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第十話 青年剣士と盗賊(相手side)
しおりを挟むその森には、とあるパーティーの一人がいた。
エドガータワーの攻略を目指すパーティーの中でも、極めて個人主義といわれる異色のパーティー【狼の魂】、通称ウルスリのメンバーだ。
このパーティーは最近になって剣士と回復術師が抜けてしまい、ダンジョンに通えなくなったことで、財政が滞って困窮していた。
そのため、このメンバーは自分のお小遣いだけでもせっせと稼ごうと、危険な森の中で隠密行動し、一匹ずつモンスターを狩っていたのだ。
それは、盗賊《シーフ》の少女ロランだった。ジョブの特徴としては気配を隠せるだけでなく、索敵や罠の解除もできることで知られている。
(ふう。一匹倒すのも一苦労ですぜ……って、な、なんかさっきから物騒な物音が聞こえてきやがりますが……)
ロランは気配を隠しつつ索敵して、近くに誰かがいるのがわかり、茂みの中から恐る恐る様子を覗き込んだ。
(な、何あれ……⁉)
すると、そこではとんでもない事態が発生していた。
なんとも頼りなさそうな一人の青年が剣を手にして、森の中でウルフやゴブリンをあっさりと倒していたのだ。
それも、モンスターが飛び掛かったかと思うと、青年はその死角に回り込み、一撃で葬り去っていた。
一見すると青年の動きはお世辞にも早いとは言えないのに、俊敏な動作のモンスターに対応できているのが不思議だった。
(す、凄い……。剣についてはあんまりわかんねえですが、間合いの取り方が完璧すぎですぜ。一体どこの有名な剣士さんなんですかね……?)
青年が一人で奮闘、無双する姿に興奮したロラン。
彼を尾行していくと、その青年は遂にボスを一人で倒してしまい、あまりの強さに気分が高じて自分の気配を最早隠蔽しきれなくなっていた。
(……や、やべーですね。オークキングを一人で倒しちまうなんて、ありゃ本物です……。剣士は剣士でも、剣豪。いや、その遥か上級の剣聖なのかもです。ボクは盗賊だっていうのに、心を奪われちまいますよぉ……)
ロランはそれから青年の跡をつけて拠点を確認したのち、急いで郊外にあるパーティー宿舎へ戻ってパーティーメンバーへ報告することにした。
「――み、みなさん、聞いてください――ふわ……⁉」
玄関を開け。勢いそのままに中へ入ったまではよかったものの、椅子の足に引っ掛かってド派手に転ぶロラン。
「……い、いたた……こ、この椅子、ふざけんなです……」
「物に当たるなよ、ロラン」
「それじゃモテんぞ、ロラン」
料理をしていた大柄な男と、本を読んでいた女が、それぞれ自分のことをしながら棒読みの言葉を発する。
「ベホム、ジェシカ、うるせーです! それより、凄い人を発見しましたぜ……!」
「「凄い人……?」」
「それが――」
ロランは身振り手振りを加えながら、自身が目撃したことをメンバーの二人に話す。
「すげーな。オークキングをたった一人でか。そいつは興味深いねえ」
「ふむ……。確かに凄いが、そんなに凄い剣士ならちゃんとその場でスカウトしたのだろうな?」
「ジェシカ、ボクが超シャイなのは知ってるくせに! それに、あの人は豪邸を拠点にしてて、しかもエルフのメイドまでいたから、どうせ有名パーティーにでも入ってると思って、そのまま尻尾巻いて逃げ帰ってきちまったです……」
「「……」」
ロランの話を聞いて、エプロン姿の男ベホムと、片眼鏡をつけたジェシカがお互いの顔を見合わせる。
「それじゃ、ジェシカ。明日になったら一応みんなでスカウトしてみるか?」
「うむ。ベホム。それでいこう。ただ、やることがあるゆえ、明日からだ」
「えー⁉ それじゃ誰かに取られちまうですよ!」
「ロラン、昔から急がば回れっていうだろ? 大体、俺は今料理中なんだよ」
「そうだぞ、ロラン。私だって読書中だ。それを読み終わらねば……」
「……こ、このパーチー、終わってる……あ、でもでも、お腹空いたし眠いし、今日はもういいですっ!」
「「……」」
ロランの切り替えの早さには、ベホムとジェシカの二人も思わず苦笑いを浮かべるのであった。
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