ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
69 / 91

第69回 主菜

しおりを挟む

(――だ、誰かこっちへ来る? そ、そうだ、今のうちに逃げなきゃ……!)

「うっ……!?」

 前方に視線を移した杜崎教授の顔が歪む。藤賀が自身を掴んでいた彼の手を噛み、そこから逃れたのだ。

「――はっ……」

 だが、一気に駆け出そうとしたところで、彼女は足を止めた。どこを見渡しても、その遠方には幾多ものゾンビや大きな蛆たちが這い回る姿があったからだ。

(ここから離れても、どこにも逃げ場がない。どうすればいいの……?)

 近くのベッドの陰に隠れる藤賀。そこからそっと杜崎教授の様子を覗き込む。

「ひっ……」

 すると彼は藤賀のほうを笑顔でじっと見ていて、欠けた白い歯を零していた。

(ここにいても、いずれあの人に食べられちゃうだろうし……前のほうから来る人に助けを求めるしか――って、あ、は……)

 やがて、前方からこちらへ向かってくる人物の姿が徐々に近付いてきたことで、藤賀は目を見開くとともにうずくまり、頭を抱える。

(……ど、どうして? あ、頭が、凄く、いた……い……)



 ◆◆◆



「…………」

 杜崎教授は、藤賀が隠れた後方と右腕の咬傷をしばらく見やったあと、前方に視線を戻した。こちらへ猛スピードで向かってくる人物が一体誰なのか、大方区別できるほどに迫ってきていたからだ。

(まあ、メインディッシュの前に小休止といったところか……)

 首をコキコキと鳴らす杜崎教授。やがて、前方からやってくる人物の全貌が明らかとなる。

「――誰かと思えば、お前かぁ……」

 七三分けの髪型をしたスーツの男は、ずっと宙に浮いた状態であった。

「おぉっ……これはこれは、かの有名な虐殺者の羽田氏ではないですか、お久しぶりですな」

 杜崎教授が深々とお辞儀をしてみせると、羽田京志郎はいかにも小ばかにしたように鼻で笑った。

「杜崎、共食いの趣味は相変わらずなのかぁ? 私の周りには変な趣味を持つ輩が多い」

「ハハハッ。共食いとはとんでもない。神の生贄ですぞ」

「神の生贄ぇ? ただの犬の餌だろう」

「ハハッ……もし、あなたが羽田氏じゃなければ、今頃怒りのあまり生きたまま貪っている最中でしたよ。なるべく意識を保たせた上でね。それにしても、こんなところへ何用で?」

「私は入院していただけで、患者の一人として彷徨っているにすぎない。私の手術をしたいというのなら、構ってやってもいいぞぉ……?」

「いえいえ、いくら僕でも、あなた様に勝てるなどとは微塵も思っておりませんし、そんな暇はありませんのでね……」

「フンッ、私もお前みたいな犬の相手をしている暇などない――」

「――おーい、羽田ー!」

 後ろから叫び声を上げつつ駆け寄ってくる少女。両膝に手を当て、その髪は地面に届きそうになっていた。

「おやおや、羽田氏のガールフレンドですかな……?」

「こいつは勝手に私のあとをついてきているだけだ」

「はぁ、はぁ……ちょっ、羽田、いきなり勝手に進んでおいて、そんな言い方はねえだろ……」

「「「「「杜崎教授ーっ!」」」」」

 そこに、白衣を纏った集団がぞろぞろと走ってくる。いずれも疲れ切った様子で、顔面蒼白になっていた。

「……で、こいつらは、お前の非常食か?」

「いやいや、僕の部下たちですよ。こう見えても本業は教授なのでね」

「そういえばそうだったなぁ――」

「――おい、そこのやつ! 杜崎教授にタメ口とは、無礼だぞっ!」

 白衣の集団の一人、原沢医師が前に出て眼鏡を曇らせながら抗議すると、羽田が指を鳴らしてみせた。

「お前、自分の手の平を見てみろぉ。左手のほうだぁ……」

「えっ……?」

 原沢医師が骨だけになった左手を二度見したのち、失禁しつつ倒れる。

「いやぁ、お見事。これは、中々洒落たことをなさいますな」

「そいつはだ。私の真の芸術品を見ていないのかぁ?」

「あ……」

 杜崎教授が視線を移した先は、自身が引き連れている医師団の足元であり、で横たわっている者がいた。

「……ひゅー、こひゅー……」

「「「「「ひ……ひぎいぃぃっ!」」」」」

 杜崎教授を除く白衣の集団が一斉にその場から離れる。

「どうだ、杜崎ぃ。という名の芸術作品だが、得意の共食いでもしたらどうなんだぁ?」

「ハハハッ……さすが死体クリエイターという異名も持つお方だ。なんとも味わい深いものを鑑賞させていただきました。しかし細かい注文をつけるなら、これは死体ではないのでは?」

「フンッ。死体じゃないと言い張るならお前たちが助けてみろ。さぁ、行くぞ、黒坂ぁ」

「あ、あ、あいあいっ、わかったよっ!」

 青ざめつつも羽田の背中を追う黒坂。

「……ひゅー……ご、ごろじ、で……は、やぐ……」

「「「「「……」」」」」

 人体を知り尽くした者の死を乞う声が、周囲に虚しく響くのであった……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...