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第83回 音
しおりを挟む「「あっ……」」
俺と野球帽がいる巨大シャボン玉の中、抜け殻になっていた少女が、砂のようになって消えていった。まるで完全に役目を終えたといわんばかりに。
その下では、吐き出した獲物を再び飲み込んだ芋虫が、見る見る体を変形させていく。
まもなくシャボン玉が消えて、俺たちは落下することになった。カウントダウンも始まったし、これから40秒後にやってくるボスの攻撃に備えろってことだ。
「――フォオオォォォッ……」
「「……」」
それまでこっちがボスを見下ろしていたが、今度は見上げる立場になっていた。
見たこともないほどの大型の蝶が、宙をひらひらと舞って手術室を支配していたのだ。黄色や紫色の斑点が毒々しいが色鮮やかで、背中の模様が髑髏を思わせる……って、見惚れている場合じゃなかった。
既にカウントダウンは残り20秒を切ってしまっているところだ。宙を舞う喜びを味わった蝶が次にやることといえば捕食しかないだろう。
当然、狙われるのは俺たちなわけだが、今回ばかりはどうしようもないように思えてくる。やはり羽田のいる吹き抜けの二階を除き、全体がウォーニングゾーンになっているからだ。
「オオォォォッ……」
人間のような声を発しながら、ひらひらと宙を舞い続ける美しい巨大蝶。それを観賞する見返りに命を貰うとでも言いたげだ。
残り十秒になったが、解決策は未だ何も思いつかない。繭もない、シャボン玉もない。二階にも行けない。今度こそ終わりなのか――?
「――そうだ……」
「さ、佐嶋っ? 何かわかったのか?」
「あ、あぁ、音だ」
「音……?」
「そうだ、声でもいい。これから5秒後、俺と一緒に思いっきり叫ぶぞ!」
「えっ……」
「俺を信じろ、藤賀っ!」
「わ、わかった!」
「「――ああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!」」
やはり、思った通りだ。叫んだ途端、赤かった俺たちの足元は青く変化し、ウォーニングゾーンからセーフゾーンに切り替わったのがわかった。
芋虫に食われたスレイヤーの男が一層大きな悲鳴を上げたとき、ボスが嫌がったのか吐き出したことがあった。あれがヒントになったってわけだ。
ミュータントの蝶は、俺たちのすぐ目の前まで迫ってきていたものの、すぐに引き返してしまった。音を嫌がっている証拠だ。
「ぐへえっ!」
「「っ!?」」
喜びも束の間で、またしても生贄が二階から送り込まれてきた。今度は白衣の集団の一人だ。
「た、たしゅっ、たしゅけてえぇぇ……」
「助かりたいなら、そんな小さな声じゃダメだ。俺たちみたいに大声を出すんだああぁっ!」
「そ、そうだ、早く叫べえええぇっ!」
「……こっ、声がぁっ、ききっ、緊張して、出ない――」
「――フォオオオォォォッ……」
助けに行こうとする俺たちを遮るように、大型の蝶が白衣の男へと急降下し、ぐるぐる巻きになった口を伸ばした。
「あ、あぎゃっ。うぅ……うごごぉぉ……」
「「……」」
白衣の男が見る見るミイラ化していく。体液を吸われているんだ、畜生……。
「こ……このおおぉぉっ!」
だが、蝶の体が時折光っていることから、今が攻撃のチャンスってことで、俺はあの男の死を無駄にしないためにも、死神の大鎌でボスを攻撃してみせた。これだけ進化し続けるモンスター、攻撃パターンを読もうとしていたら反撃する暇すらなくなる気がする。
いいぞ、確かに手応えがあったので、光っている瞬間を狙い、ここぞとばかり持ち前のスピードを生かし連続攻撃する。
「お、おい、工事帽、大丈夫なのか!?」
「野球帽、大丈夫だ。いける!」
「よしっ、じゃあ俺も――」
――野球帽が棍棒でボスに殴りかかったそのときだった。矢が複数、ボスに向かって放たれただけでなく、その矢が途中でぐにゃりと折れ曲がって落下したのだ。
これは、館野がボスを倒そうとしてきただけでなく、羽田が得意の念力を使って妨害したことを意味していた。ということは……。
「フンッ……佐嶋ぁ、お前がスキルでボスの弱点を掴んでいるのはもうわかっている……」
「…………」
いかにも愉快そうな、それでいて邪悪な声が耳に届く。やはりそう来たか。俺と野球帽が攻撃するタイミングで、羽田たちも狙ってくるってことだ。
そうなると、俺たちがボスを倒すチャンスは限りなく低くなる上、攻撃しなくなれば役立たずとして処刑されるだろう。かといって横殴りを許すようだと、やつはレアスキルをゲットしてさらに手に負えなくなる。一体どうすればいいというのか……。
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