ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
68 / 91

第68回 代行者

しおりを挟む

「――う……?」

 ベッド上で目を覚ます短髪の少女、藤賀真優。おもむろに起き上がると、まもなくその眠そうな瞳が見開かれることになる。

(な、なんなの、ここ……!?)

 そこは小さな病室からは大きく様変わりしており、四方に先が見えないほどの異常なスペースがあり、数え切ることが一目で不可能だと断定できる量のベッドが整然と置かれていたのだ。

(……こ、怖いよぉ。誰かいないの……?)

 不安そうに歩き始める藤賀。それからほどなくして、彼女はを耳にすることになる。

 ……ヌチャ、クチャ……ガリッ……。

(な、何、この音……? すぐ近くからみたい。誰かいるの……?)

 藤賀は音がする方向へフラフラと歩き始めたが、僅かなときを刻んだのち、凍りつくかのように立ち止まることになった。

(……う、嘘、嘘ぉ……)

 彼女の大きな瞳に映し出されたのは、ベッドの下で人が人を食べている場面であった。

「…………」

 藤賀はゆっくりと後ずさりしてそこから離れると、一気に駆け出した。

(……お、お願い、来ないで……こっちに来ないでえぇ……!)

 彼女は祈りながら全力で走っていたが、やがて左足がベッドの角に当たり、バランスを崩して倒れ込んだ。

(……は、早く、早くここから逃げなきゃ――)

「――大丈夫かい?」

「っ!?」

 立ち上がった藤賀のすぐ後ろから声がして、彼女は信じられないといった表情で振り返ると、そこには口の周りを真っ赤に染めた白衣の男が白い歯を覗かせていた。

「レディーに食事中のところを見られちゃったみたいだね……」

「……ひ、ひぃぃ……こ、来ないで、来ないでええぇ……」

「そんな風に怯えないでくれたまえ。僕にこれから食べられるにしても、痛みなど一瞬で終わるし、逃げるスピードを見た感じでは君もスレイヤーだろう? 死ぬ覚悟くらいできていなければ、この仕事は務まらないのだよ……」

「……い、嫌ぁ、嫌だよぉ……」

「嫌だって? でもね、人は誰しもいつかは死ぬ。ならば、その命を偉大なる神のために差し出したいとは思わないかね」

「……か、神様? に、人間じゃないっていうんですか、あなたは……?」

「ん? あぁ、そうさ。実際、絶対者って呼ばれているんだ。それに関するウィンドウも出ているだろう? ただ僕から逃げるだけじゃ、報酬は得られないみたいだけどね。そんなことも知らないスレイヤーってことは、相当な新入りだね?」

「…………」

「図星か。可哀想だがこれも教育の一環だから仕方ない。食べる前に自己紹介させてもらうよ。僕は杜崎一聖もりざきいっせいといって、この大学病院の教授であり、神の代行者でもあるんだ……」

(……ダメ、この人、話がまるで通じそうにない……どうすれば……どうすればいいの……)

 肩を震わせる藤賀の脳裏に浮かぶのは、佐嶋康介という青年の顔であった。

(……なんでだろう。あの人のことを思い浮かべると、体が熱くなるし、勇気が出る……。そうだ、私は野球が好きなんだよね。誰かに助けを求めてる暇があったら、自分の力でなんとかしなきゃ……!)

 はっとした顔で駆け出す藤賀。そのスピードは、目の前にいた男――杜崎教授――を一瞬で置き去りにするほどのものであった。

「……逃さん……う、うぉぉっ……うおおおおおおぉぉっ!」

「っ!?」

 雄叫びがした直後、振り返る藤賀の目睫にあったのは、遠く離れていたはずの男の白い歯であり、その細い腕はたくましい右腕によってがっしりと握られていた。

「い、嫌だぁぁっ! 嫌だよぉ……!」

「ククッ……生贄が駄々をこねるようでは話にならんな。家畜以下だと思え――」

「――チッ……!」

 舌打ちとともに藤賀の右の拳が絶対者の頬に埋め込まれた。

「ぶへえっ……?」

「……あ、あれ……」

 自分のしたことが信じられないといった様子で、藤賀が自身の手と男の欠けた歯を交互に見ながら後ずさりする。

「……ぺっ、ぺっ……ほう、歯を折られた、か。これは驚いた。まだこんな元気があったとは。これは以前食した猫料理のように、食材を生きたまま何度も叩いて柔らかくしてからでも遅くはないだろう……」

「……い、嫌、嫌……助けて、康介さん……」

「……康介、だと? まさか、あの佐嶋康介か。これはもっと驚いた。やつの知り合いだったとはな。それならば尚更躾を施さなくてはならん。死ぬまで時間がかかる上に激しい痛みも伴うが、仕方ないだろう。。ヘブル書の9章22節から引用したものだ。神に従わない者たちの愚かさは、その辺の虫けらにも劣るということを、身をもってわからせてやる……」

「……い、嫌あぁ……」

 鬼の形相を浮かべた男を前にして、藤賀がすっかり戦意を喪失した様子で尻餅をつく。

「さて、生体解剖ヴィヴィセクションといくかね――――ん……?」

 片方の眉をひそめて、いかにも気難しそうな顔で振り返る杜崎教授。少し経ったのち、の姿を目撃することになるのであった……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...