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第十一話 普段通りなんだけど
しおりを挟むあれから帰宅した僕は、翌朝になってメイドのエルシアと広い庭の一角にいた。
彼女がここに野菜の種を植えたらしいので、見てもらいたいとのこと。
「ピッケルの回復術なら、今日中にでも収穫できるかもって思って!」
「へえ、どんな野菜?」
「じゃがいも!」
「なるほど。それじゃあ早速やってみるよ」
僕は土に向かって時間を進める回復術を使った。すると、一瞬で芽が出て、見る見る野菜の葉で覆われれ、紫色の花が咲いた。
「――す、凄い! たった一瞬で⁉ お花がとっても綺麗……! って、すぐ枯れちゃった……」
「ふう。じゃがいもの収穫適期は、花が枯れてから3週間くらい経ってからだからね。葉の下が黄色くなるまで時間を進めないといけないんだ」
「へー、そうなんだ……」
土を掘ってみると、立派な男爵芋が沢山できていた。食べきれないくらいだ。
「わーい、おいしそー。はっ……」
「どうした、エルシア?」
「だ、誰かこっちに来る!」
「え……」
エルシアが庭の入り口のほうを向いて警戒モードに入った。
すると、まもなく二人……いや、三人組の男女が近づいてくるのがわかった。
戦士っぽい大柄な男一人と、骸骨の杖を持った魔術師らしき女一人、それにその後ろに隠れたフードローブ姿の小柄な女が一人だ。
まさか、昨日の件で僕を勧誘しに来たんだろうか?
「侵略者⁉ ピッケルはあたしが守る!」
「エルシア、気持ちはありがたいけど、それは気が早いって。あれは、僕をスカウトしに来た冒険者パーティーかもしれないから様子を見てみよう」
「へえ、そうなんだ……で、でも、何があるかわからないから、何かあったときは、魔導書で学んだ魔法をっ……!」
「……」
エルシアのこの忠実な姿、頼もしいっちゃ頼もしいんだけど、見ていて危なっかしい。
「やあ、ちょっといいかい? 俺は【狼の魂】パーティーのリーダー、戦士のベホムだ」
「はあ。僕はピッケルだけど、なんの用事かな?」
「ピッケルっていうんだな。剣士の君を勧誘しにきた。よかったらだけど、うちのパーティーに入ってくれないか? あ、近くにいるのは、メンバーの魔術師ジェシカと、盗賊のロランだ」
「ふむ、私はジェシカと申す者。ピッケル、よろしく頼む」
「ボ、ボ、ボクはロランっていう名前ですぜ。ピッケルさん、よろしくっす……!」
「……」
やっぱり僕を勧誘しにきたんだな。
【狼の魂】って聞いたことあるような……
って、なんか違和感があると思ったら……
「僕、剣士じゃなくて回復術師なんだけど……?」
「「「えぇっ……⁉」」」
そう返すと、【狼の魂】パーティーは文字通り仰天していた。
「ってことは、ただの見間違いじゃないか、ロラン?」
「ふむ。これは失礼した。うちのメンバーが幻でも見たらしい。さ、帰るぞ、ロラン」
「い、いや、マジで本当ですから、ちょっと待ちやがれです! あ、あの。き、昨日、あなたは、森にいましたよね?」
「あ……」
なるほど。昨日感じた熱い視線の正体はこのロランっていう子だったのか。それで剣士だと勘違いされたと。
彼女が言うように、僕が昨日森にいて、剣でオークキングを倒したことを話すと、彼らは面食らった様子で互いの顔を見合わせていた。
「そりゃすげえ。ピッケルだったか。回復術師なのに、剣でオークキングを倒すなんて、ありえるのか……」
「ふうむ……実に奇妙だ。そんなこと、どんな書物にも書かれていないぞ……」
「ボクもわけがわかんねえでございます……」
「……」
剣でっていうより回復術で倒したんだけど、それはわかりにくいと思うので言わなかった。
「「「もしかして二刀流……?」」」
「そ、そんな感じかな?」
一応剣で倒したから、あながち間違いじゃないのかも。
彼らが言うには、剣士と回復術師に抜けられているので、是非一人二役でパーティーに入ってほしいということだった。
「ん-……ありがたいし、僕も入りたいっていう気持ちはあるけど、その専用の人を二人入れたほうがいいんじゃないかな」
なんせ、追放された身なだけに、僕にはためらいがあった。それに、今思い出したけど、【狼の魂】ってそこそこ有名なパーティーだよね?
そうそう。ウルスリって略されてるパーティーで、かなり前だけど、確かエドガータワーを7階まで攻略してる。
だから、兼任の僕じゃ物足りないだろうし、普通にギルドで募集したほうがいいんじゃないかと余計に思えてくる。
「一応言っておくが、俺のパーティーは個人主義なのよ。スカウトも方針もな」
「ギルドでは募集しないってこと?」
「ああ。普通はギルドを中心にしてメンバーを探すが、うちは独自のやり方を取ってる。最新の情報には疎くなるが、その場で相手の能力を見極めてスカウトする。自由に行動し、フラッと集まってダンジョンに行く。だから、合わないやつは自然と消えていくし、合うやつは残っていく。もちろん、ある程度の能力があればの話だ」
「なるほど、それはなかなかいい感じだね。でも、僕にはある程度の能力が本当にあるのかどうか、いまいち自信がないんだ」
「そんなに自信がないなら、ここでテストさせてもらうぜ」
「テスト?」
リーダーのベホムという男が切り出してきた。
「俺は利き手がダメになってから戦士に転向したが、かつてはそこそこ知られた剣士だったんだ。当時ほどじゃないが、今は左手でもある程度やれるようになったし、一戦交えてみないか? もし入る気があるなら、それで判断させてもらう。どうだ?」
「じゃあ、それで」
やっぱり、能力を判断してもらってからのほうがいいし、僕は承諾すると木剣を手にベホムと向かい合った。
すぐに遅延の回復術を使い、背後に回り込んで倒す。
「――ま、参った……てか、動きがまったく見えなかった……」
「ふむう。あのベホムが一瞬でやられるとは」
「ピッケルさん、すげーです……」
「……」
みんなの過剰な反応に戸惑う。僕としては普段通りなのでこれでいいのかという気持ちしかなかった。
そのあと、回復術師としてのテストが始まった。
「まず、傷の回復だ」
そういって、わざと傷を負うベホム。掠り傷で、僕がそれを治す。そしたら魔術師のジェシカが口を出してきた。
「ふむ。ピッケルよ、君は回復術の基本ができていると見た」
「え、回復術に精通を?」
「うむ」
彼女によると、かつて回復術師だったこともあるとのだという。足の状態が悪くなってからというもの、傷ついたパーティーメンバーに近づいて素早く回復ができなくなったということで引退したが、彼女も兼任していたのだ。
こんなこともできると、僕は剣で自分の腕を切断してみせた。
「「「ひえっ……⁉」」」
唖然とする【狼の魂】パーティー。
「どうしたの? こんなのすぐ戻るよ」
すぐに元通りにすると、【狼の魂】パーティーは目を輝かせて、古傷とか近視とかも治してくれと頼んできた。それを時間を戻す回復術で全部治して、みんなまた驚いた顔を見合わせる。【超越者たち】パーティーじゃこれが日常茶飯事だったのに。
「な、なんでこんなやべー人材が今まで余ってたんだ……」
「きっと、あれだ。ベホム、凄すぎて、逆に伝わらなかった可能性」
「ジェシカ、絶対それにちげーねえですうう! っていうか、ピッケルさん。ボクの恋心も治癒しやがれください!」
「……」
なんかみんなやたらと騒いでるけど、合格ってことでいいのかな……?
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