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第三十三話 レクチャーしておこう
しおりを挟む僕たちはようやく、エドガータワーの8階層へと足を踏み入れる。
そこは、縦横に奥行きのある広々とした洞窟のような空間だった。
塔の中に洞窟があるっていうのは不自然に思えるかもしれないけど、この塔自体が異次元の空間内なので当然普通の洞窟じゃないんだ。
っと、僕を除けばみんなここへ来るのは初めてってことで、軽くレクチャーしておかないと。
「ここのトラップは見つけにくくて、急に地面がせり上がったり斜面になったり、出入り口が塞がれたりするけど、何かあってもリスタートの回復術でカバーできるから、落ち着いて周りを見ながら対処すれば問題ないよ」
「「「「「了解っ!」」」」」
一度この階層をクリアしているだけに、僕の言葉にはみんなが頷いてくれた。
難易度が極めて高いダンジョンということもあって、リスタートの回復術を使っても絶対に安全というわけじゃない。
失敗すればするほど僕のエネルギーの消費量も増え、その結果エネルギーが足りなくなってミスをカバーできなくなるっていう恐れもあるので、失敗をしないのに越したことはない。
「あともう一つ。出てくるモンスターは岩で作られた岩人間なんだけど、とても精巧で人間そっくりだから、索敵を使ってもすぐ近くにいないと判別はつかないと思う」
「え、えぇっ……⁉ それじゃピッケルさん、岩人間と間違って他のパーティーをやっちまう、なんてこともありそうだし、すげー躊躇しちまいそうですぜ……」
盗賊ロランが心配そうに言う。索敵係ということもあって、彼女の懸念もわかる。
岩人間はモンスターといっても、おびただしい魔力によって精妙に作られており、挙動さえも人間そっくりなんだ。
魔法や剣で攻撃してきたり、弓や回復術を使ってきたりと種類も豊富だ。
その上、人間かモンスターかどうかの区別は、索敵をもってしてもかなり近づかないと判断し辛い。
「大丈夫だよ、ロラン。思い切ってやろう。もし人間と間違えて皆殺しにしちゃったとしても、僕が即座に回復術で蘇らせるから」
「「「「「……」」」」」
あれ、みんな唖然としてる。僕なんか変なこと言っちゃったかな? まあいいや。
モンスターと間違えて人を殺しちゃった場合、すぐに生き返らせれば消費量は大幅に省けるものの、エネルギーの消耗はそれなりにある。ただ、その場合でも気力を回復できる錬金術師マリベルの存在もあるからね。
「――うおっ……⁉」
出発してからまもなく、ベホムの口から驚嘆の声が上がるとともに、一部の地面が大きくせり上がった。
天井からツララのように垂れ下がった岩の一部に突き刺さりそうになるも、リスタートの回復術が効いたのか即座に回避してくれた。
「……し、心臓に悪かったぜ、今のはよ……。お、おいロラン、お前な、罠をちゃんと探知しろって!」
「し、してるけど、中々上手くいかねえです……」
「まあしょうがないよ。エドガータワーのトラップは特に見つけにくいっていわれてるから、気づいたときにはこうなってることが多い」
「へえ、厄介すぎやすね……あ、そうだ! ピッケルさん、ボクの指にも、時間を進める回復術ってやつをやってくれねえですか?」
「え……いや、それはやらないほうがいいかも」
「え、それはどうしてなんですか? 教えやがれください!」
「索敵や探知は、単に熟練すればいいってものじゃないから。その場の空気を敏感に感じ取れるようになるには、慣れよりも緊張感のほうが必要なんだよ」
「な、なるほどです。なんとなくではありますが、わかったような気がしやがります……。しかし、わからねえのは、なんでピッケルさんが盗賊についてそんなに詳しいのかってことですが、是非とも教えてほしいですぜ……」
「そりゃ、普段から周りをよく観察してたからね。回復術師は、小さな異変でも見逃さないように気を遣う職業だから」
「な、なるほどです。安心しすぎてもダメだって、よくわかりましたぜっ」
「うん、ロラン。その意気だよ」
服装とかにはあまり興味ないけど、周りにいる人の挙動とか顔色とかには注意してたから、盗賊が普段どんな動き方をしてるのかも頭には入ってるんだ。
「――トラップですぜ! ボクが解除しやす!」
そのアドバイス以降、ロランの動きは抜群によくなり、次々と罠を探知して解除することに成功した。
一つの失敗を次に生かして、緊張を持続させるのが盗賊の成功の秘訣であって、あえて彼女にはリスタートの回復術を使わなかった。
「ふむ。ならば、ピッケル。私にもご指導のほど、賜りたいものだが」
魔術師ジェシカがそんなことを言い出した。
「んー……それなら、魔法を捨てよう」
「ふむふむ……ってえ……⁉ ま、魔法を捨てるって、一体……」
「決して冗談じゃなくて、そのつもりでやったほうがいいってこと。力みっていうのは、体だけじゃなく心にも表れる。それは焦りだ。それのせいで、ジェシカはモンスターが大量に出現したときに、焦りで詠唱が遅れることがある。だから、魔法を放つんじゃなく、投げ捨てる気持ちでやったほうがいいんだ」
「な、なるほど……ううむ、なんというか、腑に落ちる話だ……」
彼女も納得してくれたみたいでよかった。
しっかりと索敵してくれるロランがいるおかげで、こうして最高峰のダンジョンにいながらも会話だってできるようになったしね。
「ピッケル様、わたくしにも是非、錬金術のコツというものを教えてくださいまし!」
「ピッケル様、私にも剣の御指導、お願いします!」
「おいおい、リーダーの俺が先だろう⁉」
「ちょっ……⁉」
マリベルとレビテ、ベホムまで迫ってきて収拾がつかなくなってきた……。
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