ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
65 / 91

第65回 矢面

しおりを挟む

「ウヴォオォ……」

「…………」

 果てしなく続くかのような、病院ダンジョンの長細い通路にて。

 身を屈めるようにして、よたよたと歩くモンスター――ペイシェントゾンビ――が遠くに見える中、それに対して一切動揺する様子もなく弓を構える中年男性がいた。

「――ガアァッ!」

 男が放った弓矢はターゲットの口内に命中し、それからまもなく周囲を這い回っていた蛆たちとともにゾンビは姿を消した。

「「「「「さすがボスッ」」」」」

 班員たちがこれでもかと褒め称える中、館野は一転してヘラヘラとした笑みを浮かべる。

「ところで、お前たちは知っているか?」

「「「「「へ……?」」」」」

「初期の頃のスレイヤーは、重火器を使っていたんだ。それが、いつしか使われなくなった。その理由がわかるか?」

「えっと……仲間に対しても危険だから、とかですか?」

「途中で弾切れになるからじゃ……?」

「あ、わかった! 威力が足りないんでしょー?」

 班員たちが次々と答えたあと、館野は首を横に振ってみせた。

「いや、銃弾をな、逆に利用されちまったんだよ。ゼリー状のモンスターに打ち込まれた大量の銃弾が、のちに数倍の威力で撃ち返されて、スレイヤーたちを蜂の巣にしちまった。ちなみに、当時の俺はそこに居合わせていた警官の一人だった」

「「「「「……」」」」」

 青い顔で一斉に黙り込む班員たち。その反応に対して苦笑する館野を先頭にして、彼らは再び歩き始める。

「――た、助けてくれええぇっ……!」

 彼らが通路を1時間ほど進んだときだった。

 大きな蛆たちに体中を食いつかれながらも、班員たちのほうへと懸命に走ってくる若い男の姿があった。

「…………」

 それに対し、表情も変えずに弓を向ける館野。

「ボ、ボス? 何をやってるんですか!?」

「早くあの人を助けないと!」

「そうですよ、本体のゾンビを倒せばあの蛆も消えるっぽいし、それを探さないと!」

「ボス? なんで弓を向けたままなんですか? こ、こうなったら、俺らだけで助けようぜだ――!」

「――死にたければそうしろ!」

「「「「「っ!?」」」」」

 冷たい台詞と同時に館野は矢を放つと、それは駆け寄ってきた青年の胸部を貫通した。

「たすけ――かはっ……」

「ボ、ボス! どうしてこんな惨いことをっ!」

「そうですよっ! それでも人間なんですかあなたは!?」

「こ、こんなの、人間のやることじゃねえよ!」

 班員たちから抗議の声が次々と上がる中、館野はまったく気にする素振りもなく、前方を指差してみせた。

「お前たち、あれをよく見てみろ」

「「「「「えっ……」」」」」

 青年の死体に集っていた蛆たちが消えていく。その後方には眼球に矢が突き刺さった状態で倒れたゾンビがいて、まもなく姿を消した。

「あの男の後ろには、追いかけてくるゾンビがいたから、それも纏めて殺した。もしお前たちがあれを助けようとしていたら途端に蛆どもの標的になり、さらにゾンビに殺されていたかもしれねえ。どうせ助からない命のためにな。全ての責任は俺にあるから、お前たちは何一つ気にするな」

「「「「「……」」」」」

 館野は、またしても沈黙する班員たちを尻目に一人で歩き出す。取り残された彼らはお互いの顔を見合わせたあと、一斉にうなずいて班長のあとを追うのであった。



 ◆◆◆



「な、なんだこりゃ……!?」

 黒坂優菜が飛び出さんばかりに目を見開くのも当然で、その場は超巨大病室の一部になっており、見渡す限りベッドが並んでいたのだ。

「フンッ、ダンジョンのランクはF++か。+が並ぶとは、珍しい。これは楽しみだなぁぁ……」

「そ、そりゃ、羽田からしてみたら楽しみなんだろうけどさぁ、ダブルで変異してるなんて気味が悪いぜ……」

 嬉々とした様子の羽田京志郎がベッドから降り、対照的に臆した表情の黒坂とともに歩き始めた矢先だった。

「ちょっと、二人とも、待ちな!」

 二人に待ったをかけたのが、一人の老婆であった。

「病院がダンジョン化したんだろう? だったらここでじっとして、スレイヤーが助けに来るのを待つほうがいいよ」

「ちょ、婆さん、あたしらはこう見えてもスレイヤー――」

「――こいつは私に任せろ、黒坂ぁ……」

「ちょ、羽田!? ま、まさか、婆さんを死体に変えちまうのか!?」

「…………」

 羽田が黒坂の質問に答えずに老婆の目の前まで近寄ると、両方の口角を吊り上げてみせた。

「な、なんだいなんだい、そんな余裕そうな顔なんかしちゃって……ガールフレンドの前だからって、あんたが虚勢を張ってるのは丸わかりなんだよっ! いいかい? あたいはあんたらが心配で言ってるんだから、素直に言うことをお聞きっ!」

「……フン、お前はそこで座して死ぬのを待てばいい」

「ま、まだ言うのかい! もう、どうなっても知らないよ――!」

「「「「「――ウジュルッ……!」」」」」

 それからほどなくして、彼らは大きな蛆たちに取り囲まれることになった。

「あ、嗚呼ぁっ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」

 老婆が目を瞑ってその場に座り込み、合掌して念仏を唱え始める間、蛆たちは見えない壁に当たるようにして弾かれるとともに、その体が見る見る削られていく。

 少し経って現れたゾンビも、蛆たちが息絶えるタイミングで跡形もなく溶けるように散っていった。

「婆、目を開けろ。敵はもういないぞ」

「えっ……?」

 きょとんとした顔で周囲を見渡す老婆。

「あ、あたいの祈りが通じたんだね!」

「フンッ。神なんて存在しない。覚えておけぇ」

「な、なんて罰当たりなことを言うんだいっ! どうなっても知らないよ!」

 叫ぶ老婆を尻目に悠然と歩き出す羽田。

「いるとしたら、犬だ」

「へ? 犬……?」

 眉をひそめる黒坂の横顔を一瞥して、羽田はニヤリと笑った。

「そうだ、だぁ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...