勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

文字の大きさ
14 / 57
第一章

14話 支援術士、応用する

しおりを挟む

「……」

 冒険者ギルド前のいつもの仕事場に戻った俺は、一向に回復しないどんよりとした曇り空を見上げて、何故かアルシュのことを思い浮かべていた。あいつの悲しそうな顔が重なってしまう。今頃どうしてるだろうか……。

「――あなたが【なんでも屋】のグレイス先生ですね!?」
「ん、あ、ああ……」

 俺はやってきた一人の男を見上げて息を呑んだ。で、でかい……。

「遠方の田舎にて、貴殿の評判をお聞きし、ここまで遥々やって参りました。どうか、どうかこれを元に戻していただきたいのですっ……!」

 重装備を纏った大柄な男が出してきたのは、背中に背負っていた丸い盾だった。中央付近に幾つもぱっくりと亀裂が入っていて、今にも崩れそうなもののなんとか持ち堪えてるといった様相だ。

「さすがに【なんでも屋】といえど、こんなものを持ってくるのはどうかと思ったのですが、最早貴殿のところしか頼るところはなく……!」
「やりましょう」
「お、おおおっ、是非お願いします……!」

 涙を流しながらひざまずく男。多少高くつくとはいえ、これだけボロボロなら買い替えたほうがよさそうだが、そうしないのは余程この盾に思い入れがあるからなんだろう。普通なら断るところだが、俺はやることにした。それは偶然にも形見の杖を元に戻したあの出来事が大きく影響している。

 修復術の習得に関しては努力でどうにかなるわけでもなく、望み薄だと思ってたんだが、まぐれでも杖を修復できたことでその手掛かりを掴むことができた。それは物に対する情熱とか思い入れが最も重要だと思いがちだが、実は違う。

 一度形見の杖を違う杖に買い変えようとしたとき、俺は違和感を覚えた。それは、捨てるわけではなかったが変えようと思うことで感じた喪失感、虚無感であり、それこそが修復術の鍵だった。大切なものは失って初めてわかるというが、まさにそれなのだ。本当に失うような状況にならないと修復にはつながらないのである。

 だから失ってもいないものを、たとえ傷んでいたからって新品にしようといくら思ったところで、それは重み、すなわち充分な修復エネルギーには到達しないのだ。

 なので……やりたくないがこうするしかない。俺は丸い盾を持ち上げると、思いっ切り地面に叩きつけてやった。

「あ、ああああ! なんてことをっ……!」
「心配するな、これも回復術の一種だ」

 やたらと頑丈だったこともあり中々崩れなかったものの、何度も叩きつけてやるとようやく盾が真っ二つに割れた。どよめきと悲鳴が上がるが、俺は構わず足で踏みつけ、さらに壊してやった。

「こ、これがあの有名な回復術ううぅぅっ……!?」
「そうだ、その目でよく見ておけ」
「あああああっ!」

 どんどん顔が真っ青になる客。いいぞ、エネルギーを感じる。これこそ、俺が必要としていた修復エネルギーなのだ。

 直したい、戻したい。また以前のように使いたい……。物を人と同じように治療するには、痛みや損失をなるべく大きくするしかないのだ。さらに、物を修復するとき、俺はもう一つ大切なことに気付いた。

 それは、壊れる前の姿をしっかりとインプットしておくこと。見た目だけの話じゃない。使用し始めた頃の手触り、温もり、重み、ありがたみ、新鮮な気持ち……そうしたものは、道具を使っていくたびに色褪せていく。なので、昔使っていた状態についてよく記憶しているほど成功しやすい。

 もちろん、俺も今の状態に触れることで大体は昔の状態をイメージできるが、確実に成功させるには持ち主の記憶に依存するしかない。今回、相手はこの盾に凄く愛着を持っていたようなので成功率もそれだけ上昇するだろう。

「――来た……!」

 盾の残骸をかき集め、俺の回復術を流し込んでいくとまたたく間に元に戻っていった。最後のほうでかなり盾からの抵抗を感じたが、新しくなった杖の威力ゆえか押し戻すことに成功した。

「なっ……なななっ、直ったあああぁぁぁっ……! ありがとうございますううぅぅっ……!」

 大歓声をバックに、盾を赤子のように大事そうに担いで泣き出す大男。よかったよかった……っと、感動が空まで伝わったのか雨が降り出してきたということもあって、俺はここで一旦店を閉めることにした。

「うわ……」

 にわか雨の可能性も考えたが、閉めて正解だった。あっという間に雨粒が大きくなってきたんだ。この状況で客を並ばせたら風邪を引かせてしまうしな。

「……ん?」

 なんだ、一人だけフードを被った小柄な人が、激しい横殴りの雨を受けながらじっとこっちのほうを向いていた。

「あ、あの、もう終わりなんで、明日――」
「――どうしても今日じゃなきゃダメなんです。いけませんか……?」
「え……」

 悲壮感を帯びたか細い声にはっとなる。深い事情がありそうだし、仕方ない。この子だけ治して終わりにするか。これだけずぶぬれになってでも、どうしても治したいものがあるんだろうしな……。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

処理中です...