回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

文字の大きさ
46 / 47

第四十六話 絶対に死なせない

しおりを挟む

 エドガータワー9階層のボス、パーフェクトグリーンとの戦い。今まさに、僕たち【狼の魂】パーティーは勝負所を迎えていた。

 戦士ベホムに群がるボスの攻撃を抑制の回復術で封じ込め、魔術師ジェシカの魔法と推進の回復術によって、怒涛の追い込みをかけていたときだった。

 盗賊ロランの声がしたかと思うと、周りから複数の影が飛び出してきたのだ。

 モンスターかと思いきや、ディランたちだった。

 ボスと交戦中だったとはいえ、ここまで盗賊の彼女が気づかなかったということは、それだけ連中が殺気を放っていなかったってことだ。

 もしや、巧みに隠しているだけかもしれない。

 そう思って、攻撃して来るかどうか警戒するも、彼らは何もせずにその場所に突っ立っていた。僕たちの周囲を取り囲んだだけで、妨害してくる気配は一向になかったんだ。

 わけがわからない。ディランたちは一体、何を考えているんだ……?

「おい、ピッケルら、ウルスリのやつら、ふざけるな。これは一体どういうつもりだ……⁉」

 そうかと思えば、ディランがとんでもないことを言い出した。

「どういうつもりって、それは僕らの台詞なんだけど……?」

「まったくだぜ。ピッケルの言う通りだ。お前ら【超越者たち】は棄権したも同然だろうが!」

「うむ。邪魔なので、君らには今すぐ引っ込んでもらおうか?」

「ですです。さっさと引っ込みやがれですぅ!」

「本当に、【超越者たち】パーティーというのは不躾ですわね。何を考えていますの……⁉」

「……ですね。消えなさい……」

 ベホムたちも言葉で援護射撃してくれてるけど、ディランたちに動揺した様子は欠片もなかった。

「はあ……? 何出鱈目抜かしてやがる! 俺たちがボスを倒すことになっていたのに、それを横取りするなんてよ。図々しいにもほどがあるだろうが!」

「そうよ。何様のつもりなの⁉ これは、王様があたしたちの無実を晴らすためにと、わざわざ用意してくれた晴れ舞台なのよ……⁉」

「その通りなの……。王様の友達だと本気で思って、こんな失礼なことをするなら、謀反と同じなの……」

「フッ……これはまさに謀反であります。王の友人であることを傘にして、やりたい放題ですからね。我々に濡れ衣を着せるだけあって、とんでもない輩ですねえ!」

「そうっすよ! 多分、そのピッケルが黒幕だと思うっすから、そいつを追放して、代わりにおいらを迎え入れることも真剣に考えるべきっす!」

「……」

 彼らの自分勝手な言い分には、呆れ返るばかりだった。

 なるほど。てっきり、失うものはないとばかり捨て身の攻撃でも仕掛けてくるかと思いきや、そうじゃなかった。

 こうやって声高に自分たちがやるべきだったと主張することによって、妨害なんてしなくても手柄を取られたと王様に示せるから、それでわざわざここまでやってきたのか。

 素晴らしい方法だ。

 本当に、いかにも狡賢いディランたちが考えそうなことだ。

 でも、残念ながら彼らがここまで来ること自体は予測済みだ。そういうこともあると思っていたので、簡単に気持ちを切り替えられる。

 なんせ、僕は【超越者たち】パーティーにずっと所属してたわけだからね。

 こういう場面でこそ、が最も効果的だと判断した僕は、早速使用することにした。

「「「「「ブゥン……!」」」」」

 それは、気配自体に、時間を格段に戻す回復術を使ったんだ。これの名称を、無の回復術という。当然、気配は産まれる前に戻るので完全に消える。

 すると、どうなったか。

 ボスのパーフェクトグリーンは、すぐ近くにいる僕たちにじゃなく、その周りで傍観しているディランたちに向かっていったのだ。

「「「「ちょっ……⁉」」」」

 驚愕する【超越者たち】パーティーの中で、唯一涼しい顔を浮かべた戦士クラフトが、庇うように前に立った。

「フッ……こんなもの、自分が止めてみせま――ぐぎゃあああああああああああああっ!」

 分散したボスにタコ殴りにされた結果、タンク役の戦士クラフトが、あっという間にハチの巣になって死んだ。

 ボスは一匹だけじゃなくて、何百匹もの虫が集まってボスを構成している。だからバラけて威力が落ちているとはいえ、このままいけば【超越者たち】が全滅するのは時間の問題。

 だが、そうはさせない。

 彼らには9階層のボスを倒す力なんてないことが折角証明されたのだ。王様によって厳罰を受けてもらうためにも絶対に死なせることはできない。

 僕は無の回復術を、それ以上タゲらせないように【超越者たち】にも使う。さらに、それとは真逆の回復術をベホムに行使した。

 これは、気配に対して時間をある程度進め、今度は逆に気配を強くする回復術だ。

 経験によって魂は光り輝くため、時間を進めれば気配もまた大きくなる。そんな有の回復術をベホムに使って、こっちにボスを呼び戻したってわけだ。

 ただし、色々な回復術を使いすぎたせいで、油断すると気絶するほどの大きな負担が自身にかかっているため、その間に抑制や推進の回復術はさすがに使えない。

「ぐっ……! こ、こりゃあきついねえ」

「ベホム……辛いだろうけど、その分、回復する。だから、もう少しだけ我慢して……」

「オッケー! てか、ピッケルのほうがヤバそうじゃねーか! 頼むから耐えてくれよ!」

「……うん……ジェ、ジェシカ、後はお願い……」

「私に任せろ、ピッケル。絶対に、やつらの陰謀に負けることなどない……!」

「……はぁ、はぁ……」

 今にも気力が尽きて倒れそうな状況だけど、僕は必死に堪えて回復術を使う。

 追い出された僕を拾ってくれたみんなを、ここで絶対に死なせるわけにはいかない。

 この命に代えてでも守ってみせる。

 それからほどなくして、ベホムがダメージを受けていないことに気づいた。つまり、倒したってことだ。

 ……よかった……。一時はどうなるかと思ったけど、それまでもう大分ダメージは蓄積してただろうしね。

 ディランたちが邪魔しに来たせいでエネルギーを沢山消耗しちゃったけど、こうしてボスを倒せてみんなが無事で本当によかった。回復術師として、最高の喜びだ……。

 周囲の景色が森林から塔の内部へと変わっていく。

「……ふう。どうやら、これでボスを含めて、全部終わったみてえだな、ピッケル……って、お前さん、大丈夫か⁉」

「……」

「「「「「ピッケルッ……⁉」」」」」

 どうやら、僕は意識を手放そうとしているらしい。みんなの声が遥か遠くから聞こえくるようだった……。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな ・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー! 【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】  付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。  だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。  なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!  《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。  そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!  ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!  一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!  彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。  アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。  アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。 カクヨムにも掲載 なろう 日間2位 月間6位 なろうブクマ6500 カクヨム3000 ★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

処理中です...