ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第87回 覗き

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「…………」

 椅子が消えてからまもなく、残り2分というカウントダウンと、真っ赤なウォーニングゾーンが視界全体に表示される。

 今までに比べるとかなり余裕があるだけに助かるが、まだボスは次の形態を見せてないし、攻撃まで時間がある分、相当に強力なものが来るはずだ――

「――佐嶋ぁ……」

「「「っ!?」」」

 俺たちがはっとした顔で一斉に見上げるのも当然で、ある意味ボスよりも影響力のある人物――虐殺者の羽田――が声をかけてきたからだ。一体なんの用件があるんだか。俺はこんなやつとは一言も話したくないっていうのに。

 それでもこのまま無視したら、羽田のことだから最低でも見せしめとして原沢医師を処刑すると思うので、俺は嫌々ながらも応対することに。

「なんだよ、羽田……」

「不服そうだなぁ、ネクロフィリアの佐嶋ぁ……」

「そりゃそうだろ、必死になってボスと戦ってる最中に声なんかかけてくるんだから」

「まだボスは現れてないようだがなぁ……?」

「現れたあとですぐボスの攻撃に対応しなきゃいけないから、対処法を考える時間がいるんだよ!」

「そう興奮するなぁ。私が気になったのは、ボスが椅子の形態になったとき、何故お前は攻撃しなかったのか、ということだぁ……」

「……その余裕がなかっただけだ。見ればわかるだろ?」

「果たしてそうなのか、どうにも怪しいが、まあいい……」

「…………」

 さすが、褒めたくはないが、羽田は異様に勘の鋭い男なだけある。

 正直、こいつみたいに念力で攻撃できるわけでもないのに、バレないように攻撃してボスを倒すのは不可能だと思えてくるし、そういう方法も見つかりそうにない。

 なら、死神の大鎌の即死効果に頼るのはどうだろうか? 所持しているだけで効き目はあるはずだし、これならバレないはず。見た目もツルハシと大差ないしな。あとは、それまでボスの攻撃に耐えられるかどうか……。

「「「あっ……」」」

 俺と野球帽と原沢の声が被る。カウントダウンが30秒を切ったところで、宙に浮いた大きなミラーボールが出現したからだ。椅子の次は鏡か。ここまで来ると次の形態が全然読めなくなってくるんだな。

 ミラーボールはどこを見ても全て真っ赤だから、椅子のようにはいかないだろう。動かそうとしてもびくともしないし、破壊してやろうと俺が大鎌で攻撃しても、野球帽が棍棒で殴打しても傷一つつかなかった。

「きえええええぇぇっ! ひぎゃっ!?」

 原沢がミラーボールに向かって飛び蹴りを入れようとしたが、届かなかった上に派手に転んでしまい、二階から次々と失笑が上がった。バカか……。

 でも、こんな間抜けなやつだからこそ、あの羽田が生かしてるのかもしれないな。やつはどっちかっていうと、目立つ人物を生かす傾向にあるように感じた。

 って、それどころじゃないな。カウントダウンは順調に進んでいて、残り15秒だ。

 このままじゃやられてしまう。考えろ、俺……。

 鏡といえばなんだ? 当然だが、その前にあるものを映す。実際、ボスのミラーボールには俺たちの見上げる姿が映し出されていた。

 いや、待てよ。この鏡はただの鏡じゃない。生きた鏡、ミュータントミラーだ。それなら、見たものを映していると考えるよりも、逆にと考えるべきでは……?

 そうか、わかった。カウントダウンは既に残り6秒だったが、俺はミラーボールに近付くと自分の上着を脱いで覆い被せてやった。すると、自分の周囲が青いセーフゾーンに切り替わるのがわかる。やはりそうだったか。これに映り込んだものが攻撃対象になるんだ。

「これで大丈夫だ」

「さ、さすが工事帽っ」

「き、君、中々やるじゃないかっ」

「…………」

 野球帽だけでなく、原沢まで褒めてきたのでなんとも不気味だ。

「フンッ、佐嶋め、考えたものだなぁ。だが、つまらん……」

「「「っ!?」」」

 何を思ったか、羽田がそう言い放ったかと思うと、まもなく館野が率いていたスレイヤーの一人がミラーボールに覆い被さった。

「どうなるか見物だなぁ」

「こ、こいつ……」

「ひ……ひいいいぃいっ!」

 カウントダウンがゼロになった途端、ミラーに覆い被さった人間が吸い込まれ、中に入ってしまった。

 な、なんということだ……。閉じ込められたスレイヤーが血眼で必死に脱出しようとしているが、かなわない。これはある意味、普通に死ぬより苦痛だと思えて正視できなかった。

「これは、生きているが死んでいるも同じ。ある意味、私の作ったあの芸術品、雑魚の活き作りと同じだなぁ。あれよりも残酷だが……」

「いやー、素晴らしい。これまた至高の芸術品を鑑賞させていただきました。さあ、君たちも拍手しないか」

「「「「「……」」」」」

 悲劇的な光景に対して誰もが沈黙する中、杜崎教授に促される形で拍手の音だけが響き渡った。
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