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2章
シャリ
しおりを挟むキキン国に着いたのは、夜9時を過ぎたくらいかな。
「ただいま~」
「あ、お父さん、お帰りなさい」
店じまいを終えていて、ハヤテたち男SSは3階でくつろいでいたよ。
ランちゃんも、アンフィニ大司教さんとこから帰ってきている。
またちょっと大きくなった?
図々しくおねだりして、ご馳走になったんだろうなあ。
俺たちスライムは、一日の消費カロリーを大きく越えて食べ物を摂取しちゃうと、肥大するよ。
人間みたいにダイエットで痩せたりしないから、ランちゃんの要求通りに食事を与えないよう大司教さんに言っとかないと、どんどん大きくなり、あり得ないサイズの人間になっちゃう。
まあ、分裂すれば良いことだけど。
スーちゃんとミキちゃんは、ランちゃんの恋話しに夢中だよ。
アンフィニ大司教さん(推定50歳、妻子持ち)とランちゃん(見た目5歳児、中身はボス級スライム)の禁断の恋のね。
いつもなら俺の側でうろちょろする女の子SSたちが、どおりで降りてこないわけだ。
さっそくご飯を炊いてみる。
妹のメグミさんは……?
内区の宿舎に帰ったみたいだね。
じゃあ、俺とヒトミさんのふたりだけ。
なんだか、うれしい。
でも戻らなくていいのかな、ヒトミさん?
『大丈夫ですから』
突然、ヒトミさんが俺の手を握ってニッコリ微笑んだよ。
わざわざ心話で返事するって、ちょっとドキドキ。
「た……、炊きあがった真っ白いご飯は、いい匂いだなあ」
「ほんとです」
余談だけど、ご飯は古米60%と新米40%でブレンドしているよ。
新米だけだと水分が多くて、ベチャベチャするし、脂分が余計なんだよね。
1年寝かして乾燥した古米を加えることにより、新米の余分な水分と油分を消す効果があるわけ。
老舗の寿司屋とかだと、100%古米でシャリを作る店も少なくないね。
だけど、俺的には、せっかくの新米独特の風味と甘味も捨てがたいから、ブレンドのシャリがたぶんベストだと思う。
さっそく大きめの木桶にご飯をうつし、ご飯重量の10%の酢、3%の砂糖、少々の塩を合わせ、うちわで扇ぎながら、しゃもじを大きく動かし、ご飯を切るように混ぜ合わせるよ。
ほら、ご飯が酢を含んでツヤツヤのテカテカになったね。出来上がりだよ。
乾燥を防ぐのに、絞ったさらしをかけておくといいね。
ん?
待てよ……。
アイテム収納庫に入れたほうが良いんじゃないかな。
時が止まる世界だから、投入してから取り出すまでシャリの劣化が停止するよね。
なんだったら、大量のご飯を炊いて酢合わせし、アイテム収納庫にストックしてたら便利だ。
いつでも必要量だけ取り出して寿司をつくれる。
あれ? あれ?
だったら、魚も同じ理屈で保管したらどうだろう。
豊漁のときは魚の相場が下落するよね、大量に買ってアイテム収納庫に入れちゃう。
刺し身になる魚だったら、おろして刺し身に切る一歩手前の短柵(ブロックだね)状でストックだよ。
刺し身まで造ってストックしても良いね。
なにせ、入れた瞬間のまま、何年経過しても高鮮度のままだもん。
冷蔵庫なんか無用だ。廃棄もなくなる。
そうだよ。
なんで今まで気が付かなかったんだろう。
アイテム収納庫を利用すれば仕事が画期的に改善されるぞ。
「すごい……ヒジカタさん。仕事に向き合う情熱、素敵です」
「いやあ~」
考えていること筒抜けなんだもん。照れるなあ。
さっそく真鯛でにぎり寿司を作り、小皿の醤油と一緒にヒトミさんの前へ。
箸の国の人だから、食べ方が上品だね。
ヒトミさんが鼻ををつまんだよ。
ワサビが強かったかな?
「……お……美味しいッ! 酢を使う料理はいろいろあるけど、これは初めてです」
「よかったー」
日本で、にぎり寿司が流行りだしたのが江戸末期と言うからね。
ヴァーチェ国もそろそろじゃないのかな。
「こんな美味しいにぎり寿司……毎日食べたいな」
嬉しいこと言ってくれるね。
だけど、数日後にはヴァーチェ国に帰るんだよね、ヒトミさん。
「できるなら……、……私、……生涯ヒジカタさんの奴隷でいたいです」
「……は?」
奴隷。
「……あっ、ご、ごめんなさいっ。変なこと言ってしまって……」
もじもじするヒトミさん。
鼻血でちゃったよ、俺。
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