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第二十話 回復術師の集い(相手side)
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【超越者たち】パーティーの宿舎では、これでもかと沈痛なムードが漂っていた。
それもそのはずで、古代地下迷宮で狩りをしている最中、メンバーの一人である盗賊ネルムの右腕が切断される事態になってしまったからだ。
しかも、前任者を追い出してまで迎え入れた新人の回復術師が、その腕を治すこともできなかったため、彼らはその現実を容易には受け止められずにいた。
「ありえねえ。ありえねえよ、クソがよ……」
リーダーのディランが、放心状態で何度も同じ言葉をつぶやく。
「ありえねえありえねえって、さっきからディラン、そればっかりじゃない。聞いてるこっちまでどうにかなりそうよ。いい加減にしてよね!」
「なんだよ、リシャ。お前、ネルムがこんなことになったっていうのに、なんとも感じてねえのか? こんな理不尽な現実を簡単に認められるってのかよ……⁉」
「その気持ちはわかるし、あたしだって目を背けたいけど、これは紛れもない現実でしょ⁉ そこはちゃんと目を向けないと!」
「……ええ。確かに、自分もリシャの言う通りかと思います。ネルムは右腕を不運にも失い、それを回復できない役立たずが来てしまったということです。要するに、あのピッケル以下だったと……」
「いやいや、クラフト。ちょいと待つっすよ! 責任転嫁も甚だしいっす。前任者を追い出してまで、その役立たずをわざわざ迎え入れたのはどこの誰なんっすかねえ……」
カインが苦笑いしながら抗議するも、既に発言権を失っているのかメンバーの反応はとても薄いものだった。
「……で、これからどうすんだ? 新しい盗賊と回復術師を募るにしても、エドガータワーへ潜る日はもう間近に迫ってる。俺たちは最も脚光を浴びるパーティーとして、王様が謁見の間から魔法の鏡で天覧される予定だから、選んでる時間がねえよ……」
「は……? ちょっと待ってよディラン。新しい盗賊を募るって……ネルムを見捨てるわけ⁉ あたしたち古い付き合いなのに!」
「そ、それは仕方ねえだろうが! それに、ピッケルだってお前らの古い付き合いだったろ。それを追放するのに賛成してたリシャに言われたくねえ!」
「うぐぐ……」
「まあまあ、リーダーもリシャも、落ち着いてください」
「「あぁっ⁉」」
「うっ……こ、これは失敬しました……って、今のでネルムさんが起きてしまいましたよ。まったく」
「「あっ……」」
「……うぅ……私の右手が……ないの……ぐすっ、えぐっ……」
「「「「……」」」」
怒声に加えてネルムの泣き声まで上がり、パーティーの雰囲気は悪くなるばかりだった。
「というか、切断がそんなに当たり前に治るっていうなら、ピッケルってのに治してもらえばいいだけじゃ? おいらもこの目で実際に見てみたいし」
「「「「あ……」」」」
カインの言葉でその場のムードがパッと明るくなったが、リーダーのディランが首を横に振る。
「い、いや、それだけはダメだ! 追放した無能に回復してもらうなんてプライドが許さねえし本末転倒だろ! それより、適当にその辺の回復術師に頼めばいい。仲間を募るとかじゃなくて、臨時で金を払って回復してもらうんだ。それなら手っ取り早いだろ!」
「ディラン、それはグッドアイディアね。その手でいきましょ!」
「あのう、リーダー。おいらの立場は……?」
「カイン、てめえはお飾りのメンバーだ。また追放なんてしたらこっちの悪評にも繋がるから、しばらく大人しくしてろ。お前も今出て行ったら、とことん悪い噂を流してやるからな。とにかく、ギルド周辺の回復術師に金を払って切断を治してもらって、俺らの正しさを証明してやる!」
「……」
鼻息荒く宣言するディランに対し、カインは内心忸怩たるものがあった。
(ディランっていうのは、なんとも意固地なリーダーっすねえ。はあ。こんなパーティーに来るんじゃなかった。前の【狼の魂】パーティーに戻りてえ……。つーか、何もないところから切断を治せる回復術師なんているわけねえし、金と時間の無駄としか思えねえけど、まあお手並み拝見ってところっすかねえ……)
彼らは宿舎を出て、冒険者ギルドで回復術師を募集する。盗賊ネルムの腕の怪我を治せば100ギルスを出すというものだった。だが、実際に集まった回復術師たちからは続々と不満の声が上がるのだった。
「は? 腕の怪我って切断のことかよ……⁉」
「何もない状態から切断を治すなんて、そんなの無理無理!」
「回復術で切断を治すなら、その子の右手がないとねぇ……」
「んだな。バカ抜かしやがって。そんなの治せるとしたら、100ギルスじゃ安いくらいだ」
「というか、【超越者】パーティーの人たち。君ら、回復術師をなんだと思ってるの?」
「そうそうだ、おととい来な!」
「そういえば、この人たちに追い出されたピッケルって人も回復術師じゃなかった?」
「そういやそうだな。それなら、あいつも被害者なんじゃ?」
「「「「……」」」」
カインの予感は的中していた。カインを除いて【超越者たち】の望むような結果は何一つ得られなかったのである。
「ププ……あ、失礼。おいら、ついつい思い出し笑いしただけだから、悪気はねえっす!」
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