ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第43回 戦々恐々

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「…………」

 デスマスクが次に見せてきたのは、混ざりっけのないだった。文句のつけようがない恵比須顔だな、こりゃ……。あまりにも眩しすぎて衝撃を受けるレベルだ。

「……さ、佐嶋よ、ああいう満面の笑顔というものは、精神的にこたえるのう……」

 トラウマでもあるのか、風間にとっては一層きつい表情だったみたいだ。

「……風間さん、何かあったんですか……?」

「……実を言うとな、わしは昔よくギャンブルをやっておったんだが――って、呑気に過去の話なんかしとる場合じゃなかったな。そろそろボスが攻撃してくるんじゃないか……?」

「まだ大丈夫です」

「そ、そうかっ。話の続きだが、給料がその日のうちにすっからかんになるときがよくあってな……わしが帰宅したときの、元女房の恐ろしい笑顔を思い出す……」

「…………」

 そりゃ怖い。元女房とか言ってるし、そのことが離婚の原因になったんだろうか? っていうか、それ以上に恐ろしいのが、この笑顔のボスが次にどんな攻撃を繰り出してくるのかということだ。

 それを考えるだけで身構えてしまう……って、そんなことじゃダメだ。ボスはなんの心配もなさそうに笑っているというのに、こっちは対照的に戦々恐々とした心境なんだからな。これじゃ、やる前から勝負が決まっているようなものだ。

 まだ一般人の立場とはいえ、【クエスト簡略化】スキルがあってこの惨状なんだから嫌になる……お、早速攻撃までのカウントダウンが視界に表示された。残り30秒だ。今までで最も猶予があるわけだが、その分対処が難しいのは見え見えだ。

「くっ……!?」

「か、風間よ、どうしたのだ……?」

「い、いや、なんでもありません……」

 恐怖は伝染してしまうからと、俺は風間にを告げずにはぐらかしたものの、頭の中は真っ白になりつつあった。

 大方の予想通りではあったが、周囲にはあまりにも絶望的な光景が展開されていたからだ。ウォーニングゾーンが宙を含めた視界全体に広がっただけでなく、風間の武器の下も例外なく赤色で埋め尽くされていたのだ。

 さあ、どうする。今度こそ、どこにも逃げ場はないぞ……そんなボスの台詞が高笑いとともに聞こえてきそうであり、やつの満面の笑顔がたちまち不敵な笑みに見えてくる。

 もう残り15秒まできた。まずい、このままじゃ本当に俺たちはここで死んでしまうぞ……。デスマスクの勝利を確信したかのような笑顔に心が押しつぶされそうになる。挫けそうになってしまう……。

 でも、そんなんじゃダメだ。それこそ相手の思うつぼだろう。折れかかっている気持ちを脱ぎ捨て、無理矢理にでも継ぎ接ぎだらけの平常心を纏ってなんとか打開策を考えるんだ。最後の最後まであがいて、それでもダメなら仕方ない。

 残り10秒……なのに答えは出てこない。こうなったらシンプルに考えよう。難しく考えすぎるとドツボにはまるからだ。

 デスマスクが怒った顔のときは、真っ赤な手が幾多も伸びて握りつぶそうとしてきた。泣きそうな顔になると、ディープなアシッドレインがしばらく降り注いだ。

 ということは、笑顔になったら――?

「――はっ……!」

 そう考えたとき、ようやく俺の中に神が舞い降りるとともに、を告げてきた。

 そうだ、この表情のボスがしてくるとしたらあれしかない。それが回答なら、逃げる場所がどこにもないというのも納得できる……って、もう残り5秒だ。

「風間さん、耳を塞いでくださいっ!」

「へっ? な、何を言っておるのだ、佐嶋よ――」

「――いいから早くっ!」

 耳を折り重ねるようにして、両耳を塞いだ直後のことだった。無音の中で、デスマスクの笑顔が目を塞ぎたくなるくらいの輝きを放った。

「「……」」

 生きた心地がしなかったが、なんともない、大丈夫だ。やはり、俺の考えた通りだった。今頃ボスの笑い声が周囲に響き渡っているはずで、それを聴いていたらおそらく今頃はあの世にいたんじゃないか。

 ……お、ボスが仮面を身に着けたので、ようやく攻撃が終わったみたいだ。

 こういう両手が使えない場面でも、念力とか扱えるなら反撃できたんだが、俺と風間は近距離のアタッカータイプだからな。陰鬱な顔同様、笑顔が出てきた場面でも俺たちは防御に徹したほうがいいだろう。

「――スウウウゥゥゥッ……」

 それまで耳を閉じていたせいか、一層大きく聞こえるボスの吸息音に対し、心身がともに震えるようだった。

 ほぼ間違いなく、これからデスマスクの顔面は楽の表情に移行するんだと予想できるが、次はどんな攻撃が来るかと思うと、心はまったく穏やかになれそうになかった……。
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