SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)

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2章

アシダダムとビンソン

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 ロアンくんを収納庫から出すと、予想取り大騒ぎしたね。
 俺とアハートさんとで、アイテム収納庫の説明。
 俺がスライムだと言うことも。

「いや、あの。そんな。だけど……」

 ロアンくんは気持ちが動転しているよ。
 第3庁舎の地下3階安置所から、1キロ離れた国賓宿舎の豪華な居間に一瞬に移動だもんね。

 それに、やっとツェーン迷宮の結界が強化され、治安が向上したばかり、まさか、知人の家族全員がスライムだったなんて予想外過ぎるよね。
 キキンの民は、今までモンスターが作った刺し身を、喜んで食っていたのかって話しだもん。
 
 他にも、自分の婚約者アハートさんが、説明する側に立っているのも釈然としないみたい。

 なんでそんなに冷静に説明できるんだよアハート!
 みんなも、どうして慌てないんだ? 
 騒がないんだ。
 ヒジカタさんが、スライムなんだぞ!
 ランちゃんも、スーちゃんも、ミキちゃんも、みんなスライムなんだぞおおおお!

 ロアンくんの身体に触れてないので心の声は分からないけど、そんな心境だろう。

 比べると、アハートさんのほうがロアンくんより切り替えが速いと言うか心が柔軟だね。
 この世界も男より女のほうが心が強いのかも。


 30分後。
 
「話しの内容は概ね理解できました。ただし、状況を見守らせてください。
 たぶん、いや、きっとヒジカタさんは今までと変わらないのでしょうけれど」

「ありがとう、ロアンくん」

 ロアンくんは落ち着いてはいる、理屈も分かってる、だけど、心が整理仕切れてないんだね。

 時間をかけてゆっくりでいいから、俺を認めて欲しいよ。
 理想は、キキン国の人たちみんなが俺たち突然変異スライムを認めてくれたら、俺はとても嬉しいね。
 

 ◆


 アシダダムが自白したよ。 

 魔法使いを雇って、アハート家を放火したと。
 俺を暗殺しようとしたことも。

 ロアンくんがそれぞれの動機を訊ねたら、
 以前からアハートさんが気に入らなかった。
 ヒジカタが邪魔だったと言ったね。

 う~ん、どう気に入らないのか具体的に言えよなあ。
 俺はアシダダムの心の声と、ヒトミさんの説明を聞きながら、正直に話すわけないよなあ、と思ったよ。

 アシダダムはビンソン・ギインを頂点とするギイン家の部下の1人にすぎないみたい。
 
 ギイン家は内区の最北、内区では珍しい森林区域に領地を持ち、そこを塀で囲った100平方メートルほどの敷地にガウディ風の城が建つ。
 鉄製の入場門には見張り兵もちゃんといて、
 アシダダムのような部下が50名、
 ギイン家独自の人間離れした体躯の屈強兵士50名――通称ギイン兵を保有している。

 ギイン家自体が小さな国だね。
 キキン国に中によくわからない国があるみたい。
 
 ビンソン・ギインについて、アシダダムが知るのはここまで。
 これ以上は知らされていないわけだ。

 
 ロアンくんが質問を変えた。

「ビンソンさまが依頼主だと? あのお方は無関係だ。すべて俺の一存で行ったことだ!」
 
 依頼したのはビンソンで間違いない。 
 庇(かば)うと言うより、本当の事を喋ると命が飛ぶわけだね。
 
 さて、こうなると、ビンソンの立証が難しいよ。

 他人の心を覗く俺の《異種間心話》やヒトミさんの《心眼》は証拠にはならないし、
 ビンソンから依頼を受けたフォール・ベベはナリオールに殺されこの世にいない。

 もし生きていても、自害するくらい忠誠心が高い? から、証言するはずないだろうね。
 取り交わした契約書や、依頼金(報奨金)の流れが分かる物は、処分されているだろうし。

 
 アシダダムを連れ、ビンソンの内区事務所を訪ねたけど門前払いだったよ。
 何処にいるのかさえ分からない。

「捕まえて連れてきましようか、アハートさん」

 キキンの内区か外区にいるのは間違いない。
 俺が高速で捜索すれば、見つけられると思うよ。
 まあ、たぶん森林区域の城と思うけどね。
 
「ダメよ、ヒジカタさん。捜査許可もないのに、無断で他人の事務所に侵入したら」

 ズキリと刺さるお言葉。
 俺は今まで、勝手に入りまくってたけど。

 ビンソンと話しをするには、キキン城に出勤する道中を押さえるしかないか。
 
『お父さま……。たった今、キキン城を探って来たのですが、ビンソンは不在でした』
 
『ごくろうさん~』

 エースが1分で確認してくれたよ。
 ビンソンの件は今日の事にはなりそうにないね。

「どうするアハートさん?」

「……そうね。
 キキン王に、ビンソンの実態を突きつけたいところだけど、王がギイン家の悪事を何処まで目をつぶっていたのか分からないわ。
 『犯罪は、誰が犯しても犯罪』と筋を通してくれればいいけど、許容されたら厄介ね」

 そうだね。
 ギイン家は代々裏で、キキン国を支えてきた家だよ。
 キキン国の奥の手と言い換えてもいいかも。
 王が寛大に計らう可能性が高いね。

 となると、逆にビンソンを追い詰めようとしている俺たちのほうが悪だね。
 膿を出すつもりが、俺たちの方が膿扱いされたりして。
 まあ、そこまでないにしても、穏便になだめられて終わりそう。

「第3庁舎(警察署)に行き、アシダダムに自首させましょう」

「「「はいっ!」」」


 途中、アシダダムの身体が震えているのに気付いた。

「なあ、ようロアン。牢屋に入るのか、俺?」

「当然だろう」

「牢屋じゃなく、収納庫じゃダメか、ヒジカタの?」

 第3庁舎の地下牢でフォールがナリオールの魔法で殺されたばかり。
 ナリオールは捕まえたけど、ビンソンの怯え方からしてまだ居るんだろうね魔法使いが。
 殺されるかもしれないキキン城の牢獄よりも、暗黒色に渦巻く底なし沼みたいな投入口にダイブする方が安全でマシってことだ。

「アシダダムをどうしましょうか、アハートさん」

「そうね……、このままで……。このまま地下牢に入れましょう」

「え……?」

「そこへ、ビンソンの部下が口封じに来たら、好都合」

「ええええええ!? や、やめろッ!
 お前それでも役人志望かあ。俺は囮じゃねえ。人の命を何だと思ってやがるッ!」

 アシダダムがアハートさんに詰め寄ったけど、ロアンくんに首根っこを引っ張られたね。

「なるほど。しっぽが掴める」

「そう。その通り。ビンソンが狙い通りに仕掛けてくればの話しだけど」

 アシダダムが地下牢に入った。
 同時に俺も地下牢の天井に同化し気配を消し、ビンソンの部下を待つ。
 

 丸一日見張ったけど、何も起きなかったよ。
 エースが庁舎内全員のステータスを調べたが1人も魔法使いはいない。
 
 警戒してるな。
 ほとぼりが冷めたら殺しに来るのだろうか。
 来るか来ないか分からない暗殺者を待ち続けるのは辛いなあ。

『おいでリトル!』

 心の中で叫ぶと、空間の裂け目からリトルが顔を出したよ。
 俺に変わってアシダダムの見張りを頼む。

『もし、デーモンを見つけたら、速攻で俺に知らせるんだよ』

『了解でーす♪』

「お……おい! ヒジカタ? お前何処に行く気だ? 
 ずっと俺を見張るんじゃねーのかよ!」

「俺もいろいろ忙しいんだよね」

「人の命がかかってるんだぞ!」

「まあまあ、見えないだろうが、ちゃんと俺のデーモンがお前を見張ってて、ピンチになったら直ぐ俺が向かうから」

「忙しいって、何がだッ!?」

「魚屋店舗の新入社員の指導とか、
 寿司の新商品を考えたり、
 新店舗の建設現場も顔を出しておきたいし」

「全部、どうでもいい事じゃねーかよ。
 人の命は尊いんだぞっ! 分かってんのか?! かけがえのない命だぞ!」

 よく言えるなあ。

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