回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第三十六話 夢にも思わない

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 思わぬアクシデントが発生したものの、僕たち【狼の魂】パーティーはボスを撃破し、エドガータワーの8階層を攻略することに成功した。

 ロックフェイスを倒したことで得た魔石は、最低でも1000ギルスで売れるのでまさに一攫千金ってわけだ。

 王様もその様子はしっかりご覧になられたはず。

 途中で見苦しいところはあったかもしれないけど、ボス討伐に失敗しなくて本当によかった。

 とはいえ、今回の件で心身ともに激しく消耗したこともあり、僕たちは一旦ダンジョンを出て、冒険者ギルドまで帰還していた。

 こうして戻ってきたのは、ゆっくりと休憩するっていう目的があるのはもちろん、魔石を売って平等に分けるためであり、窓口に成否報告をするためでもある。

 8階層の攻略に成功したこともあって、報告した直後にギルドのスタッフさんや周りの人たちからおめでとうと祝福されてほっこりした。

 エドガータワーは最高峰のダンジョンってこともあり、攻略に成功すると一階ごとに500ギルスのボーナスも得られるんだ。

 ただ、ああいうこともあったので喜んでばかりもいられなかったのも事実。

 むしろ、僕らがいるギルドの大広間の一角は反省会のようなムードだった。

「……ふう。本当に、一時はどうなるかと思ったぜ。寿命が10年縮んだかってくらい肝を冷やした。悪いな、マリベル。みんな……」

 リーダーの戦士ベホムが溜め息とともに切り出す。彼はかなり憔悴していて、自身が動いたことでマリベルたちに危険が及んでしまったと反省しきりだった。

「いえ、仕方ありませんわ……。確かにベホム様は少々頼りない人だと思ってますけれど、あの窮地の発端となったのは、ジェシカに飛んできた不自然な岩の塊なのですから」

「そうですね、マリベル。あれはあまりにも不運すぎて、意図的な何かを感じたくらいです」

「……」

 マリベルとレビテの言葉は、それが岩人間のものというより、もっと違う原因があったんじゃないかって仄めかしている感じだった。

「うむ。あれは確かに妙なタイミングだと感じた。というかだな、私のお気に入りのマントを、よくも……」

「ジェシカさん、怒るポイントがずれてますぜ……って、話が逸れちまったじゃないですか。はっきり言いやすが、あれは絶対やつら――【超越者たち】パーティーの仕業ですぜ! ねえ、ピッケルさんもそう思いやすよね?」

 とうとうロランが核心に触れた格好だ。でも、もうその結論に辿り着くのは時間の問題だったとは思う。

「……ロラン。その可能性は考えたくないけど、充分にあるというか、ほぼ確定事項だとは思う。おそらく【超越者たち】は、障害物が多くてモンスターと人間の見分けがつきにくい8階層の特徴を巧みに利用したんだ」

「「「「「やっぱり……」」」」」

 みんなも僕と同じような気持ちだったらしくて、口々に【超越者たち】に対する不満の声を上げ始めた。

 中には、ディランたちの宿舎を襲撃してはどうかっていう過激すぎる声も上がったほどだ。もちろん、その声の主は公爵令嬢のマリベルだった。

「でも、100%黒だって判断できないし、証拠もない以上、慎重に動くべきだよ。相手も考えて動いてるわけで、こっちが感情に任せて下手に動けば、それを相手に利用されてしまう恐れもある」

「「「「「確かに……」」」」」

 どうしたって感情的になるような状況だと、視野も狭くなりがちになるだけに、みんな納得してくれたみたいでよかった。

 それでも、表には見せないだけで憤っているのは僕も同じだし、なんとかしないといけない。

 以前、彼らに保険の回復術について話したことがあった。どうやら、それを使うときが来たようだ。本当は使いたくなかったけど。

「――【狼の魂】の方々、失礼します。少々よろしいでしょうか? 手紙が届いております。それでは、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」

「あ……」

 そこに受付嬢がやってきて、テーブルに手紙を置くと礼をして去っていった。一体、誰からのものだろう? まさか、【超越者たち】パーティーから?

 みんなの顔に緊張の色が滲む中、リーダーのベホムが意を決した様子で手紙を手に取った。

「何々――ってえ……⁉ マ、マジかよ……」

 手紙を持つベホムの目が見開かれ、手が小刻みに震え始める。一体どんな凄い内容が書かれてるんだろう?

「い、いいか……? ジェシカ、ロラン、ピッケル、マリベル、レビテ……こ、これから俺が言うことを、お……落ち着いて聞いてくれ」

「「「「「ゴクリッ……」」」」」

 手紙を読んだベホムが一番冷静さを失っているとわかる。そんな異様なムードの中、ようやく彼が重たい口を開く。

「ほ、本当の意味で招待されちまった……。ダンジョンで俺らが戦う様子を王様が天覧された際、それをお気に召されたってことで、王城の謁見の間まで来てほしいってよ……」

「「「「「え……ええぇっ……⁉」」」」」

 まさか、僕たちが王様から直々に謁見の間に呼び出されるなんて、夢みたいな話だ……。

「ジェ、ジェシカさん、ボクの頬を抓りやがってください! イ、イデデッ……⁉ 夢じゃないのは嬉しいですが、強く抓りすぎですよ!」

「す、すまん、つい……って、ロラン、その顔可愛いじゃないか!」

「だ、抱き着きやがらないでください!」

 ロランがジェシカに思いっきり抓られた挙句、抱き着かれたので笑い声が上がる。

 ……って、そうだ。

 王様に謁見するなら、その機会に是非やっておきたいことがある。

「みんな、いいかな? ちょっと話があるんだけど……」

 そういうわけで、僕はをみんなに提示することにした。

「「「「「え……ええええぇぇっ……⁉」」」」」

 ベホムたちがさっきよりもずっとびっくりしてる。それだけ意外性のある案だったってことか。

 でも、僕が誤解のないように丁寧に説明することで、みんな驚きや衝撃を引きずりつつも、ようやく納得してくれたみたいだ。
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