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2章
SSSスライム細胞
しおりを挟む「信じて貰えないかもしれませんが、ビンソンはアハートさんを殺そうとしています……」
迷ったけど伝えたよ。
知らないのはとても危険だから。
「そっ……そ、そんな……、ありえませんっ!!」
動揺を隠せない、アハートさん。
「ビンソン様は礼儀正しく紳士的な振る舞いをしておられ好印象でした」
アハートさんの父親が家に招いたりするほどの人物で、アハートさんも手料理を振る舞ったと言う。
ファーストくんを自衛軍の司令官にと強く国王に推薦したのもビンソンらしい。
「賄賂を受け取ったり、特定業者を優遇したり。
いえ、もちろん公務を私欲に利用するのは悪い事ですが、
ビンソン様は殺人依頼なんてするような人では……」
紳士的な振る舞いねえ。
たぶん、お父さんがキキン国王に支持されていたからだろうね。
そうじゃなきゃ、俺の寿司屋で暴言を吐いたりしないよ。
「私はビンソン様を信じております!」
「分かります。
人を疑うのは良くない事だと分かりますけど、
現実にアハートさんの家は燃やされ、逮捕された犯人がビンソンに依頼されたと言っていましたから」
「……、……人違いと言うことも……」
うーん。
けっこう頑固だなあ。
「いいですか、アハートさん!
あなたがなろうとしているのは、キキン国を動かす重要役人ですよ。
信じる信じないじゃなく、少しでも危険と感じたら、全力で身を守らないといけない。
公務を全(まっと)うするだけじゃなく、自分を守るのも公務ですから」
「……そ、そうですね」
アハートさんが少し驚いたような顔をした後、恥ずかしそうに舌を出したよ。
「ヒジカタさんって、意外と立派なことおっしゃるんですね」
あのねー。
俺をどう思ってたったんだよー。
ごめんなさいね、ふふふ、と口に手を添えて笑う。
やがて、肩を落とし遠い目をして窓の外を見たよ。
小さな身体が、やけに悲しそうに見える。
そういや、アハートさんは家財道具全て失ったんだな。
着るものも、お金だって焼けてない。
これから何処に住むんだろう。
家族もいないよ。
ロアンくんの家だろうか。
「あ、あの、よかったら、このパス使ってよ」
近くにあったサルトリーフを体内に入れて加工した物だよ。
「ヒジカタ全店共通・年間バスポート?」
「そう!
今度、キキンの表玄関に建つ店でも使えるよ。
俺の店なら宿屋、寿司屋、魚屋、居酒屋、どこでも1年間無料。
宿屋なら泊まり放題、寿司屋、居酒屋なら食い放題だね。
さっそく今日から使えますよ」
「……凄すぎませんか?
それに、……私の名前が、もう書いてますけど……」
「あー、知人だけに使ってもらう企画なんで」
「……、……ヒジカタさんて、ファーストが剣の作成を依頼したときもそうでしたわね。
嫌な顔ひとつせず、難題を引き受けて下さった。
……お優しい。本当にお優しい方です」
照れるなあ。
アハートさんが擦り寄ってきたよ。
目が潤んでるけど。
熱い瞳っていうの、これ。ちょっとおかしいよ。
顔も火照ったみたいに赤いし、手を伸ばすんだけど。
「ごめんなさい。さっき叩いてしまって。
痛かったでしょう……、紅くなって…………あれ?」
俺のほっぺをペタペタ、にぎにぎ。
あ~あ。
完全に戻っちゃってるんだよね。
不自然だなあ。
「実は、言わずに黙っておくつもりだったのですが。
さきほど眠っていたとき、ヒジカタさんと1つになっていたような。
くすぐったいような、気持ちいいような。
不思議な夢を見ていました」
「そ、そ~なんだあ、へーっ!」
「人間は死ぬ間際に、走馬灯が見えると言います。
全身火だるまの私だから、見たと受け止めていましたが。
本当にヒジカタさんと、繋がっていたと、
そうだったんだと今確信しました」
「えー、そんな、バカな。アハハハ、冗談キツイな」
「瀕死の私を一瞬で完治させる魔法なんて、聞いたことありませんし、
決定的なのは、…………ほら!」
アハートさんの指先が、俺のむき出しの腕に触れた瞬間、お互いの皮膚が、グミ状に変異して吸い付いたよ。
引っ張ると――、
ぷっつん!
ぷにぷに、ぷっつん!
――と分離する。
う~~ん。
全身火傷のアハートさんを包んでイメージしたとき、俺の細胞でアハートさんの皮膚を生成しちゃってたんだなあ。
今のアハートさんの皮膚は、いや皮下細胞もごっそり、SSSスライム細胞。
だから、触れると共鳴するんだね。
「それに、何もしないでいて、この肌ツヤ……みずみずしさ。弾力も」
ぷるんぷるんですね。
「……素敵」
あ、喜ばれてる。
よかったー。
「ヒジカタさんは魔法使いじゃないでしょう。
私たちが知らないような、なにか特別の能力を持っていますね。
剣の作成もそう。
たった一日で新品以上の良剣に仕上げてしまう」
リトルに忘却魔法をかけてもらってもダメだよね。
一時的に忘れても、結局アハートさんの皮膚は変わらないし。
「本当のことを、話して下さい。ヒジカタさん!」
「は……はあ」
困っていると、突然、リトルから連絡が入ったよ。
『ご主人様~。放火犯人のフォールが、亡くなったそうですぅ~』
なんだって!?
さきほど、地下牢の見回り兵が倒れているフォールを発見。
解錠し、容体を確認するまでもなく、心音と脈が無かったそうだ。
死因は心臓発作。
ビンソンの仕業か?
依頼をしくじり、自分との繋がりが発覚するのを恐れて殺害?
証拠を消したわけだ。
魔法……。
稲妻魔法だろうか。
断定はできないけれど、とにかく第3庁舎にもビンソンの息がかかった者がいると考えるべきだろうね。
次は絶対にアハートさんが狙われるぞ。
「アハートさん。
不安かもしれないけれど、疑問はあとでちゃんと説明します」
「はい」
「ただ、これだけは間違いない。
俺は、あなたの味方です!
絶対に守りますから!」
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