21 / 31
第二一階 不遇ソーサラー、家に帰る
しおりを挟む
「うっ……」
それまで中々途切れなかった意識が朦朧としてくる。ようやく死ねそうだ。格好良く死んだつもりが、俺の所有している固有スキルの一つ【鉄壁】のせいで死ぬのに時間がかかってしまったんだ。
最後は口の中に杖を突っ込んで苦しんで死ぬ羽目になった。強くなると自殺するのも難しくなるんだな。これについてはいずれ何か対処法を考えたほうがいいかもしれない。ならず者の中には精神がおかしくなるまでリザキルするやつもいるだろうからな。俺もそうだが。
ダンジョンから出て、いつもの女子トイレの鏡で自分の姿を見てみる。腰元のクロスベルトが目立つくらいで地味な服装をした、癖のある緑色の髪の温和そうな青年っていったところか。肌が青白くて病的だが、顔のパーツはバランスよく整っててイケメンの部類だった。どんなジョブなのか気になるな。マジックフォンはどこだろう? ……これか。コートの内ポケットにあった。
名前:マイザー
年齢:24
性別:男
ジョブ:アルケミスト
レベル:50
LEP546/546
MEP781/781
ATK34
DEF539
MATK162
MDEF132
キャパシティ10
固有スキル
【転生】【先行入力】【効果2倍】
【レア運上昇】【先制攻撃】【必中】
【鉄壁】【呼び戻し】
パッシブスキル
薬物精通9
毒耐性5
アクティブスキル
サモンホムンクルス9
ファーマシー8
クリエイトポイズン6
バイオシード7
なるほど、アルケミストだったか。そういわれてみればそんな雰囲気のある男だった。しかし妙に親近感を感じるのは気のせいだろうか? 男に興味があるわけでもないのに不思議なもんだ。誰かに似てるとかかな?【呼び戻し】という新たに追加された固有スキルが若干気になったが、もうダンジョンに行くつもりのない俺には関係のないことなので調べる気までは起きなかった。
ただ、それでもジョブだけはソーサラーに変更しておいた。冒険者を引退してもこの職は俺にとって最早アイデンティティのようなものだからだ。
「――あっ……」
気が付けばふと、周囲を見渡している自分に俺ははっとなる。そうか……無意識のうちにエリナを探していたのか、俺は。でも、既に決めたんだ。あいつには二度と会わないってな。邪悪な宗教団体『九尾の狐』は叩き潰せたんだし、やることなんてもう……。
「……」
そういや、エリナには復讐するべき相手がいるんだっけか。正直なところそれが心残りだが、仕方ない。すぐ終わるならいいが何も手がかりがない状況だし。俺より頼りになるやつがいれば、そいつと一緒に仇討ちをすればいいんだ。
許してくれ、エリナ。俺のように人間不信じゃないお前ならきっとそれができるだろう。そのほうがより幸せになれるはず。お前が幸せになってくれるならそれが一番嬉しい。卑怯者の俺を許してくれとは言わない。俺は自分にそう言い聞かせるとトイレを出た。やることなんてないし、とりあえず帰るか……。
◆◆◆
見えてきた、見えてきた。俺がかつて住んでいたボロアパートが……。
所々激しく色褪せたレンガの壁、今にも底が崩れそうなアイアン飾りのバルコニー、割れた窓や枯れた鉢植え、ヤカンが放置してある部屋、なんのためにあるのか屋根から吊り下げられた老魔女の人形……どれもこれもが懐かしく思える。
いつもここの二階の部屋から徒歩でパン屋のバイトへと出向いてたんだ。いい歳してダンジョンに行かない臆病なおじさんって、近所の悪ガキどもによく冷やかされたっけ。あいつら今頃どうしてるかなあ。
「おっ……」
思わず声が出た。エントランスから誰か出てきたと思ったら大家の婆さんだった。目が悪くて普段は温厚な人なんだが、癇癪持ちで急に怒り出すから住民には恐れられてたんだ。だからなせいか一瞬体が硬直してしまったが、思えばオリジナルの俺はもうこの世にいないし、わかるはずないんだよなあ。
「おや、そこにいるのは……」
ん? 箒でアパートの前を掃除し始めたと思ったら、俺のほうに気付いたのかよたよたと歩み寄ってきた。まさかな……。
「クアゼルじゃないかい?」
「えっ……」
う、嘘だろ。なんでわかったんだ……。
「い、いや、俺は……」
「やっぱりそうだ。クアゼルだ」
「な、なんでクアゼルってわかるんですかね……」
「フフッ。雰囲気がさ、あいつみたいだったんだよ。それに、そのいかにも人付き合いが苦手そうなどんくさい喋り方、声色を変えてもわかるんだよ、うちには」
ニヤリと笑う大家の婆さん。というか声色だけじゃなく姿も変わってるんだが……この分だと視力は相当悪化しちゃってるみたいだな。
「参ったな。大分イメチェンしたのに。もう俺の奥さんになってもらってもいいかな」
「冗談きついよ。あんたみたいなとろくさい男、うちの孫ぐらいにしか見えないよ」
「ははっ……」
本当に実家に帰ったような安心感に包まれる。思えば、当時は今よりずっと気弱だった俺もこの大家と接するうちに肝っ玉が鍛えられてダンジョンへ行けるようになった気がするし恩人みたいなもんか。
「で、クアゼル。ここには何しに舞い戻ってきたんだい?」
「あ、えっと、ちょっと骨休みに……」
「そうか。なんか事情がありそうだけどね。まあどうせ女関連だろうけどさ!」
「う……」
いちいち鋭い婆さんだ。
「ま、そういうことならしばらくここでゆっくりしていきな。一カ月程度ならタダにしといてやるから」
「えっ……本当に?」
「ああ、クアゼルはうちの常連さんだったからねえ。その代わり、肩叩きだの掃除だのたんまりしてもらうよ!」
「あ、あはは……」
こりゃ普通にこき使われそうだ。タダより高いものはないってよくいったもんだな……。
それまで中々途切れなかった意識が朦朧としてくる。ようやく死ねそうだ。格好良く死んだつもりが、俺の所有している固有スキルの一つ【鉄壁】のせいで死ぬのに時間がかかってしまったんだ。
最後は口の中に杖を突っ込んで苦しんで死ぬ羽目になった。強くなると自殺するのも難しくなるんだな。これについてはいずれ何か対処法を考えたほうがいいかもしれない。ならず者の中には精神がおかしくなるまでリザキルするやつもいるだろうからな。俺もそうだが。
ダンジョンから出て、いつもの女子トイレの鏡で自分の姿を見てみる。腰元のクロスベルトが目立つくらいで地味な服装をした、癖のある緑色の髪の温和そうな青年っていったところか。肌が青白くて病的だが、顔のパーツはバランスよく整っててイケメンの部類だった。どんなジョブなのか気になるな。マジックフォンはどこだろう? ……これか。コートの内ポケットにあった。
名前:マイザー
年齢:24
性別:男
ジョブ:アルケミスト
レベル:50
LEP546/546
MEP781/781
ATK34
DEF539
MATK162
MDEF132
キャパシティ10
固有スキル
【転生】【先行入力】【効果2倍】
【レア運上昇】【先制攻撃】【必中】
【鉄壁】【呼び戻し】
パッシブスキル
薬物精通9
毒耐性5
アクティブスキル
サモンホムンクルス9
ファーマシー8
クリエイトポイズン6
バイオシード7
なるほど、アルケミストだったか。そういわれてみればそんな雰囲気のある男だった。しかし妙に親近感を感じるのは気のせいだろうか? 男に興味があるわけでもないのに不思議なもんだ。誰かに似てるとかかな?【呼び戻し】という新たに追加された固有スキルが若干気になったが、もうダンジョンに行くつもりのない俺には関係のないことなので調べる気までは起きなかった。
ただ、それでもジョブだけはソーサラーに変更しておいた。冒険者を引退してもこの職は俺にとって最早アイデンティティのようなものだからだ。
「――あっ……」
気が付けばふと、周囲を見渡している自分に俺ははっとなる。そうか……無意識のうちにエリナを探していたのか、俺は。でも、既に決めたんだ。あいつには二度と会わないってな。邪悪な宗教団体『九尾の狐』は叩き潰せたんだし、やることなんてもう……。
「……」
そういや、エリナには復讐するべき相手がいるんだっけか。正直なところそれが心残りだが、仕方ない。すぐ終わるならいいが何も手がかりがない状況だし。俺より頼りになるやつがいれば、そいつと一緒に仇討ちをすればいいんだ。
許してくれ、エリナ。俺のように人間不信じゃないお前ならきっとそれができるだろう。そのほうがより幸せになれるはず。お前が幸せになってくれるならそれが一番嬉しい。卑怯者の俺を許してくれとは言わない。俺は自分にそう言い聞かせるとトイレを出た。やることなんてないし、とりあえず帰るか……。
◆◆◆
見えてきた、見えてきた。俺がかつて住んでいたボロアパートが……。
所々激しく色褪せたレンガの壁、今にも底が崩れそうなアイアン飾りのバルコニー、割れた窓や枯れた鉢植え、ヤカンが放置してある部屋、なんのためにあるのか屋根から吊り下げられた老魔女の人形……どれもこれもが懐かしく思える。
いつもここの二階の部屋から徒歩でパン屋のバイトへと出向いてたんだ。いい歳してダンジョンに行かない臆病なおじさんって、近所の悪ガキどもによく冷やかされたっけ。あいつら今頃どうしてるかなあ。
「おっ……」
思わず声が出た。エントランスから誰か出てきたと思ったら大家の婆さんだった。目が悪くて普段は温厚な人なんだが、癇癪持ちで急に怒り出すから住民には恐れられてたんだ。だからなせいか一瞬体が硬直してしまったが、思えばオリジナルの俺はもうこの世にいないし、わかるはずないんだよなあ。
「おや、そこにいるのは……」
ん? 箒でアパートの前を掃除し始めたと思ったら、俺のほうに気付いたのかよたよたと歩み寄ってきた。まさかな……。
「クアゼルじゃないかい?」
「えっ……」
う、嘘だろ。なんでわかったんだ……。
「い、いや、俺は……」
「やっぱりそうだ。クアゼルだ」
「な、なんでクアゼルってわかるんですかね……」
「フフッ。雰囲気がさ、あいつみたいだったんだよ。それに、そのいかにも人付き合いが苦手そうなどんくさい喋り方、声色を変えてもわかるんだよ、うちには」
ニヤリと笑う大家の婆さん。というか声色だけじゃなく姿も変わってるんだが……この分だと視力は相当悪化しちゃってるみたいだな。
「参ったな。大分イメチェンしたのに。もう俺の奥さんになってもらってもいいかな」
「冗談きついよ。あんたみたいなとろくさい男、うちの孫ぐらいにしか見えないよ」
「ははっ……」
本当に実家に帰ったような安心感に包まれる。思えば、当時は今よりずっと気弱だった俺もこの大家と接するうちに肝っ玉が鍛えられてダンジョンへ行けるようになった気がするし恩人みたいなもんか。
「で、クアゼル。ここには何しに舞い戻ってきたんだい?」
「あ、えっと、ちょっと骨休みに……」
「そうか。なんか事情がありそうだけどね。まあどうせ女関連だろうけどさ!」
「う……」
いちいち鋭い婆さんだ。
「ま、そういうことならしばらくここでゆっくりしていきな。一カ月程度ならタダにしといてやるから」
「えっ……本当に?」
「ああ、クアゼルはうちの常連さんだったからねえ。その代わり、肩叩きだの掃除だのたんまりしてもらうよ!」
「あ、あはは……」
こりゃ普通にこき使われそうだ。タダより高いものはないってよくいったもんだな……。
22
あなたにおすすめの小説
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる