回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

文字の大きさ
42 / 47

第四十二話 周りから助けられる職

しおりを挟む

「本当にすっきりした。ピッケル、最高にいかしてたぜ!」

「え……」

 まさにこれから、9階層の攻略へ向かおうとしたところで、ベホムが親指を立てて思ってもなかったことを言い出した。もしかして冷やかしてるのかな?

「うむ。ピッケルがいかしてるというか、可愛いと思ったのは内緒だ」

「……ジェシカまで、からかわないでよ。あの場面の僕のどこにそんな要素が? 可愛げなんて欠片もないと思うんだけど……」

「なんていうか、ピッケルさんの背中には、暗殺者のような殺気が漂ってましたぜ! 多分、変わり者のジェシカさんのことだから、そこに惹かれたのかと!」

「なるほど……って、ロラン、僕は暗殺者じゃなくて、一応回復術師なんだけど……?」

「ピッケル様はご自身の迫力に気づいておられないのですわ。いざというときの台詞は、わたくしはおろか、特製の毒薬さえも及びませんことよ!」

「……まあ、確かに毒と薬は紙一重とはいうけど、マリベル、それじゃ僕がとんでもない危険人物みたいじゃないか……」

「ええ、マリベル。ピッケル様はとっても危ないというか、無茶をなさるお人です。私が身をもって体験しましたから!」

「レビテ……幽霊だった君を回復して倒れたのは確かだけど、まさかあそこまで寝込むとは思ってなかったから……」

 こういう弄りができるのも、ベホムたちが僕の気持ちを汲んでくれているからなんだと思う。

 僕はディランたちに対してああは言ってみせたものの、正直なところ複雑な気持ちも少なからず抱いていたからね。

 ああいう失望するようなことをされたことも含めて、怒りで何度も我を忘れそうになった。

 そうして荒れに荒れた心を鎮めるにしても、回復術師とはいえ僕一人じゃ難しかった。

 回復術師は、周りから助けられる職でもあるんだって思い知らされた。自分が相手にしてあげたことは忘れていいけど、してもらったことに対しては感謝の気持ちを絶対に忘れるでないぞっていう師匠の金言を思い出す。

 額縁に入れて心の中に飾っておきたい言葉だ。いつでも思い出せるように。

 ……さて、ベホムたちのおかげで気持ちを切り替えられたので、9階層を攻略するとしよう。

 ここは、見渡す限り鬱蒼とした巨大な森林が広がっている階層だ。

 当然ながら迷いやすく、障害物も8階層以上に多い。

 探知や索敵についても、木々が植物として生きているため阻害されやすい。

 なので、僕はできれば用心してほしいとベホムたちにあらかじめ伝えていた。ディランたちがまた襲ってくるかもしれないと。

 もちろん、彼らがそこまでバカじゃないと思いたいけど、世の中には絶対なんてないし、万が一ってこともあるわけだからね。

 森林のモンスターは、半透明のインヴィジブルスネイル、自然と同化したフォレストスライム、ウッドゴブリン等、擬態に特化したものばかりが出現する。

 また、至るところにループトラップがあり、そこを踏むとまたスタート地点に戻ってしまうというもの。

 なのでそれらを探知、解除できる盗賊の重要性がこの場所ではさらに高くなる。

 幸い、ロランは8階層での経験を経て、さらに成熟した探知を見せてくれるはずなので、そこら辺はあまり心配してない。

 罠は見た目じゃどこにあるかわからないけど、空気の微妙な違いを指先で感じ取ることができる。

「すげえです。あっちこっちに罠がありやがります……!」

 そうそう。最初にここへ来たとき、中々先へ進まない停滞感がして、盗賊ネルムがミスを犯してたことに気づくのに時間がかかったんだ。

 そう考えたら、ロランはやる前から察知しまくってるので期待が持てる。

「グジジ」

 独特な、それでいて微かな鳴き声とともに、半透明の巨大なカタツムリが登場した。

 インヴィジブルスネイルだ。

 よく見てないとわからないくらい景色に溶け込んでるとはいえ、ロランの索敵で出現方向がわかったので判断できた。

 この階層ではある意味一番厄介なモンスターともいえるため、もし存在に気づけなかった場合、途轍もなく恐ろしい目に遭うことになる。

 このモンスター、これ以上ないといわれるほどに強力な酸を持っているんだ。

 そのため、気づかないうちに取り込まれれば、何もわからないまま骨すら残らずに栄養分にされてしまうってわけ。

 ただ、敏捷性はまったくないので、姿さえ見えるならそこまで苦労する相手でもない。

「ふむ。カタツムリの化け物よ、霧散しろっ……!」

 魔術師ジェシカの風魔法が炸裂し、インヴィジブルスネイルは彼女の言う通りバラバラになって霧散した。エルシアが覚えたばかりの初期の風魔法を知ってるだけに、それと比べたら物凄い威力だ。

 そんなエルシアも毎日魔導書を読んで勉強してるみたいだし、いつかパーティーに参加させたいな。

 僕たちはその戦闘をきっかけに波に乗り、大森林の中をどんどん進んで行った。当然、遭遇するモンスターの量も今までとは比べ物にならなくなる。

「どんどん来いっ!」

 ウッドゴブリンや、フォレストスライムらが嫌になるほど立て続けに襲ってくるも、先頭の戦士ベホムがそれを全部引き受けてくれていた。

 やつらの攻撃力はそこまでないものの、とにかく数が多いからベホムもかなり傷を貰ってしまってる。

 それでも、時間を戻す回復術を使えばあっという間に元通りだ。

 ここで大事なのは、一気に時間を戻すとダメージを感じやすくなるため、少しずつ戻すということを繰り返すんだ。

「くっ……無理かと思ったが、ピッケルの回復術のおかげでなんともねえ。頼むぜ、レビテ!」

「はいっ!」

 この二種類のモンスターは魔法に滅法強いため、剣士レビテよって蹴散らしてもらった。

「皆様、お疲れ様ですわ! 気力の回復ポーション、キンキンに冷えてますわよ!」

「「「「「助かるっ……!」」」」」

 錬金術師マリベルの特製ポーションのおかげもあって、僕たちはスイスイと先へ進むことができた。

 この調子で、一気に大森林の奥、すなわちボスがいるところまで進みたいところだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな ・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー! 【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】  付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。  だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。  なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!  《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。  そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!  ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!  一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!  彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。  アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。  アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。 カクヨムにも掲載 なろう 日間2位 月間6位 なろうブクマ6500 カクヨム3000 ★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

処理中です...