ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第10回 一か八か

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「見たか、愚民どもおぉ。死を絡ませたこの不規則性こそが、真の芸術というものなのだぁ……」

「…………」

 返り血に染まるはずが染まらず、風もないのに羽田京志郎の髪や服が靡いていたことからもわかるように、おそらくあれだけの加速も得意の念力があるからこそなんだろう。

 体を雑巾のように絞ってみせたり、右手一本で貫いてみせたりと、羽田のやることはいちいちずば抜けている。

 念力タイプというと、ただ高く持ち上げて落とすのみという大雑把なイメージが先行するだけに、その異常なほどの巧みさがよくわかる。これは、ステータスをただ振っただけじゃ到底真似できないだろう。目に見えない数値にセンスというものがあるみたいだし、そこで決まるんじゃないか。

 だが……俺自身、やつに対しては畏怖の感情よりも、憧れのスレイヤーを汚されたように感じて、憤怒の感情のほうが圧倒的に上回っていた。

 とはいえ、どう考えても、レベル1の自分がレベル137の虐殺者に勝つことなど到底できないし、逃げようとしたところであっさり殺されるだけだ。

 ここでやはり気になるのが、虐殺者イベントのクリア条件に、やつの魔の手から逃れる――すなわち脱出という項目があること。

 これが何を意味するのか、俺はずっと考えていた。ただ単に逃げる、ということではないような気がする。これだけの力を持った虐殺者相手に、逃げたところで解決できるわけもないからだ。

 つまり、不本意ではあるが、この虐殺者に真っ向から敵対するのではなく、もっと別の手段を講じないといけないのでは……?

 以前、父の書斎にあった心理学の本を読んだことがある。こうしたサイコパスに対して、心を開かせるには、をする必要があると。

「さて、次は誰が私の自慢の作品になってくれるのか、今から楽しみだなぁ……」

 羽田の発言は、俺たちをさらに追い詰めるものだった。おそらく、あと何人か一人ずつ殺したあとは一気に皆殺しにする腹積もりだろう。外では規制線も張られてるだろうし、時間が経てば経つほど、ほかのスレイヤーが来る可能性も高まるからだ。

 俺はむざむざとその瞬間を待つつもりはないってことで、大袈裟に拍手してみせた。

「ん……なんだ、お前。誰かと思ったら工事帽の男じゃないか。一体なんのつもりだ……?」

 羽田が明らかに不快そうな顔を見せる。それもそのはずだろう。自分の作品の一部にすぎないと思っていたものが、こうして勝手に活き活きと動き出したんだから。

 死体が好きってことは、当然死臭がするものも好きなわけで、こういう状況で逆に活発なものを見るのは違和感があるのだろう。

「俺には佐嶋康介っていう名前がある。教えなかったか?」

「…………」

 今度は羽田に怪訝そうな表情をされたが、こういうことの積み重ねこそが大事だ。

 ほかのやつらとは一線を画するということを示さないと、人間をモノ同然だと思ってるこの男にはまずまともに話を聞いてもらえないだろう。

「で、その佐嶋君が私になんの用事かなぁ?」

「いや、羽田、あんたの考えは実に素晴らしいと思ってね」

「ほぉ。お前には理解できるというのか、私の考えが」

「そりゃもう。俺、ネクロフィリアなんでね」

 ネクロフィリアとは、死体に性的興奮を持つ異常な嗜好のことを言う。もちろん、そういう知識がたまたまあっただけで、俺にそんな趣味は断じてないが。

「……私の場合は性的興奮とは少し違うが、まあそれなら共感も容易いか」

 それがどんなに許せないような狂った思考だろうと、相手側に立つ、寄り添う。これこそ、サイコパスと心を通わせるには必要なことなのだ。

 もしかしたら、これで虐殺クエストのクリア条件に値するのではと期待したが、クリアしたことを通知するウィンドウは表示されなかった。

 多分、虐殺者にとっては俺なんていつでも殺せる立場なのは変わってなくて、それでクリアにはなってないんだと思う。まあまあわかってるじゃないかと思われた程度なわけだ。それなら、もっと自分の存在感を強める必要がありそうだな。迂闊には殺せないような存在にならないといけないってことだ。

 そのためにはどうすればいいか……よし、一か八かだが、やってみるか。

「あのさ、羽田、勘違いしないでくれないか?」

「……なんだと?」

 羽田は俺に明らかな殺意を向けてきた。それは不自然な圧力でやつの髪が逆立ったのを見れば一目瞭然だった。

 だが、ここですぐに答えを出すようでは、明らかに俺は羽田に怯えていると公言するようなもので、立場なんて変わるはずもない。死んでもいいという覚悟を見せなければ何も変わらない。

「早く言え、工事帽。何を勘違いするなというのだあぁ……」

「…………」

 まだだ。俺はギリギリまで勿体ぶったあと、不敵に笑ってみせた。

「共感したといっても、一部だけだってことだよ」

「一部だけ、だと……?」

「そうだ。趣味嗜好として合うかなってだけでね。殺すにしても、芸がなさすぎる」

「げ、芸とはなんだ……?」

「ただ殺すだけじゃつまらないってこと。相手を殺すにしても、何か面白味がなきゃな……」

「面白味、か。拷問でもするのか? 試しにお前がやってみるか、工事帽。この中の誰かを痛めつけて殺して、犯したいんだろう。この変態めが」

「いや、そんな簡単な遊びじゃない」

「何……?」

 ここまで至って順調だった。俺の望む展開まで誘導できてる。あとほんの一押しだ……。

「俺は変態だから、究極的には自分自身を痛めつけたいんだよ」

「……まさか、自分で自分を拷問する気か?」

「いや、自分自身を死ぬほど痛めつけたいからこそ、死を賭けたチャレンジをしたいんだ。羽田、この賭けに乗るか? レベル1の俺がこのダンジョンのボスを倒せるかどうか。もし倒せたら、ここにいる連中は関係ないから解放してやれ。ダメだったら全員殺していい」

 俺の言葉に対し、羽田が激昂した様子で見る見る顔を赤くしていく。ちょっとまずかったか、これは……。

「は……はあああぁっ!? たわけたことを抜かすなっ! レベル1のクソザコ如きが、ダンジョンのボスなんて倒せるわけないだろうがあぁぁっ!」

「いや、それはやってみないとわからない」

「……もういい。お前、いくらなんでもアホすぎるから殺す――!」

「――怖い……のか? 俺に負けるのが」

 意識が一瞬飛ぶくらい、首に異様な圧力がかかったが、直後に俺が発したその台詞で弱まるのがわかった。どうやら殺すのをギリギリで思いとどまったようだ。

「……バカめ、怖いわけがないだろう。レベル1がボスと戦ったところで即座に肉塊になるのは目に見えているが、賭けに乗ってやろう。そこまで自信があるなら、見せてもらおうじゃないか、工事帽」

「俺の名前は佐嶋だ」

 内心ドキドキしまくりだったが、最大のピンチは逃れたらしい……って、視界にウィンドウが表示された。

 何々――おめでとうございます、あなたは【コンビニの虐殺者】クエストをクリアし、超レアスキルの【クエスト簡略化】をゲットしました、だと。

 よしよし、遂にやったぞ。俺は思わず小さくガッツポーズしてしまった。ただ、戦いはまだまだこれからだから、これくらいで浮かれてないで気を引き締めていかないとな……。
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