27 / 47
第二十七話 証拠を見せろって?
しおりを挟む地下水路ダンジョンを跡にした僕らは、その足で冒険者ギルドへと向かっていた。
ボスのキングアリゲーターからドロップした謎の靴を、遺失物として届けにいこうと思ったんだ。
ボスにやられてしまった初心者パーティーの遺品の可能性が高いとはいえ、そういうのは遺失物として職員が大切に保管しているので、いずれは残された遺族の目に留まって届けられるかもしれない。
「……」
冒険者ギルドへ到着したときだった。ギルド内が不穏な空気に包まれてるのがわかった。
僕が追放されたときに感じたような、とても嫌な空気だ。また僕について悪い噂でも流してるんだろうか?
案の定、色んなところからヒソヒソ話が聞こえてきてヒヤッとしたけど、こっちには視線が集まってこない。
ってことは、僕たちが噂の対象じゃないみたいだ。
それでも良い気はしないけど、情報収集の意味でもどんな話なのか耳を傾けていると、驚くべきことがわかった。
【超越者たち】パーティーについての話題で持ち切りだったんだ。
その内容っていうのが、ディランたちが、地下水路ダンジョンのボス、キングアリゲーターを前に敗北したという驚くべきものだ。
確かに、キングアリゲーターは駆け出しのパーティーで倒すのは難しい。
それでも、中級パーティー以上でセオリー通り戦えば難なく勝てるとされているボスだ。
「なあ、聞いたか? あの【超越者たち】が無様に負けたんだって」
「ウッソー⁉」
「マジかよ、ありえねえ。初心者ならわかるが、エドガータワーの最前線を行ってるパーティーなんだろ?」
「うわっ、本当ならダサすぎ」
「てかあいつら、この前も回復術に関して無知を曝してたよね……」
「「「「「……」」」」」
これにはベホムたちもびっくりしている様子。
そりゃ、最近は色々あって評判が悪いみたいだけど、エドガータワーを攻略する上では今でも最高のパーティーだって思われてるわけだし。
【超越者たち】パーティーの実力がこの上なく疑われる状況において、その高まりが最高潮に達したように見えたときだった。
「おめーら、バカか! んなわけねえだろ!」
一人の青年が大声を上げたんだ。
「こんなの、悪い噂だ! 誰かの陰謀だ! 大方、追放されたピッケルってのが逆恨みで妙な噂を流してるんだろ!」
「……」
あの男は……知っている顔だ。そうだ。確かディランの友人、クレイスだ。そういえばギルドのスタッフの一人だったか。
そうそう、ディランの悪友で、頼みごとをされる際に金を握らされているのを何度か見たことがある。
「あの輩、ピッケル様が逆恨みで悪い噂を流したですって……⁉ アシッドボトルを投げますわよ――」
「マ、マリベル、頼むから落ち着いて。そんなことしたら兵士に連れていかれちゃうよ」
「む、むぐぐ……」
錬金術師のマリベルが暴走しかけたのをなんとか制止できてよかった。
その場では、マリベルの代わりのように、クレイスの言葉に納得がいかない様子の人たちが不満の声を上げ始めていた。
「でもさ、目撃者だっているのよ?」
「うん、あたしも実際に見た!」
「私も見た。なんか怪我人がいたみたいで、逃げ帰ってたわよね!」
次から次へと上がる迫真の声。今のところ、彼らが嘘をついてるようには見えない。
それでもクレイスは顔を赤らめ、身振り手振りを交えながら躍起になって否定していた。
「どいつもこいつも、アホかおめーら、誰でもわかるような嘘をつくな! それとも、何か証拠でもあるっていうのか⁉」
「証拠っていうか、その怪我人はボスモンスターに足を食われてたみたいだぞ?」
「おい、そこのおめー。なら、証拠はあるのか? 逃げるなよ!」
「あ……」
クレイスが盛んに口にする証拠という言葉を聞いて、僕はあの靴のことを思い出して竜のポーチから取り出した。
これに関する記憶が薄れている場合、時間を戻す回復術を使うことで、当時の記憶を部分的にだけど鮮明に蘇らせることができるんだ。
ただ、ダンジョン帰りなわけで、回復術を使うならもうちょっと休憩したいところ……って、そうだ。あの手があったか。
「マリベル、気力を回復する薬をお願いできるかな?」
「あ、はい、ピッケル様、もちろんご用意しますわ!」
マリベルの特製ポーションを飲むと、見る見る気力が溢れてきた。よーし、これなら今すぐ使えるはず。
早速、靴に回復術を使用してみると、これを履いている人物が脳裏にはっきりと浮かび上がってきた。
「――そうだ。これは間違いなく、リシャが履いていたものだ……」
「「「「「えぇっ……⁉」」」」」
僕の言葉でベホムたちが驚愕の声を上げる。当然、それはクレイスの耳にも入り、僕たちを指差してきた。
「お、そこにいるのは、噂をすりゃ回復術師のピッケルじゃねーか。やっぱりおめーの仕業だったか。自分が無能すぎたから追放されたってだけなのに、その逆恨みで【超越者たち】の悪い噂を流してたんだな。最低すぎるぞ⁉」
「僕がその噂を流したっていう証拠もないよね? とりあえず、この靴を見てほしい」
「へ……? なんだよ、その靴は。まさかおめーが履いてんのか? 趣味わりーな」
「いや。これこそ、君が欲しがってた証拠品だよ」
「は……?」
「この靴は、僕がかつて所属していた【超越者たち】パーティーの一人、魔術師のリシャが履いていたものだ。これが、地下水路ダンジョンでボスを倒したときにドロップしたんだよ」
「な、なんだって……⁉」
クレイスの顔が見る見る驚きの色に包まれる。さあ、これから彼はどう弁明するつもりなのかな?
783
あなたにおすすめの小説
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる