ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第32回 類似点

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「「……」」

 俺たちの後ろには窓のみがあるはずだったが、そこにワープゾーンでもあったのか、穏やかな、それでいて怒気を孕んだような中性的な声色とともに、が現れるのがわかった。

 わかったので振り返ろうとしたものの、俺は金縛りにあったかのように動くことすらできなかった。なんだ、この尋常じゃないプレッシャーは……? 額から汗がとめどなく滴り落ちるほどだった。

 この感覚……どこかで味わったことがあると思ったら、虐殺者の羽田京志郎を前にしたときの心境とよく似ている。そもそも声が違うから別人であることは間違いないんだが、コンビニダンジョンであの男が正体を現したときと同じような恐怖を覚えたんだ。

 新しいウィンドウが出かかっているものの、何故か途中でフリーズ状態になっている上、メッセージも酷くぼやけているため読み取れない。これは、虐殺者クエストみたいなものが掲示されようとしているが、その条件がまだ成立していないってことか……?

「あなた方は、この二人組の仲間なのですか……?」

 俺たちに向けられたこの質問への回答次第では、間違いなく殺される。それを確信してしまうほど強い殺意を感じた。これがスレイヤーの放つ殺気というものか。おそらく、羽田並みの力を持った化け物だ……。

「……ち、ちがっ、違う……」

 それでも、俺はなんとか返答することができた。このまま黙っていたとしても、それが意図的ではないにせよ、この人外とも思える謎の人物の前では命が危ない気がしたから。

 お、出かかっていたウィンドウが立ち消えた。

 正直、どんなクエストなのか見てみたかった気もするが、これでよかったんじゃないか。虐殺者クエストみたいなのが出てきたとして、いくら【クエスト簡略化】スキルがあるとはいえ、まだ一般人の身で高レベルのスレイヤーを出し抜くなんてのは余程のことがない限りあるはずもない。

「……そうだったのですね。正直、わたくしは不機嫌だったので、回答を待たずに勢いで殺してしまうところでした」

「…………」

 おいおい、勢いで殺してしまうって……羽田並みに傲慢なスレイヤーだと思って、俺は怒りのあまりかようやく振り返ることができたわけだが、そこには杖を手にしたロングヘアの女性が笑顔で立っていた。

 ……ん、この人、なんか見覚えがあるような。気のせいだろうか?

「わたくし、鬼木龍奈おにきりゅうなと申します。あなた方は?」

「……お、俺は、佐嶋康介だ」

「……わ、わわっ、わしはっ、か、風間、昇、だだだっ……」

 風間が震えあがりつつ喋ったもんだから、その場がなんともいえない空気に包まれる。それが気の毒に思ったのか、この鬼木というスレイヤーは若干殺気を緩めたように見えた。どこか羽田に似ているとはいえ、あいつよりは話が通じそうだし、一つ質問してみることに。

「こ、この二人の男は、あなたが殺したんですかね……?」

「はい、わたくしがやりました。その二人は快楽殺人者で、スレイヤーの面汚しですから」

「なるほど……」

 それで勢い余って俺たちを殺しかけるほど激怒していたのか。だからって快楽殺人者とは無関係の人間を問答無用で殺すのは理解できないが。

 それにしても、この鬼木とかいう女、微笑んだ顔を一切崩さないのは心理を読まれないためか? 羽田京志郎みたいな悪じゃなく、善に振り切ったタイプに見えるな。だからある意味であいつと似ているように感じたのかもしれない。

 ただ、こんなことを言ったら殺されかねないし、一つ気になることを質問してみるか。

「見たところ、あなたはヒーラータイプなのに、殺せるんですか?」

「……それはですね、わたくしのヒーラーとしての回復量が多すぎたのか、ひっくり返って猛毒になった、ただそれだけの話ですよ。それでこうしてもがき苦しんで死ぬ羽目になったのです」

「な、なるほど……」

 微笑を浮かべつつ淡々と話す彼女の姿に俺は恐怖を覚える反面、相手が快楽殺人者とはいえ、必要以上に苦しめて殺しているということ、自分たちまで殺されていたかもしれないということへの怒りを引き摺っていた。

 命を軽く見ているという点では、虐殺者の羽田となんら変わらないからだ……って、やっぱりこの人、どこかで見た覚えがあると思ったら、今思い出した。

「もしかして……以前、俺が働いてる工事現場で鉄筋の下敷きになりませんでしたか……?」

「……え? あっ……あのときの方でしたかぁ。その節はご迷惑をおかけいたしました」

 棒読みで謝罪しつつ、ぺこりと頭を下げてくる鬼木龍奈。髪が長すぎて床に届きそうになっている。

「それでは、わたくしは目的があるので、そろそろ失礼いたしますね――」

 鬼木はまさに俺たちのことなんて一切眼中にないといった様子で、足早にその場を立ち去ろうとした。それが何故だか無性に悔しくて、俺はやめておけばいいのに一石を投じてみたくなる。

「――目的っていうのは、羽田のことですか?」

「…………」

 俺の投げかけた一言は、波紋を引き起こすどころじゃなかった。空間を大きく揺るがすような殺気が丸ごと返ってきたんだ。しばらくの間、呼吸ができなくなるほどだった。

「……どうしてそのことをご存知ですの……?」

 鬼木は振り返ることすらなく、威圧感を滲ませたような口調で質問してくる。

「な、なんとなく、勘で」

「……それはそれは、素晴らしい勘ですこと。あの人を知っているということは、奇跡的に生き延びた人なのでしょうか」

「……そんな感じですかね」

「そういうことでしたら、その強運をなるべく大事になさらないと、近いうちに台無しになっちゃうかもしれないですわよ……?」

「それはどういうことでしょうかね?」

「どういうことも何も、あなた方のようなただの石ころが軽々しく論じるような相手ではないということです。子ネズミのようにどこかで隠れているほうが賢明でしょう」

「…………」

 こいつ、俺たちのことを石ころや子ネズミ呼ばわりだと。とうとう本性を現したようだな。こうなるとさらに怒らせたくなるし、敬語なんてやめてやる。隣の風間はもうその辺でやめてくれと言わんばかりに青い顔で両目を見開いてるが、知ったことか。

「待ってくれ」

「……はい、なんでしょう?」

「野球帽のスレイヤーを知らないか? 俺はその人を探しにこのダンジョンに来たんだ」

「……存じませんね。スレイヤーなど別に珍しくもないので。あなたのように、スレイヤーでもないのにダンジョンにのこのこやってくるだけでなく、目上のスレイヤーに対してタメ口を聞くようなおバカな人は珍しいですけれど」

「……俺がスレイヤーじゃないってわかってたのか」

「一応、見る目はありますので。とにかく、その方がスレイヤーならば自力でなんとかするでしょう。あなたは他人の心配よりも、まずはご自分のことを心配なさってくださいな」

「……了解した。個人的に、あんたは羽田と似ているように見える。精々、同じ穴の貉にならないように気を付けてくれ」

「……う、うぷぷっ、あはっ……あははははっ!」

 鬼木は変則的に笑いながらその場をあとにした。変なやつだ。もしかしたら俺もそうだと思われてるかもしれないが……。
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