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第85回 特異
しおりを挟む「――まだまだ、終わってはいない。これからだっ!」
ミュータントフラワーが枯れ落ちた際、俺は力強くそう言い放った。
ボスはまだ死んでいないってことをアピールした格好だが、ここで自分が本当に強調したいのは、まだまだいくらダメージを与えても倒せないってことなんだ。
そのことで、ボスが点滅状態、すなわち弱っているってことを隠蔽することができる。
もしそのことを虐殺者の羽田に知られてしまうと、もうすぐ倒せるってことでボス討伐の邪魔をされないためにと、まず俺たちの処刑を視野に入れるかもしれないからだ。
「…………」
手術室を不気味に彩っていた花が散ってまもなく、視界にカウントダウンが表示され、あと50秒後にミュータントが攻撃を仕掛けてくることがわかった。
ボスが未だに姿を見せないのは、例によって対策をされないためだろうが、それだけこっちに考える時間ができるってことでもある。それを最大限に生かすんだ。
役目を果たさないと殺されるからといって、俺はボスを倒す権利を素直にあの男に譲り渡すつもりはない。
じゃあどうするかっていうと、本当は攻撃できるチャンスではないのに、実際に攻撃を仕掛けることでそうだと見せかけるんだ。
これは、【クエスト簡略化】スキルを持っている俺だからこそ可能なことだ。
こっちが攻撃すると、そのときこそがボスにダメージを与えられるタイミングだと羽田たちは考えて横殴りしてくるはずなので、それを利用させてもらうことにする。このボスは特に光るタイミングが特殊なので、不自然だとは思われないだろう。
そもそもこのミュータントというボス、色んな形態に変化し続けているというのもあるが、フラッシュする瞬間が独特で読み辛いんだ。
というのも、ボスが攻撃してきた瞬間に光るのではなく、それから少しだけ経ったあとでフラッシュするといった具合だ。そこが今までのボスと違って特殊なところだ。
なので、今がボスを攻撃するタイミングじゃないときに手を出す、つまりフェイクを入れることにした。
問題は、それじゃ当然ボスを倒すことはできないってことだ。すなわち、いかに羽田たちに悟られずにボスに攻撃できるかだが……これに関してはどうしようもない。念力があればいいがそういうわけにもいかないしな。時間もないし、これはあとで考えることにしよう。
さあ、残り30秒になったし、もうそろそろボスが現れるはずだ。いくら対策されないためとはいえ、基本的に姿を見せなければこっちに攻撃はできない。魚形態のときのように透明なものがうろついている可能性も考えたが、そういう気配はまったくなかった。
繭、魚、少女、芋虫、蝶、花ときて、次はなんだ……?
「「――ぬぁっ……!?」」
俺と野球帽の上擦った声が被るのも仕方のない話だった。
ぼんやりと手術室に現れたのは、四角形の椅子だったからだ。
椅子といっても、背もたれのないボックスタイプのスツールだ。これはさすがに予想できなかった。最低でも生き物が来ると思っていただけにな。ただ、椅子と見せかけているだけだろう。当然のように、椅子の上も含めてウォーニングゾーンだったが。
「――あひゃああっ!」
「「っ!?」」
ボスの攻撃まで20秒後というところで、なんとも間抜けな声とともに落下してきたのは、白衣の集団の一人だった。また羽田の実験台にされたのか……って、この左手に包帯を巻いた眼鏡の男、見覚えがあると思ったら、原沢とかいう俺に粘着してきた医師じゃないか。
「き、君ぃっ、私を助けるのだあぁぁっ!」
「おいおい。そこは助けてください、だろ?」
「た、たすっ、たちゅけてくだちゃい……ぐぐっ!」
プライドが高すぎるのか、悔し涙を流しながらお願いしてくる原沢。まあいい。この医者は嫌なやつとはいえ、羽田に比べたら数万倍マシだ。
やつの思う壺にさせないためにも、俺は原沢を助けようと思う。
とはいえ、今のままでは助けるどころか全滅してしまうし、この状況をなんとか打開しなくては。既にカウントダウンは残り10秒になろうとしてるが、乗り越える手段は絶対にあるはず。だからあきらめずに考えろ、考えるんだ……。
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