回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第二十八話 これも回復術師の仕事

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「「「「「ザワッ……」」」」」

 冒険者ギルド内はより一層騒がしくなってきた。

 ギルド職員の一人、クレイスの欲しがっていた証拠品を僕が突き出したことで、彼が窮地に立たされたのは火を見るより明らかだった。

「ざまーみろですわ。そっちがあんなに証拠を欲しがっていたから、ピッケル様は提出してみせたっていうだけの話ですわよ?」

「こ、こいつ……」

 したり顔のマリベルの挑発に対して、クレイスは睨み返したのち靴をジロジロと間近で見始める。

 すると、彼は何を思ったのかニヤリと笑って靴を僕に投げ返してきた。

「な、何をなさいますの⁉」

「何をなさいますの、じゃねーよ、アホ! こんなもんが証拠だって? 笑わせんな。靴なんてそこらの店で普通に売られてるもんだろ。どうせ、それを購入してきてリシャの靴だってことにして、濡れ衣を着せようってわけだ。きたねーな!」

「……」

 なるほど、その手で来たか。でも、そういうやり方で反撃するのも大体予想済みなので問題ない。

「残念ながら、この靴はこの世で一足しかないんだ。オーダーメイド品だからね」

「な、なんだと……?」

「あら。そういえば、この靴のデザイン、どこかで見た覚えがあると思っていましたら、たった今思い出しましたわ。王室にも関わりのある有名デザイナー、ルナ・ヴィトルス様が作ったものですわね。確かに、この世には一足しかないものですわ」

「はあ? 嘘つくな。王室に関わりがあるだの有名デザイナーだの、出鱈目抜かすな! 大体、石ころのおめーに何がわかんだよ、この阿婆擦れが!」

「あら。随分と口の悪いお方ですわね。一応、こう見えてわたくし、公爵令嬢なのですけれど?」

「な……な、なんだって⁉」

「それくらいで驚かないでほしいですわ。わたくしたち【狼の魂】パーティーもまた、王室に招待されてますのよ? レビテも一つ格下とはいえ侯爵令嬢ですし、ピッケル様の師匠は、あの聖女ミシェル・アリスティア様なのですわ」

「……な、な、なっ……?」

 ここぞとばかりマリベルが捲し立てたことで、クレイスはさらに追い詰められてる様子。見ててちょっと可哀想になってくるレベルだ。

「……」

 項垂れるクレイス。さすがにもう観念したかと思いきや、彼は頭を上げて僕たちを凄い形相で睨みつけてきた。

「それが本当にリシャのものだとして、そこにいるピッケルが盗んだだけじゃないのか⁉ 追放されたときの腹いせによ!」

「はあ……⁉ 言いがかりはよしてくださいまし!」

「みんな、聞いてくれ! ピッケルは追放される際、その腹いせに高価な靴を盗んだ挙句、それを利用して【超越者たち】パーティーを不当に貶めている! これは重大な犯罪行為だ!」

「「「「「なんだなんだ……?」」」」」

 野次馬がどんどん集まってきて、周りがどよめいている。

 このままじゃまずい。人間っていうのは昔から、声が大きい人に惹かれてしまう傾向にあるんだ。

 たとえ事実を言ってなくても、それが真っ赤な嘘だとしても、はっきりと聞こえるのでとりあえず耳を傾けてしまうからだ。

 詐欺師の声が大きいのには、ちゃんとした理由がある。彼らを侮ってはいけない。

 ここは僕がなんとかするしかなさそうだ。

「今から、これがリシャの靴だってことを僕が証明してみせるよ」

「「「「「っ……⁉」」」」」

 誰もが僕の言葉に驚きの色を見せる中、クレイスだけが僕を嘲笑うような目で見ていた。そんなこと絶対にできっこないって確信してるんだろう。

「やれるもんならやってみろよ、無能で盗人のピッケルさんよ」

「……」

 悪口には悪口でなく、結果で返してやる。僕は赤い靴に向かって、とある回復術を行使する。

 とはいっても、今まであまりやったことがない術だからできるかどうかはわからないけど、成功すればこれがリシャのものだと証明できる。

 お、靴がまるで生きてるかのように震え始めた。よし、これならいけそうだ。

「「「「「ヒイィッ……⁉」」」」」

 周囲から悲鳴に似た声が上がるのも仕方ない。

「……な、な、なんじゃ、こりゃあぁぁ……⁉」

 クレイスの目が飛び出しそうになってる。さあ、今のうちに説明しないと。

「ここにあるのはただの靴じゃない。リシャのだ。それも、ボスのキングアリゲーターに噛み千切られたばかりのね。これぞ、時間を戻す回復術を応用した、関連性回復術なんだ。付随するものも回復できるってわけ。さすがに足ごと靴を盗む人なんていないよね?」

「「「「「……」」」」」

 みんなが唖然とする中、クレイスが崩れ落ちるようにしてうずくまった。

「お……俺の負けだ。回復術でこんなこともできるなんて……」

「ピッケル様の凄さがわかったのなら、数々の無礼に対して早く謝ってくださいまし! もちろん、わたくしたちに対しても!」

「……ほ、本当にすまねえ……。ピッケル、それに、ウルスリの仲間たち……。俺はあんたらの悪い噂を流してしまった。けど、逆らえなかったんだ。あいつに……ディランのやつに金を握らされたっていうのもあるし、もし逆らえば、俺は失職することになるって脅されて……」

「……」

 なるほどね。それでここまで必死になって弁明したってわけか。

「しょうがないな。僕を犯罪者扱いした挙句、仲間まで侮辱したことには腹が立つけど、今回だけは許すよ。これからは真っ当に働いてほしい。君はクレイスっていう名前だったよね?」

「……あ、あぁ、俺はクレイスだ……って、本当に許してくれるのか……⁉」

「うん。でも、二度目はないからね、クレイス」

「す、すまねえ……。こんなに凄いのに謙虚で寛容な人に対して、俺はなんてことを……」

 涙を流すクレイスを見て、僕はベホムたちと顔を見合わせて頷いた。

 僕たちは【超越者たち】とはやり方が違うんだってところを見せなきゃいけないのはもちろんだけど、それだけじゃなかった。荒んだ心を回復するのも回復術師としての仕事だからだ。
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