回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第三十話 不協和音の末に(相手side)

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「……私の、腕……右腕……どこ……」

「ネルム、さっきから腕腕うるさいわね。あんたの無能な右腕なんかより、あたしの左足のほうが大事よ!」

「……私の、右腕のほうが重要なの……」

「ひぐっ……誰かぁ、早く、誰かあたしの左足を、なんとかしなさいよおおぉっ……!」

【超越者たち】パーティーの宿舎では、右手のない盗賊ネルムの嘆く声と、左足のない魔術師リシャの悲痛な声により、これでもかと陰鬱した空気が蔓延っていた。

 また、彼らは近日中に最高峰のダンジョン、エドガータワーへ赴く予定であり、王様が天覧されるということで、今更自分たちの都合でスケジュールを変更するわけにもいかなかったのである。

「ねえ、ディラン、これからどうするっていうの? あたしに義足をつけてでもエドガータワーへ行けっていうわけ⁉ なら、お望み通り連れていきなさいよ! ほら、早く! 魔法の詠唱中に転んで不発して全滅してもいいっていうなら!」

「うるせーな、リシャ。なんでもかんでも人のせいにするなよ。そもそも、てめえの凡ミスであんなことになったんだろうが!」

「それは違うわよ! ディラン……元はと言えば、あんたが適当にその場凌ぎでネルムに義手なんか渡して、左手のほうで訓練させなかったからこうなったのよ!」

「て、てめえ……アホか! 左手で訓練って……それじゃ時間が足りねえって普通に考えてわからねえのか⁉ 大体、こんなことになったのも、そっちのくだらない友情ごっこに付き合った結果なんだからな! 新しい盗賊を迎え入れてりゃこうはならなかったんだ!」

「あ、それ言っちゃう⁉ 見る目の欠片もない節穴のあんたが、欠損を回復できるピッケルをわざわざ追放して、カインっていう間抜けな回復術師を迎え入れておいて! それが全ての元凶でしょ⁉」

「はあぁ……⁉ リシャ、何度も言うがな、やつを追い出すことにはてめーも全面的に同意してただろうが! 俺だけのせいにすんなよ、この卑怯者がっ!」

「二人とも、もうその辺でいい加減やめにしませんかね?」

 そこで割り込んできたのは、苛立った表情の戦士クラフトであった。

「今、カインさんがギルドに潜入して情報を収集しに行ってくれています。ピッケルさんの行方を捜してくれているのですから、それまで少しは大人しくなさってください。どうせ、頭の弱いピッケルさんのことですから、その辺をブラブラしてるでしょうしすぐ戻ってきてくれますよ」

「「……」」

 戦士クラフトの言葉で溜飲を下げたのか、ディランとリシャの喧嘩は一旦収まるも、小声でブツブツと不満そうに何か言い合っていた。

「――ただいまっす! みなさん、大変なことがわかったっすよ!」

「おお、カインさん、随分と早かったですねえ。で、どんなことがわかったのでしょう?」

「それが、ここの前任者のピッケルっていうのが、おいらがかつて所属していた【狼の魂】に入ったみてえっす」

「は……ウルスリだと? そいつらは結構知られてるパーティーじゃないか。どういうことだ……?」

 そこで立ち上がったのが、信じられないといった顔のディランだった。

「ピッケルの悪評はクレイスを通じて嫌っていうほど流したっていうのに、なんであいつを迎え入れたんだ……?」

「それに関しちゃ、そこに所属してたおいらがよく知ってるっす。あのパーティーは昔から個人主義でやんして、最新の情報には疎い上に、スカウトもギルドじゃやらねえ方針っす……」

「となると、やつらは人目につかないような場所でピッケルをスカウトしたってわけか……クソが。またここに呼び戻して、あわよくば奴隷にしてやる計画だったってのに……ウルスリのせいで台無しじゃねえか!」

 怒号とともにテーブルを蹴り上げるディラン。

「しかも、もう一つ悲報っす。ピッケルはウルスリでも相当な影響力を誇ってるみてえで、公爵令嬢だの聖女だの、高貴な連中を味方につけて、王様も近いうちにその様子を天覧される予定らしいっす……」

「ば、バカな……やつらが王の天覧の対象にされた、だと……」

 カインが発した言葉が止めとなり、ディランは呆然自失とした様子でその場に両膝を落とす。

 それは彼だけでなく、他のメンバーも同様であり、波紋のように衝撃が広がっていた。

「嘘でしょ……。なんであいつなんかがそこまで認められてるのよ。そりゃ、回復術師としてはディランに見る目がなかっただけでマシなほうだったと思うけど、ありえな……い、イダダッ! だ、誰か、幻肢痛を治してよおぉぉ……!」

「フッ……ピッケルさんも闇落ちして、認められるために賄賂でもばら撒いたのでしょうかね?」

「クラフト、やつは身ぐるみ剥がしてやったから、金なんてねえよ!」

「あ……ディラン、そういえばそうでしたね。うぬぬ……」

「もう……こんな現実……嫌なの……右腕、返して……」

「……はあ。おいらもこんなパーティー、早く抜けてウルスリに帰りてえ。あ、今のはただの独り言っす……」

【超越者たち】パーティーはこれでもかと打ちひしがれていたが、ほどなくしてハッとした顔でディランが立ち上がる。

「こ、こうなったら……だ……」

「さ、最後の手段って、何をする気なのよ、ディラン……?」

「リシャ、ネルム、クラフト、カイン。みんな……騙されたと思って俺に耳を貸してくれ」

「「「「……」」」」

 覚悟を決めた表情のディランの傍に寄る四人のメンバーたち。まもなく彼らの目には、うっすらと希望の光が宿ることになるのであった……。
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