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第40回 浮遊物
しおりを挟む「「――っ!?」」
大鎌を持った死神が描かれた、そんな不気味な絵画に触れた途端、俺たちの周りの景色がまったく別の物に塗り替えられていく。
ここは……屋上だ……。
屋外だというのに風はなく、明るいわけでも暗いわけでもない、微妙に薄暗い偽物の空に見下ろされていた。
もちろん戻ろうとしても戻れず、周囲を囲う柵の向こうを触れようとすると当たり前の如く弾かれる。
何か移動スキルでもなければ、ボスを倒さない限りここから出るのは不可能ってことだ。まったく怖くないと言えば嘘になるが、ボスがいると知っててここへ入った以上、退く気は一ミリたりともない。
「き、緊張するのお、佐嶋よ……」
「……ですね。風間さん、ダンジョンに関してはコンビニ以降、一度も経験してないってことですけど、それでもスレイヤーなんですから頼りにしてますよ」
「……い、いや、わしに頼るだと? それはさすがにまずいと思うんだが……」
「……はあ」
風間のあまりの弱気な態度に対し、俺は無性に文句を言いたくなる。
「あんまり弱気にならないでくださいよ。っていうか、一度でもダンジョンに行ってたら違ったんじゃないですか? 俺が植物状態で寝てる間、一年も猶予があったのに……」
「しょっ、しょうがなかろうっ……! コンビニの件はわしもトラウマになっているのだから――」
「――そろそろボスのおでましですよ」
「ひぐっ……!?」
俺の視界では、既にカウントダウンによってボスの登場が予告されていた。3,2,1……0の表示がなされたときだ。信じられない光景が屋上の空に広がり始めた。
「「……」」
俺たちの見上げる先、白い手袋をつけた巨大な手が左右から現れたかと思うと、それが合わさる直前、何もない宙を掴むような仕草を見せたのだ。
一体、何をするつもりなのかと困惑する中、宙を掴んでいた左右の手袋が少しずつ横に引っ張るような動きをし始めた。空間を掴んで異次元の中にあるものを露にしようとしているように見える……ん、何か見えてきたぞ――
「――こ、これは……」
「……な、なんという……」
俺と風間の見開かれた眼差しの先に現れたのは、縦横ともに四メートルはあるであろう、巨人が被るようなビッグサイズの黒い仮面だった。
「……オォオォォッ……」
巨大な手袋が引っ込んでいき、それよりも大きな仮面だけが天から俺たちを見下ろす格好になった途端、その名称が表示された。
何々……レベル78のデスマスクというボスモンスターだ。確か、コンビニダンジョンのボス――デッドリーゼリーがレベル53だったことを考えたら、このボスがどれくらいヤバいかがよくわかる。
「か、風間さん、震えてますよ……」
「さ、さ、佐嶋よ、お、お前さんこそ声が震えとるっ……!」
風間は声だけでなく手足や剣先まで震えているわけだが、今のやり取りのおかげでほんの少しだけ緊張が解れた気がした。大丈夫、大丈夫だ。羽田と鬼木に比べれば全然大したことはない。
それに、以前のときと違って、ちと頼りないもののこっちにはスレイヤーの風間がいるし、俺はレベル3だし、何より超レアスキルの【クエスト簡略化】がある。
また、仮に瀕死の状態に陥ったとしても、レベルアップ時の全回復を温存しているからな。もちろん、即死してしまえばまったく意味をなさないものだが……。
とにかく、ここまで来た以上、覚悟を決めて戦うだけだ……。
◆◆◆
(――ぬうぅ、またここか……)
【転移】スキルを使った羽田京志郎が次に現れたのは美術室であったが、当然のように人影すらも見当たらなかった。
(このスキルはどんな状況であっても脱出できるから便利だが、1分というインターバルが邪魔すぎる。広すぎるダンジョンというのも困りものだ……ん……?)
顎に手を置きながら憂いの表情を浮かべる羽田がふと、床に散らばった白い破片に視線を注ぐ。
(これは……確か、以前ここに来たときはなかったはずだが……)
訝し気にその破片を念力で一斉に持ち上げる羽田。次々と組み合わせ始めると、宙に浮かんだ石膏像が完成する。
(なるほど、あの胸像だったか。何かのはずみで落下して割れた感じでもない。ということは、誰かがここでモンスターと交戦でもして、その巻き添えを食らったか……。これは、あの男が近くにいる予感がするなあぁ……)
羽田が宙を抉るような鋭い眼差しを見せると、石膏像をまたたく間に粉々にしてみせた。
(佐嶋ぁ……この私から逃げ切れるとは思わないことだ……)
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