ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
89 / 91

第89回 芝居

しおりを挟む

 カウントダウンは残り1分を切り、いよいよ時計形態のボスの攻撃が近付いているわけだが、対処法は依然としてまったくわからないままだった。

 あと1分で何も思い浮かばなければ、俺たちのあの世逝きが確定する……そんな苦しすぎる状況下において、俺は羽田を納得させるためにやむなくボスを攻撃することにした。

「――今だっ!」

「オーケー!」

 当然、俺の声に反応して野球帽もボスに攻撃しただけでなく、二階にいる羽田たちも続いた。野球帽には悪いが、敵を騙すにはまず味方からっていうしな。

「ボスめ、くらええぇぇぇっ――いったあぁぁっ!」

 原沢が勢いよく時計を蹴るも、痛かったのか足を抱えるようにして座り込んだ。

 だから、こいつは攻撃しなくていいんだって……。しかもいちいち甲高い奇声を上げるし、むしろこっちのほうがダメージを受けそうだ。

 っと、そうだ。俺は傍から見ればまたしてもボスを倒せなかった上に横殴りされたわけで、この場面では悔しがる素振りをしておかないとな。

「クソッ、まだダメだったか。それにしても、あいつら、いちいち邪魔しやがって……」

 俺は苛立った表情を作ると、羽田のほうをちらっと見ながら毒を吐く。なるべく不自然にならないように心掛けないといけないから、とにかく面倒なんだが仕方ない。

「工事帽、そう怒るな。もう、報酬のスキルとか譲ってもいいだろ。誰がクリアしようと、お前と一緒に……い、いや、生きてここから出られるんだったら、俺はそれでいい……」

「な、なんだよ、やけにしおらしいな。野球帽らしくないぞ?」

「チッ……! ど、どういう意味だよ、それ。さじ……工事帽。興奮してるお前をなだめるつもりで言ってやったのに……」

「優しいんだな。惚れそうだ」

「うっ……」

 野球帽のやつ、よっぽど悔しかったのか顔が赤いが、文句をいちいち返してこないってのは成長した証だな……って、こんな漫才みたいなやり取りをしてる場合じゃなかった。

 ボスが攻撃を開始するまで、もうあと30秒しかない。対処法を考えろ、考えるんだ……。

「…………」

 残り20秒まで迫るも、やはり攻撃を防ぐ策は浮かんでこない。やつの形態が時計だからか、余計に時間を意識してしまってノイズが入る。そういうところも計算に入れているのかはわからないが、とにかく焦りが生じているのは確かだった。

 あと15秒だ。もうダメかもしれない……いや、弱気になってる場合じゃない。こんなところで諦めるな。俺は羽田の嫌らしい顔を想像しつつ、闘志を漲らせる。普段から俺をイライラさせるだけの存在なんだから、こういうときくらい役に立ってくれないとな。

 時計はずっと動いている。未来へと向かっている。その意味はなんだ? 時間が経過するってことは、つまり……? うーん、わからないな。時計は時計だし、俺たちは時間が経過したら老化していくだけだが。

 老化……それはすなわち死の訪れを意味する。死ぬということは……呼吸が止まるってことだよな?

 呼吸……そうか、わかったぞ。椅子や鏡のときもそうだったが、こいつはただの時計じゃない。生き物の時計だ。時計の針が動き続けるのは、すなわち呼吸を意味しているんじゃないか? ボスの攻撃も、敵の呼吸を弱らせたり止めたりすることに関係があるように思う。

 それなら、呼吸を止めて死んだ振りをすればいいのかもしれない。早速試してみたら、やはり自分の足元がセーフゾーンになった。

「藤賀、原沢、呼吸を止めろっ!」

「「うっ……」」

 よし、二人とも足元が青くなっているから成功だ。

「ぎゃああっ!」

「「「っ!?」」」

 白衣の男が落ちてきたかと思うと、見る見る年老いていき、遂にはよぼよぼの爺さんの姿になってしまった。体が一気に縮みあがって皺や染みにまみれ、100歳を遥かに超えてしまっている、そんなレベルの見た目だ。彼に比べたら風間が若々しく見えるくらいだった。

「……しょ、しょんなあ……い、嫌らあ……ふがっ……」

 自身のくたびれた手を見つめて涙を流す医者の姿は、あまりにも哀れすぎてまともに見ていられないほどだった。医者仲間の変わり果てた姿を見て、原沢が頭を抱えているのも印象的だ。

「――フンッ、なるほど、生体の体内時計を加速させる攻撃を食らい、一気に年老いたというわけか。最早死んだも同然だが、これは中々の傑作だなぁ……」

 老人の悲しむ姿とは対照的な、羽田のいかにも愉快そうな声が降り注ぐ。相変わらず、この上ない外道だな。まあ死体クリエイターのこいつにとっては単なる誉め言葉か。

 虐殺者の羽田京志郎は、杜崎教授が顔色を窺うほど圧倒的な力を持っているとはいえ、いずれは絶対に倒さなければならない敵だし、この男にだけは何がなんでも、死んでもレアスキルを譲渡するわけにはいかない……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...