35 / 47
第三十五話 陰謀と沈黙(相手side)
しおりを挟む【狼の魂】パーティーがエドガータワーを訪れたのち。
【超越者たち】パーティーもまた、それを追いかける格好で同ダンジョンへとやってきていた。
「絶対に許さねえぞ、クソピッケルの野郎……」
パーティーリーダー、剣士ディランの怒りは頂点に達そうとしていた。
「ディランったら、気持ちはわかるけどそんなに怒らないの。体に凄く悪いし、失敗するわよ?」
「私も、そう思うの……いくらピッケルがお人よしでも、殺気で漲ってたら気づかれちゃうの……」
「フッ……まったくです。治ったからといって、ことを急ぐようでは、またしても失敗してしまいますよ?」
「そうっすよ。っていうか、おいらとしちゃあ、あまり気が進まねえんだけども……」
「うるせーな、お前ら。これが怒らずにいられるかよ。ああやって王の前で散々恥を掻かせられた挙句、クレイスの件まで暴露されて、俺らの立場はピッケル一人に崩されたも同然なんだよ! あんの野郎……見てろ……俺が味わった屈辱……2倍、いや3倍にして返してやる……」
怒髪天を衝く勢いのディランを筆頭に、覆面を被った彼らが向かったのは、エドガータワーの8階層である。
【超越者たち】は、【狼の魂】の妨害を計画していたのだ。
「この階層は障害物が多い上、モンスターの岩人間とただの人間の区別は、熟練した盗賊の索敵であっても見分けがつかない。つまり、襲撃には打ってつけってわけよ。俺って天才だろ?」
「ふふっ、本当にね。ディランって悪巧みを考えるだけなら世界一なんじゃない?」
「うん……ディラン、格好いいの……」
「フッ、狡賢さ……いえ、聡明な点ではディランには負けますが、自分のほうが見た目は格好良いと思うのですが……」
「クラフトの旦那も格好いいっすよ! おいらが保証するっす!」
「……カインさんに保証されても全然嬉しくないのですが、まあいいでしょう!」
回復術師のピッケルを利用する形で、ネルムとリシャの欠損が回復したこともあり、パーティーの雰囲気は上々で、復讐計画も今のところ順調に進んでいた。
「――見ろ、お前たち。やつらが俺に気づいてる様子はまったくねえ」
8階層。ディランたちは密かに【狼の魂】を追跡していたが、彼の言う通り勘付かれている様子は今のところなかった。
「これも岩人間のおかげだな。しかも、だ。トラップはやつらの一人、盗賊ロランが探知、解除してくれてる。抜かりはねえ」
「うんうん。ネルムの右手が治ったといっても、罠の探知に関してはまだ不安だしねぇ」
「うん……探知せずにいけるし、楽々なの……」
「しかもですよ。我々のためにモンスターまで駆逐してくれるわけですから、いやはや、彼らはまさに、アイテムボックスのような存在ですねえ」
「んー……おいらは元メンバーっすから、ちょっと罪悪感あるっすけどねぇ。まあ面白いからいいっすけども、妨害するどころかあわよくば殺そうっていうのはやりすぎなんじゃ……?」
「あ……? おい、カイン、無能でも置いてやってるからって調子に乗るなよ。俺たちを裏切ったらどうなるかはわかってるな……⁉」
カインの胸倉を掴んで凄むディラン。その際、リシャ、ネルム、クラフトが逃げ道を塞ぐかのように彼を取り囲むという徹底振りであった。
「……わ、わかってるっすうぅ。怖えっすからやめてくれよぉ……」
それ以降、ディランの狙い通り、【超越者たち】パーティーは8階層の奥までスムーズに進むことにまんまと成功する。
「おい、みんな止まれ……! とうとうウルスリのやつら、ボスと戦うみてえだ。ここから肝心なんだから、お前ら気合入れろよ!」
「「「「ラジャー!」」」」
岩陰に潜んだディランたちは、そこから顔を出して【狼の魂】パーティーがボスのロックフェイスと戦う様子をつぶさに観察することにした。
「「「「「……」」」」」
彼らがボスと戦う様子を見て、【超越者たち】は誰一人言葉を発さなかった。
それほど、【狼の魂】は見事なまでの連携プレーを見せていたからである。ディランはハッとした顔をしたのち、苦渋の表情で仲間たちを叱責した。
「……お、おい、お前ら何見入ってるんだよ。あんなの、たまたまだろ!」
「……そ、そうね。なんせ、王様が天覧してるんだもん。気合が入っていつも以上の力が出てるだけでしょ」
「……うん。火事場の馬鹿力ってやつなの……」
「……フッ。田舎者というのは必死すぎて哀れだと思いましてねえ。洗練されている自分たちなら、陛下に天覧されるなどいつも通りのこと。あそこまで熱を入れる必要もありませんから……」
「……なんか、負け惜しみみてえっすけど……」
「「「「あ……?」」」」
「な、なんでもねえっす!」
ディランたちはそれぞれ文句を吐きながらも、そのときが訪れるのを注意深く待っていた。
「――よし、リシャ、今だっ……!」
「オーケー! これでやつらを決壊に追い込むわよ!」
ディランの命令に応じて、魔術師リシャが放った鋭い岩石が、まっすぐ【狼の魂】パーティーへ向かっていく。
「「「「「やった!」」」」」
歓声を上げるディランたち。岩石は魔術師ジェシカの背中に命中し、それをきっかけにして明らかな混乱が生じた。
「やったの……。これなら、やつらの連携も崩れそうなの……」
「フッ……。陛下の前でとんだ恥を掻いた挙句、無様に全滅というわけですねえ!」
「……い、いや、そうはならないみてえっすけど……」
「「「「え……?」」」」
カインの言葉によって、勝利を確信した表情のディランたちの顔色が変わる。
【狼の魂】パーティーは確かに一時的な混乱を見せたが、あっという間に立て直したかと思うとボスを討伐してみせたのだ。
「「「「「……」」」」」
そんな驚くべき光景を前に、ディランたちはしばらく一言も発することができなかった。
623
あなたにおすすめの小説
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる