67 / 91
第67回 自然淘汰
しおりを挟む「――ウゴオォォッ!」
超巨大病室の一角にて、耳に矢が突き刺さったゾンビが倒れ、周囲を這い回っていた蛆たちとともに消失した。
「ふう。これじゃきりがねえなあ」
館野が細目で遠くを見やりつつ、溜め息を吐く。
「「「「「さすが、ボスッ!」」」」」
班員たちが脱帽した様子を見せるのも当然で、館野の放つ矢はいずれも的確にゾンビの急所に命中し、なおかつ強烈であったためにいずれも一発で仕留めていた。
「もう、最高ッス、館野さん、いや、ボスッ!」
「私、ファンになりそー」
「蔵見さんよりカッケー!」
「渋いよねー」
「おいおい、お前たち、俺をいくら褒め殺したところで、煙草臭い息くらいしか返してやれないぞ……?」
ヘラヘラと笑いながら髪を掻く館野だったが、まもなく一転して険しい形相になる。
「「「「「ボス……?」」」」」
「おい、お前たち、すぐにウィンドウを確認しろ……」
クエスト【病院の絶対者】が解放されました。
クエストランク:A+
クリア条件:絶対者を倒すか、その魔の手から逃れるか。
成功報酬:【レアスキル】獲得。
注意事項:失敗した場合、100%死亡します。
「「「「「ぜっ、絶対者……」」」」」
スレイヤーたちの視界に突如、クエストの条件が提示されると、館野以外の面々が見る見る青ざめていった。
「……魚や小鳥は、何故群れると思う? それはな、希釈効果といって、自分たちが捕食の対象にされたとき、仲間を囮にしてでも生き延びるためだ。そういうわけだからお前たち、今すぐ四方に散れっ!」
「「「「「っ……!?」」」」」
館野の発言により、班員たちは一瞬戸惑った様子を見せたものの、少し経って言われた通り四方へ散らばるように走り始める。
「はっ……!?」
少し逃げ遅れたことで懸命に遅れを取り戻そうとするスレイヤーがいたが、振り返っても誰の姿もないどころか、絶対者クエストのウィンドウも消えていたために安堵した表情に変わる。
「よ、よかったぁ、死ぬかと思った……って!」
だが彼の顔は数秒後にこの上なく険しくなる。絶対者クエストのウィンドウが消えたのは、前を見るために一時的に視界から取り除かれただけで、実は片隅に残っていたのだ。
(だ、ダメだ。きっと自分が狙われてるんだ。このままじゃやられる。逃げ切れない……そ、そうだ。ここに隠れれば……!)
班員の男がはっとした顔でベッドの下に潜り込む。
(はぁ、はぁ……に、逃げ切れた……? ってことは、このままいけばレアスキル獲得か!? やったぜ。最初から逃げずにこうすりゃよかったんだ……)
ほどなくして男は安堵の笑みを浮かべてみせた。
(今頃、必死に逃げてるやつらが気の毒だな。館野っておっさんもそうだけど、みんな頭悪すぎだろ――)
「――おやおや、スレイヤーがこんなところで、一体どうしたんだい?」
「うぇっ……?」
男は何者かの手によって、ベッドの下から一気に引きずり出される。彼の視界には、暗くて見えなかっただけで絶対者のウィンドウが残っており、その目の前では白衣を着た男が白い歯を覗かせていた。
「……い、い、嫌だあ、た、たたっ、頼むっ、なんでもするから、金も何もかもやるから、助けっ、たしゅけてくれえぇっ……!」
「知っているかい? 弱者は淘汰されなければならないということを。これは残酷に見えるかもしれないが、神が我々人間にくださった絶対的な自然の掟であり、僕はそれを身をもって示す立場でもあるのだ……」
「い、い、嫌だ、嫌だああぁぁ――!」
隠れていた男が泣きながらナイフを取り出し、自身の喉を掻き切ろうとしたときだった。それは寸前で白衣の者に止められることになる。
「人が全世界を手に入れたとしても、自分の命を粗末にしたらなんの意味もない。マルコの福音書8章36節から引用したものだ。その大切な命は、己のためではなく偉大なる神のために使うといい。生贄のためにね。そうすれば、その魂は永遠のものとなるのだから……ガリッ」
「ぐぎっ……? あぎゃっ……あがああああぁあぁぁっ!」
痛ましい叫び声が響き渡る中、遠方にて散らばっていた館野らスレイヤーたちが合流する。
「やつ以外、みんないるか? よし、行くぞ。おい、後ろを見るな、そこのお前だっ! 決して振り返るなっ! いいか、少しでも生き延びたければ、やつが食われている間に絶対者からなるべく離れることだっ!」
「「「「「りょっ、了解、ボスッ……!」」」」」
館野の背中を追う班員たちの目は、いずれも真っ赤になっていた……。
13
あなたにおすすめの小説
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる