転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ

文字の大きさ
43 / 78
新しい街

21

しおりを挟む


太陽が真上になりかかった頃に街に着いた。そのまま3人でギルドへと入っていく。扉を開けた音で中にいた人が俺たちの方を見るが直ぐに興味をなくす。それでも数人は俺たちを見ていた。俺たちというより、白銀の獅子と一緒にいたはずのネルを見ている。

「こんにちはキースさん」
「あ、おかえりソラ君、ライド君。それよりその女の子は確か…」
「洞窟探索の依頼終了したので報告に来ました。あとはその時にあった問題についても報告があって…」
「ちょっとついてきて」

キースさんは受付から出るとギルドの2階へと向かった。俺達も後をついて行くと階段を昇ってすぐの部屋に入った。
中は応接室のようになっていて、長テーブルが1つと詰めれば3人ほど座れるソファが向かいあわせで置かれている。片方にはキースさんが座り、反対には俺とライドが座る。ネルにも座るよう勧めたが頑なに拒否されたので今は俺の斜め後ろに立っている。

「ここは防音の魔道具が置いてあるから話してる声は外には漏れないよ。何があったか聞いていい?」
「はい。実はーー」

俺は毒霧の中で白銀の獅子を見つけたこと、その時にはメンバーは既に死んでいたこと、毒消しの魔法でネルを助けたことを伝えた。パーフェクトヒールやネルの奴隷の枷については言っていない。それらを伝えると俺がステータスを偽っていた事を問われるかもしれない。
ネルの枷については会った時には外れていたと説明している。

「概ね事情は把握したよ。彼らは最近問題ばかり起こしていたからね。達成できない依頼を横取りして死ぬのは自業自得だよ」
「それでこのネルなんですが、奴隷主が死んだ場合はどうなるんですか?」
「他の街では奴隷商に連れ戻されr「そんな!!」」
「こらこら、人の話は最後まで聞いて。他の街では奴隷商に連れ戻されることもあるらしいけど、この街には奴隷の売買は禁止しているから奴隷になることは無いよ。枷があった場合はギルド長に頼んで魔力を注いで貰うんだけど枷はないからその必要はないね。
奴隷にはならないけど今後は自分で生活していかなきゃならない。たとえ元奴隷だろうとギルドは手を貸せないからね。大丈夫かな?」

キースさんの言葉にネルはゆっくりと頷く。人間基準でいえば60歳のネルならある程度の事は出来るだろう。けれど見た目はまだ幼いネルが働けるんだろうか。

「私…ソラさん達とおなじ冒険者になりたい…」
「冒険者に?でも冒険者は12歳以上しかなれないからネルちゃんにはまだ早いんじゃないかな」

ネルの見た目はどう見ても12歳以下だ。キースさんかのことは分かる。しかし彼女はなんと60歳。年齢制限なんて軽々超えてるんですよね。

「これでも私60歳です。エルフ族なので…」
「本当かい!?ちょっとステータスを見せてもらっていいかな?」

キースさんは棚の上に置いてあったステータスを表示させる紙を渡す。ネルは紙に魔力を込めるとステータスを表示させた。
そこには俺が鑑定したものと同じものが書かれている。

「本当だ…。しかもハイエルフって」
「ハイエルフで体力が高かったからネルだけ助かったんです」
「なるほど。なぜネルさんだけ息があったのか不思議だったけどそんな理由か」

ネルの年齢が分かってからちゃん呼びからさん呼びに変わってた。さすが仕事の出来るキースさん。呼び方を変えているがネルは気にしていなかった。

「これなら冒険者登録できますか?」
「うーん。一応60歳は超えてるんだもんな。うーん…ちょっと待ってて。ギルド長に確認してくる」

キースさんはネルの表示させたステータスカードを持ったまま部屋から出ていった。残された俺たちはネルのアイテムボックスから取り出した紅茶とお菓子を食べながら戻ってくるのを待っている。

数分もしないうちにキースさんが戻ってくる。手にはステータスカードだけでなく、冒険者証も持っていた。

「ギルド長に確認したら冒険者として認めるそうです。これが冒険者証なので無くさないでくださいね」

ネルは冒険者証を受け取るとアイテムボックスに収納している。冒険者としての説明は冒険者と一緒に回っていたので分かっていると断っていた。

ネルの話が終わると今度は洞窟の話だ。一通り報告が終わると太陽は既に傾き始めていた。

「本当にお疲れ様。3人ともちゃんと休んでね。ソラ君とライド君にはこれ報酬」

袋の中には金貨20枚が入っていた。多すぎじゃないんだろうか。

「あの洞窟は中にいた魔物は弱いかもしれないけど、毒があるから今まで誰も探索出来なかったんだ。そんな洞窟を探索するだけじゃなくて、毒の発生まで抑えたんだ。普通だよ」
「そういうことなら…ありがたくいただきます」

俺は金貨を3等分し、ライドにひとつ手渡す。2枚余ったのはネルの袋の中に入れて、ネルに渡す。

「え、いや、私は依頼を受けていないので貰えません」
「ほとんどネルが魔物を助けてくれただろ。それに魔物避けのお香もたいてくれた。ちゃんとネルも働いたんだから正当な報酬を貰わないといけないよ」
「でも…」
「それにこれから冒険者になるなら初期投資が必要だろ?受け取ってよ」
「わかりました。このご恩は一生忘れません」

深々と頭を下げられる。ネルにあってから何度も頭を下げられているが正直落ち着かない。

キースさんは報告書を纏めると言って一足先に部屋から出ていった。この部屋はあまり使われていないらしく、しばらくここで休んでも良いと言われたので今は休憩中だ。
体力値として下がってはないが、ずっと歩いたことで疲れが溜まっている気がする。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

魔法学校の落ちこぼれ

梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。  しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。 『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。  

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...