が伝わってきた。
「フゴオオオオオォォッ……」
「う、うわ……」
丸太を抱えた緑色の巨躯が僕に気づいたのか臨戦態勢に入り、どんどんこっちへと迫ってくる。
その存在感自体が凶器だと思えるほど、滅茶苦茶でかい……。間近で見れば一目瞭然だけど、3メートルは優に超えてる。何より幅が大きいのでより巨大に見えるんだ。
さて、誰かが見てるのは確実なわけだし、意気に感じてド派手に暴れてやらないと。そうだ、ついでに面白いことをやってやろう。
「来いよ、オークキング。丸太なんか捨ててかかってこい!」
実は、オークキングは人語を喋れないが理解することはできるって言われてる。なので僕のほうから剣を捨てて試してみたところ、彼は丸太を手放さなかった。ありゃ……?
「フゴオオオオオッ!」
「ちょっ……⁉」
それどころか、怒り狂った様子で丸太をブンブンと振り回すオークキング。
……どうやら、伝わってはいたけど、逆上させたっぽい。人間一匹だけの癖して、俺と対等だとは思うなって憤慨したんだろうか?
でも、僕の代わりにボスがド派手に暴れてくれてるので、結果的にはよかったかもしれない。
あっさり終わらせちゃうと、見てる人に凄さが伝わらないかもしれないし、すぐに倒すつもりはないんだ。
「フンガアアアアッ!」
「おっと……!」
ボスが丸太で木々をなぎ倒しながら僕に襲い掛かってくる。魔力を纏っているため、武器の威力も耐久性も格段に上がってるんだ。
時間遅延の回復術があるので的は外れてるんだけど、敵が丸太を振り回す範囲も広いので結構ヒヤヒヤした。
というか、このままじゃ見物してるほうにも危害が及ぶかもってことで、僕はもうこの辺で終わらせることにした。
とはいえ、回復術っていうのはある程度対象に近づかないと影響を及ぼせないので、まず相手の武器を無効化するべく、巨大な丸太に時間を戻す回復術を行使する。
「フゴッ……⁉」
オークキングも驚いてるように、丸太はただの植物の芽へと退化を遂げた。僕はその隙にボスの近くへ駆け寄ると、時間を進める回復術を使った。
「……フ……フガ……」
よし……ヨボヨボの老体オークキングの完成だ。遅延の回復術と違ってかなり消耗したけど、相手に至っては今にも倒れそうになってて、よろよろとしか歩けずにいた。
このまま寿命が尽きるまで時間を一気に進めてもよかったけど、それじゃ観客には伝わりにくいかもってことで、僕は剣を拾って隙だらけのボスの首を刎ねた。
「……」
決まった。我ながらなんかキザっぽくて、元仲間の戦士クラフトを思い出したほどだ。でも、目立ちたいならこれくらいやってもいいんじゃないかな。あいつなら倒したあとフッって言いながら笑いそうだけど。
僕の戦いが注目を集めたらしく、そう遠くない場所から熱視線をひしひしと感じた。
やることはやったと思うから、この辺で引き上げるか。横目でちらっと様子を窺うと、僕の跡をこっそりつけてくるのがわかる。まずは素性を調べるつもりか。とにかく疲れたので、果報は寝て待てだ……。
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