回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第四十五話 炎の行方(相手side)

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 エドガータワー、9階層の入り口の鏡前。

「「「「「……」」」」」

 回復術師のピッケルら、【狼の魂】パーティーが去ってすぐ後のこと。

【超越者たち】パーティーは、いずれも打ちのめされた表情でしばらくその場に留まっていた。

「――ゆる、さねえ……」

 やがて、呪うような低い声を発したのは、リーダーの剣士ディランだった。

「こんなん、許せるわけがねぇよ……」

「……ディラン、許さねえって、今更何をどうするつもりよ。あんたが許そうが許すまいが、もう無理よ。終わったのよ、あたしたちは……! ひぐっ……」

「……そう、なの。リシャの言う通り……もう、何もかも……終わり、なの……えぐっ……」

「フッ……確かに、お二人の言う通り、どう考えても一巻の終わり、ですね。我々は、ピッケルなんぞに無様に敗北してしまったのです……嗚呼、実に残念無念だっ……!」

「……てか、クラフトの旦那……今更のように敗北っていうけど、おいらたちなんてとっくに負けてたっぽいっすけどねぇ……」

「何か言いましたか、カインさん……?」

「い、いえ、なんでもねえっす……」

「「「「はぁ……」」」」

 リシャ、ネルム、クラフト、カインの溜め息が重複する。

「それでも……ぜってえ、ぜってえに許せねえんだよ……」

 だが、そんな重苦しい空気の中でも、ディランの目に宿った炎が衰えるようなことはなかった。

「ディラン、いい加減にしてよ。あんたねえ、許さねえ、許さねえって、そればっかり。あたしの足がなくなったように、頭がぶっ壊れてバカになったんじゃないの……?」

「ああ……完全にぶっ壊れた。もう死んだんだよ。俺たちは……」

「「「「っ……⁉」」」」

 ディランの思わぬ発言に、リシャたちはゾッとした顔を見合わせる。

「クククッ……俺の言ってる意味が、お前らにわかるかぁ? わからねえよなああぁ……?」

 狂気の笑みを浮かべ、剣を構えるディラン。

「「「「ヒッ……!」」」」

 その異様な空気を前にして、メンバーはその場から後ずさりするのだった。

「おいおい、慌てるな、お前ら。俺はまだ狂ってねえから……」

「……ほ、本当、でしょうね、ディラン……?」

「……ディラン、怖いの……」

「……ディ、ディランさん、落ち着いてくださいよ。お願いしますから……」

「……お、落ち着いてほしいっすよ、リーダー。クラフトの旦那はいくらでも斬っていいっすから……」

「はい、その通り――って、キイィッ! カインさん、自分の後ろに隠れた挙句、そんなふざけたことを言わないでください!」

「いいから、お前ら聞け。何もかも、俺の作戦通りだ」

「「「「えっ……⁉」」」」

「俺がこれからやろうとしてるのはな、いわゆる死んだ振り作戦ってやつよ。ピッケルら、ウルスリの連中は、今頃俺たち【超越者たち】がもう終わったと思ってるはず。実際、絶望的だしな。だが、それこそがチャンスだ」

「そ、それこそがチャンスって……一体どういうことなのよ、ディラン?」

「まだわからねえのか、リシャ。俺らはもう終わったと思って、後から追いかけてくることもないって、そう連中が高を括ってるとしたら?」

「「「「あっ……」」」」

「ようやくわかったみてえだな……。俺たちがこの9階層の攻略を諦めたといっても、王様は知らないことだ。なんで俺らに代わってあいつらがボスと戦うのか、わけがわからねえだろう。つまり、ウルスリは俺らの妨害をして、ボスを横取りしたってことにすりゃいい」

「そ、それは名案ね。ディランってホント、悪巧みの天才だわ……。あ、そのあとでさ、ピッケルにこう言ってやりましょうよ。妨害したことの罪に問われたくないなら、今すぐあたしたちの欠損を治しなさいって。そうすれば、許すことも考えないでもないって」

「リシャ……あなたも、相当な悪知恵の持ち主なの……」

「賢いって言ってよね!」

「フッ……。その通りです。これはリシャさんの叡智といえるものですよ! 彼女のように主張すれば、頭の弱いピッケルさんを上手く騙せそうですねえ」

「つーか、治すことが条件じゃなくて、おいらたちのパーティーにピッケルを入れればいいだけなんじゃ?」

「「「「あっ……!」」」」

 カインの言葉で、全員の表情がパッと明るくなる。

「カイン、その案も中々いいな。お前も結構染まってきたじゃねえか。【超越者たち】によ」

「そ、そうっすかね? なんか、嬉しいような、全然嬉しくないような……」

「「「「あ……?」」」」

「い、いえっ、めちゃめちゃ嬉しいっすううぅっ……!」

「……よし。そうと決まったら出発だ。ネルム、頼んだぞ」

「わかったの……」

 ディランたちはお互いに真剣な顔を見合わせると、目の前に広がる大森林を進み始めた。

 盗賊ネルムの右手は欠損してしまったが、索敵してきたことで視力等の感覚は磨かれている。

 そのため、今から少し前にその場を跡にしたピッケルたちがどの方向へ向かったのかくらいは理解できていた。

 また、それをなぞるように進むことで、トラップに嵌ることもなく安全にボスのいる場所へ辿り着けることを、抜け目のないディランたちは熟知していたのである。
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