ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第36回 下品

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「死体クリエイターとは、無から真のアートを生み出す至高の存在。その逆はなんだと思う? 創造主の周りを飛び回って邪魔をする、ハエのようなお前の存在のことだぁ……」

 虐殺者――羽田京志郎――の髪やネクタイが立ち上がるやいなや、その体が少しずつ浮き上がっていく。

「あらあら、随分傲慢な方ですこと。むしろ、こうしてわざわざハエが来てくれるだけでも充分ありがたいのではないですか? 見る価値のない芸術品なんて、それこそ虫けら以下ですのに……」

 破壊者――鬼木龍奈――の顔が紅潮するとともに、その吊り上がった真っ赤な目から同色の涙が零れる。

「この世で最も醜い死体になれ、鬼木いぃっ――!」

「――っ!?」

 最初に動いたのは羽田のほうであり、彼が手を高く掲げてからまもなく、鬼木の体が激しく仰け反る。

「……あっ、あぎっ、あぎぎっ……!」

「フンッ、ハエの割りにいい喘ぎ声だあぁ……」

 骨が軋む音を立てながら、鬼木の体が完全に折れ曲がり、終いには団子のような形状に変化した。

「……こひゅー、こひゅー……」

「どうだぁ、苦しいかぁ……?」

「……ひゅー、ひゅー……ぐ、ぐるじぃ……だずげでぇ……」

「…………」

 呻き声を上げる鬼木に対し、羽田は忌々し気に口元を歪める。

「もういい。つまらん演技をするな」

「……うぷぷっ……バ、バレましたか……」

 丸められた鬼木の体が、見る見る元通りの形状になっていく。

「回復力に極振りするだけでなく、しなやかな上にタフでさらにマゾとは、ちぎって投げても殺せそうにないなぁ」

「……あらあら、乙女に対してマゾだのちぎって投げるだの、わたくしそんな下品な言葉を耳にしたくはありませんことよ……?」

「この化け物め」

「羽田京志郎、あなたは死体クリエイターなのでしょう? それなら、諦めることなくわたくしの死体を是非お作りくださいませ」

「鬼木龍奈……死体に集るお前のようなハエになど、私は興味がない」

「あらあら。我儘なクリエイターさんですこと。さて、今度はわたくしの番ですわ……」

 鬼木が杖の先を羽田京志郎のほうに向けた直後だった。

「……がっ……がはあぁっ……!?」

 羽田の顔が赤みを帯び始めたかと思うと、まもなく喉を押さえた状態で仰向けに横たわり、血を吐き出したのだ。

「どうされたのです? まさか、ご自身の死体を披露なさるおつもりですか?」

「……ぐっ、ぐふっ……た、確かに暴力的な回復力だ。しかし、私の念力の前には及ばん。むんっ――!」

「――っ!?」

 鬼木は微笑んだままだったものの、その口元は僅かに引き攣っていた。

 うずくまった羽田京志郎が何度も血を吐き始めたのだ。

「……まさか、念力を内側に向けることで、自分の内臓を傷つけたのですか……」

「……ごっ、ごふぇっ……フフッ、手を打った格好だ。鬼木、お前もヒーラー冥利に尽きるだろう……」

「ご自慢の念力を内臓に向けるなんて、ほんの少しでも間違えば自死しかねないというのに、本当に憎たらしいくらいの化け物ですね……」

「ふぅ……これこそが本当の意味での繊細さ、心の機微というやつだ。芸術家には、それが一番求められるのでなあぁ……」



 ◆◆◆



「「……」」

 コンビニダンジョンの如く、幾重にも連なる音楽室の片隅にて、俺たちは二つの部屋を挟んで異次元の戦いを見せつけられていた。

 自分たちのマーカーがほぼ被っていることから、すぐ近くに野球帽がいるのはわかっているというのに、一歩も近付くことができない。それどころか、見付からないように身を潜めているという始末。

 そのどうしようもない情けなさ以上に、やつらとの歴然たる力の差を痛感するということが、これほど悔しいとは思わなかった。

 虐殺者の羽田京志郎と、破壊者の鬼木龍奈……二人の圧倒的な念力と回復力のぶつかり合いは、それこそ気が狂いそうになるほどに魂を揺さぶられるものだったんだ。

「……さ、佐嶋よぉ、もうそろそろぉ、ここから退散するべきだぁ……」

 風間が声をビブラートさせながら囁いてくる。それが羽田の声に若干似ているように感じて、俺の心はさらに燃え滾っていた。

 正直、俺はあの戦いをもっと間近で見ていたかった。それでも、あいつらにとって俺たちは、それこそ逃げ回ることしかできない子ネズミかただの石ころか、あるいは数秒後の死体でしかない。

 そう考えると、あいつらが関与してくる前にこの学校ダンジョンを攻略するほうが先決だろう。本当は野球帽と合流してからにしたかったが、俺たちの力ではここから退くしか選択肢はないんだ。

 畜生……クソクソクソクソッ、クソッタレ……! 嫉妬にも似た妙な激情を抱きつつ、俺はあいつらの戦う姿を目に焼き付けたのち、風間とともにその場をあとにした……。
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