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第33回 光
しおりを挟む「しゃっしゃっしゃ――」
「――はああぁっ!」
「グギギギギギッ!?」
学校ダンジョンの食堂にて、俺はテーブル上で笑うマスクマンに制裁を食らわせてやったわけだが、素直に喜べるような状況じゃなかった。
というのも、風間が俺の言葉に全然反応してくれないからだ。どうにも、あの件を引き摺っているらしい。
俺があの危険人物である鬼木に対し、食いつくように話しかけたことだ。
「風間さん、出すぎた真似をして危険を招いた件については謝りますから、いい加減機嫌を直してくださいよ……」
「…………」
やはり、無言で返されてしまう。
このままではまずい。【クエスト簡略化】は、あくまでもダンジョンの攻略に特化したものだし、スレイヤーの彼が立ち直ってくれないと、色んな意味でこれからやっていく上では厳しい。希望の光が一つしかないのと二つあるのでは大違いだからだ。
「佐嶋さん、いい加減怒りを鎮めてくださいよ――」
「――ん、佐嶋よ、わしは怒っておらんぞ……?」
「えっ……じゃあ、どうして今まで黙ってたんですかね?」
「……そ、それはな、衝撃のあまり混乱しておったんだ。よくあんな化け物みたいなやつと普通に会話ができるなと……」
「なるほど……。あの鬼木っていうヒーラーはそんなに有名なんですか?」
「う、うむ……。あの女はレベル100以上のスレイヤーで、破壊者と呼ばれるほどの人物でな、スレイヤーの間では虐殺者同様に恐れられておる。己の正義のためなら、どんなやつでも最後まで苦しめて殺すという恐ろしい女なのだ……」
「へえ……」
ヒーラーなのに破壊者なんて呼ばれてるのか……。レベルも高いし命を軽視してるしで、道理で虐殺者の羽田と同じ臭いがするわけだ。
「ダンジョンでスレイヤー同士が揉めているときにも、それを止めるどころか面倒だからと両方殺したこともあるとか。最近の若いモンはなんとも恐ろしいものだのう。虐殺者と何か因縁があるそうだが、詳しいことはわしも知らん」
「……そうだったんですね。って、なんで風間さんはそんなことを知ってるんですか?」
「前も話したが、スレイヤーしか閲覧、書き込みできない掲示板があってのう、そこで知ったというわけだよ」
「あっ……」
そういえば、そんなものがあったんだったか。当然だが、俺はまだ一般人だから掲示板の存在くらいしか知らない。
「スレイヤー限定とはいえ、匿名でも投稿できるから参考程度だが、それでも、普通の掲示板よりはよっぽど信憑性があるし、そこであの破壊者が学校ダンジョンへ向かったという情報が書き込まれていたのだ……」
「……なるほど、だから風間さんは学校ダンジョンへ行くのをためらったんですか」
「……そ、それはだなあ、うん、まあその通りだ……」
「…………」
それについては彼を責められない。その破壊者がここにいるなら、因縁があるっていう虐殺者の羽田だってどこかにいる可能性が高いわけだからな。それを今まで言わなかったのは、風間もスレイヤーとしての矜持があるからなんだろう。
「とにかく、面倒なことに巻き込まれる前に早く野球帽を探さないといけないですね」
「う、うむ、まったくその通りだ。すぐにこのダンジョンから脱出したいってのが本音だが……」
「そうですか。それじゃ、風間さん、ここでお別れってことで――」
「――ちょっ!? わ、わしを置いていくなっ! 一人にしないでえぇっ!」
一時は心配したが、風間が立ち直ってくれたみたいでよかった。
それから俺たちは食堂内を物色するうち、換気扇に触れたことで二階の廊下へとワープした。
「あ……」
「ん、どうした、佐嶋よ」
「……野球帽のやつが近くにいるみたいです……」
「な、なんとっ!?」
間違いない……。例の動かない黄色のマーカーが現在地のすぐ近くにあるからだ。
遂に膠着状態を打開したのか、ここまで迫ることができたのは初めてで、この二階のどこかにいるんじゃないかと期待させられる。暗闇の中に一筋の光が射し込んだきたような気分だ。
ただ、少々気掛かりなこともあった。何故、野球帽は一向にその場を動かないのかと。眠っているのか、あるいは……。まだ死んでいないとしても、重傷を負って瀕死になっているという最悪の事態も想定しないといけない。
また、近いように見えてもワープゾーンで違う場所に飛ばされる可能性もあるし、安心できるような状況ではまったくなかった。
「風間さん、先を急ぎましょう」
「う、うむっ」
仲間の捜索クエストでもあればいいんだが、そういうのが生じる気配は今のところない。よほどの重大なものでなければクエストとして認知されないようだ。
あまりにも見つからない場合、風間と二人でボスを倒してダンジョンからの脱出を図るという選択肢もある。
それでも、なるべくなら野球帽と合流して三人でボスに挑みたいっていうのが正直なところなんだ。ここはコンビニダンジョンよりも難易度が一つ高いってことを考えても、それが妥当のように感じた。
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