ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第62回 距離感

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「――はぁ、はぁ……」

 な、なんなんだよ、このダンジョンは……頭がおかしいにもほどがある……。

 ほんの数分前までは、まさか息が切れて立ち止まることになるなんて思いもしなかった。

 自分の病室を出てた俺は、長細い通路を延々と走っていたんだが、景色がまったく変わらなかったのだ。

 マップウィンドウを見ると、野球帽のマーカーまで近いと思ったので一気に走って迫ろうとしたわけたが、完全な見込み違いだった。どれだけ通路を走っても距離がほとんど縮まらなかったからだ。

 似たような景色が延々と続いていることから、もしかしてループでもしてるんじゃないかと思ったものの、それは自分の服のボタンやハンカチを通路に置いても回収できなかったので違うことが証明された。

「……………」

 多分、もう100キロは走っているはず。なのに、明るくも暗くもない、先も見えない曖昧模糊な通路は未だに終わりを告げる気配すらなかった。
 
 なんていうか、病院ダンジョンなだけに病的な広さだし、今まで以上の狂気を感じる。さすが、ダブルで変異しているだけある。

 野球帽のいるところへほんの僅か、少しずつ近付いているのはわかるが、その距離が本当に果てしない。

 スピードに自信がある俺でさえこうなんだから、普通のやつだったらそれこそ精神が病むレベルなんじゃないかな。三日三晩徹夜で走っても辿り着けそうにないと思えるくらいだし。

 そうだな、レベルを上げるか。前回の学校ダンジョンと比べると長期戦になりそうだし、全回復の温存にこだわる必要もなさそうだ。

 そういうわけで、俺はその場でレベルアップクエストを解放すると、腕立て伏せ、腹筋を5回ずつこなし、さらに5メートルのランニングをこなしてレベルを5から6に伸ばした。

「うあぁっ……!?」

 思わず声が飛び出すほど力が漲ってくる。体力に振るべきかどうか一瞬迷ったものの、スピードに10ポイントを全部振って39にした。

 さて、あとは限界まで走り続けるだけだ。頼むから、俺が来るまで絶対に死ぬなよ、野球帽……。



「――あっ……」

 それから体感で30分ほど走ったあとだった。通路を走っていた俺は、視界が一気に広がったこともそうだが、を前に、しばらく呆然とするしかなかった。

 な、なんだこりゃ……。

 そこは一言で表現するなら、だった。

 後ろ以外、どこに視線をやっても定期的にベッドが置かれていて、その終わりがまったく見えないくらい先まで続いていたんだ。試しにその場でジャンプしてみても、やはり終着点は見えなかった上、天上まで届くどころか近付く気配も全然なかった。仮に念力等で上昇し続けて届いたとしても、弾かれるだけで無駄だろうけど。

 とにかくこの先に野球帽がいることは確かだし、景色は異様だが今まで通り走り抜けるだけだ。

 病院ダンジョンの注意事項としてってことだから、ベッド上の布団の中にモンスターが隠れてそうだが、今は合流するのが先決だしスルーさせてもらう。

「…………」

 そう思って先に進み始めて数分後、俺は異変に気付いた。が追ってきているのだ。

 そんな、バカなことがあるか。俺のスピードについてこられるわけ――

「――はっ……」

 そう思って振り返ったとき、すぐ背後に草鞋虫わらじむしに似た形状の虫の群れが迫っているのがわかった。

 な、なんだ、この恐ろしいスピードでついてくる大きな虫は? まもなくウィンドウが出てきて、そこにレベル10のホスピタルマゴットと表示された。マゴットって、確か蛆虫のことだったはず。

 ダ、ダメだ、このままじゃ追いつかれる……。

「「「「「ウジュルッ……!」」」」」

「うっ!? がはぁっ!」

 やつらは体を丸くして、立て続けに襲い掛かってきたわけだが、その衝撃が人間に体当たりされるよりずっと上だった。

 スピードだけじゃない。これだけ小さいのにどこにそんなパワーが秘められているのか。

 いちいち弾き飛ばされて視界が安定しなかったが、足元がベッドに引っ掛かったことで、俺はそれを利用して反撃するべくデスサイズを振るう。

 こっちだってスピードには自信があるし、敵の数が多いってことであてずっぽうで振り回しても当たるわけだが、命中して緑色の体液が飛び散ってもやつらは体力も高いのか中々落ちなかった。

「……ウバァ……」

 このままじゃまずいな……そう思っていたら、今度は包帯をグルグル巻きにしたやつがベッドから下りてこっちへ歩み寄ってきた。ペイシェントゾンビっていう、レベル7のモンスターだ。注意事項には患者に気をつけろってあったから、おそらくペイシェントっていうのは患者のことを意味しているんだろう。

「ぐぐっ……!」

 蛆に気を取られている間に、俺はゾンビに首を絞められてしまった。蛆よりスピードはないものの、その分パワーがあるのかすぐに意識を手放しそうになる。

「……オ、オデノ、ムスコォォ……」

「…………」

 む、息子だと……? こいつ、まさか、コンビニダンジョンで襲ってきた子供ゾンビの父親か……? って、それどころじゃない。な、なんとかしないと……まずい。このままじゃ、本当に……死んで、しまう……。
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