回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第三十五話 陰謀と沈黙(相手side)

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【狼の魂】パーティーがエドガータワーを訪れたのち。

【超越者たち】パーティーもまた、それを追いかける格好で同ダンジョンへとやってきていた。

「絶対に許さねえぞ、クソピッケルの野郎……」

 パーティーリーダー、剣士ディランの怒りは頂点に達そうとしていた。

「ディランったら、気持ちはわかるけどそんなに怒らないの。体に凄く悪いし、失敗するわよ?」

「私も、そう思うの……いくらピッケルがお人よしでも、殺気で漲ってたら気づかれちゃうの……」

「フッ……まったくです。治ったからといって、ことを急ぐようでは、またしても失敗してしまいますよ?」

「そうっすよ。っていうか、おいらとしちゃあ、あまり気が進まねえんだけども……」

「うるせーな、お前ら。これが怒らずにいられるかよ。ああやって王の前で散々恥を掻かせられた挙句、クレイスの件まで暴露されて、俺らの立場はピッケル一人に崩されたも同然なんだよ! あんの野郎……見てろ……俺が味わった屈辱……2倍、いや3倍にして返してやる……」

 怒髪天を衝く勢いのディランを筆頭に、覆面を被った彼らが向かったのは、エドガータワーの8階層である。

【超越者たち】は、【狼の魂】の妨害を計画していたのだ。

「この階層は障害物が多い上、モンスターの岩人間とただの人間の区別は、熟練した盗賊の索敵であっても見分けがつかない。つまり、襲撃には打ってつけってわけよ。俺って天才だろ?」

「ふふっ、本当にね。ディランって悪巧みを考えるだけなら世界一なんじゃない?」

「うん……ディラン、格好いいの……」

「フッ、狡賢さ……いえ、聡明な点ではディランには負けますが、自分のほうが見た目は格好良いと思うのですが……」

「クラフトの旦那も格好いいっすよ! おいらが保証するっす!」

「……カインさんに保証されても全然嬉しくないのですが、まあいいでしょう!」

 回復術師のピッケルを利用する形で、ネルムとリシャの欠損が回復したこともあり、パーティーの雰囲気は上々で、復讐計画も今のところ順調に進んでいた。

「――見ろ、お前たち。やつらが俺に気づいてる様子はまったくねえ」

 8階層。ディランたちは密かに【狼の魂】を追跡していたが、彼の言う通り勘付かれている様子は今のところなかった。

「これも岩人間のおかげだな。しかも、だ。トラップはやつらの一人、盗賊ロランが探知、解除してくれてる。抜かりはねえ」

「うんうん。ネルムの右手が治ったといっても、罠の探知に関してはまだ不安だしねぇ」

「うん……探知せずにいけるし、楽々なの……」

「しかもですよ。我々のためにモンスターまで駆逐してくれるわけですから、いやはや、彼らはまさに、アイテムボックスのような存在ですねえ」

「んー……おいらは元メンバーっすから、ちょっと罪悪感あるっすけどねぇ。まあ面白いからいいっすけども、妨害するどころかあわよくば殺そうっていうのはやりすぎなんじゃ……?」

「あ……? おい、カイン、無能でも置いてやってるからって調子に乗るなよ。俺たちを裏切ったらどうなるかはわかってるな……⁉」

 カインの胸倉を掴んで凄むディラン。その際、リシャ、ネルム、クラフトが逃げ道を塞ぐかのように彼を取り囲むという徹底振りであった。

「……わ、わかってるっすうぅ。怖えっすからやめてくれよぉ……」

 それ以降、ディランの狙い通り、【超越者たち】パーティーは8階層の奥までスムーズに進むことにまんまと成功する。

「おい、みんな止まれ……! とうとうウルスリのやつら、ボスと戦うみてえだ。ここから肝心なんだから、お前ら気合入れろよ!」

「「「「ラジャー!」」」」

 岩陰に潜んだディランたちは、そこから顔を出して【狼の魂】パーティーがボスのロックフェイスと戦う様子をつぶさに観察することにした。

「「「「「……」」」」」

 彼らがボスと戦う様子を見て、【超越者たち】は誰一人言葉を発さなかった。

 それほど、【狼の魂】は見事なまでの連携プレーを見せていたからである。ディランはハッとした顔をしたのち、苦渋の表情で仲間たちを叱責した。

「……お、おい、お前ら何見入ってるんだよ。あんなの、たまたまだろ!」

「……そ、そうね。なんせ、王様が天覧してるんだもん。気合が入っていつも以上の力が出てるだけでしょ」

「……うん。火事場の馬鹿力ってやつなの……」

「……フッ。田舎者というのは必死すぎて哀れだと思いましてねえ。洗練されている自分たちなら、陛下に天覧されるなどいつも通りのこと。あそこまで熱を入れる必要もありませんから……」

「……なんか、負け惜しみみてえっすけど……」

「「「「あ……?」」」」

「な、なんでもねえっす!」

 ディランたちはそれぞれ文句を吐きながらも、が訪れるのを注意深く待っていた。

「――よし、リシャ、今だっ……!」

「オーケー! これでやつらを決壊に追い込むわよ!」

 ディランの命令に応じて、魔術師リシャが放った鋭い岩石が、まっすぐ【狼の魂】パーティーへ向かっていく。

「「「「「やった!」」」」」

 歓声を上げるディランたち。岩石は魔術師ジェシカの背中に命中し、それをきっかけにして明らかな混乱が生じた。

「やったの……。これなら、やつらの連携も崩れそうなの……」

「フッ……。陛下の前でとんだ恥を掻いた挙句、無様に全滅というわけですねえ!」

「……い、いや、そうはならないみてえっすけど……」

「「「「え……?」」」」

 カインの言葉によって、勝利を確信した表情のディランたちの顔色が変わる。

【狼の魂】パーティーは確かに一時的な混乱を見せたが、あっという間に立て直したかと思うとボスを討伐してみせたのだ。

「「「「「……」」」」」

 そんな驚くべき光景を前に、ディランたちはしばらく一言も発することができなかった。
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