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第34回 意外性
しおりを挟む「こほっ、こほぉっ……」
「いい加減、吐きなってんだよ、おいっ! てめえ、自分の置かれてる立場がわかってんのか……!?」
ダンジョンと化した学校の音楽室にて、グランドピアノの後ろには制服を着た二人の人物がいた。
「……チッ……は、吐くも何も、俺はなんにも知らないって、ずっとそう言ってるだろ……」
「しらばっくれるなっ! てめーみたいな一般人がどうしてスレイヤーになれたのか、その秘密をとっとと吐けって言ってんだよ!」
一人は苦し気にうずくまる短髪の少女で、もう一人は苛立った様子で大きな弓を持つ長髪の少女だ。
「クソッ――!」
「――だから無駄だってんだよっ!」
短髪の女が棍棒を手元に出現させて振り回すも、長髪の少女に後方へジャンプされてあっさりかわされた挙句、弓矢の一撃を食らって背中から壁に叩きつけられた。
「ぐ、ぐはっ……」
「それ以上抵抗したら、本当に死んじまうぞ? いいから、もう吐いて楽になっちまえって……」
「……う、うるさい……。俺は、本当に何も知らないし、誰の指図も受けない……」
「はあぁ……ほんっと、コンビニダンジョンのときと変わらず強情なやつだなあ。でも、意外だったよ。野球帽の藤賀、まさかてめえが男じゃなく女で、しかもあたしと同じ学校の生徒だったなんてねぇ」
「……へっ。だ、だからなんだよ。別に、俺は性別を隠してたつもりなんてないし……男か女かなんてのがそんなに重要か……? けほっ、けほぉっ……」
「藤賀、そんなに慌てずにゆっくり喋りなよ、なんか足りないやつみたいで滑稽だからさあ」
「……く、黒坂……普段アイドル面してるお前の正体のほうが、よっぽど意外で滑稽なんだよ。仲間を裏切った腹黒女が……」
「まーだ根に持ってんのかよ。っていうか、もしかしてその仲間が助けてくれるって期待してんのか? そんなのありえねーって。もうネクロフィリアの佐嶋は植物状態で一生起き上がれねえみたいだし、スケベ爺の風間もスレイヤーになったのにダンジョンが怖くて逃げ回ってるんだろ?」
「…………」
「それよりあたしはさあ、一般人がスレイヤーになった秘密を知りたいんだよ。あたしみたいにダンジョンをクリアしたことで恩恵を受けたわけでもないのに」
「そんなの、知ってどうするつもりなんだよ……」
「一般人からスレイヤーを量産できる秘密があるなら、そりゃ知りてえだろ?」
「チッ……! 忠実なスレイヤー集団でも作るつもりか? それか、今のうちにライバルになりそうなやつの芽を摘む目的か……。そんなに知りたいなら、わかったよ。吐いてやる」
「お、遂に話す気になったか。あたしだって鬼じゃないんだし、とっとと教えりゃすぐ解放してやったのによ――」
「――ペッ!」
「…………」
近付いてきた黒坂の頬に唾を吐きかける藤賀。
「ちゃんと吐いてやったぞ、これでいいか?」
「……し、死にてえのか、てんめえぇ――!」
「――黒坂ぁ、何をぐずぐずしている。まだ成果は出ていないというのか……?」
「「はっ……」」
黒坂と藤賀の表情が強張る。足音もなく、宙を滑るようにしてその場に現れたスーツ姿の人物がいたのだ。
「……は、羽田、き、聞いてくれよ。こいつ、ほんっとに強情で全然吐かないんだ……」
「……そうか。まあ、予想できていたことだ。ならば、この私が拷問の手本というものを一つ見せてやるとしよう……」
「……ぐっ!? あ、あぎっ、ぎぎぎいぃっ……!」
羽田京志郎が藤賀のほうに眠そうな視線を預けた直後だった。彼女の右腕が真っすぐに引き延ばされたかと思うと、じわじわと反対方向に折り曲がっていき、枝が折れるような高い音が響き渡った。
「こ、これじゃ死んじまうぜ……」
失神した藤賀を見て声を震わせる黒坂だったが、羽田の退屈そうな表情は微塵も変わることがなかった。
「私の場合、雑魚がスレイヤーになった理由を知りたいという願望よりも、死体クリエイターとしての本能のほうが上回ってしまうだろう。ゆえにあとは黒坂、お前がやれぇ。次に目覚めたときは吐くはずだ……」
「わ、わ、わかったよ、今度は必ず吐かせてやるさ――!」
「――ぬうぅぅ、懲りないやつめえぇ……」
「……え、え……?」
「…………」
羽田の吊り上がった目が怪しく光るとともに、まもなく何者かの足音が室内に響き始める。
「うるさいハエが来た。あいつだ」
「は、羽田、そのハエが例の邪魔者だってんなら、あたしも追い払うのに協力しよっか!? 藤賀が起きるまでの間だけでもさっ……!」
「……勘違いするな、黒坂ぁ。お前如きの力じゃ足手纏いにしかならない。少しでも私の邪魔をするようなら、これ以上ない残虐な手段で殺してやる……」
「……りょ、りょりょっ、了解っ……!」
羽田の背中を見上げる黒坂の顔はこの上なく青ざめていた。
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